バスにのって
香澄はバスに乗り、ICカードをかざした。短くお母さんに手を振ると、
「気をつけて行きな。」
お母さんは、いつもの調子だったけれど、目元が少し赤かった。
香澄は小さく頷いて、そのままバスの中へと進んで行ったけれど、鼻がつんと熱くなるのを感じていた。
座席に座った。
窓はとても曇っていて、外は見えない。
バスが走りだした。
バスの中は、あたたかかった。
座席の下から、暖房の風が出ていて、座っていると、ふくらはぎが温々《ぬくぬく》とした。
香澄は、案外悪くないと思った。
相変わらずバスの窓は曇っていた。
曇った窓に映るのは、ぼんやりとした光だけ。
薄暗い町に灯る街灯や看板の光が、輪郭もぼやけて踊る。それはまるで、マジシャンの操る《あやどる》光る玉みたいに、幻想的で、でもちょっとビカビカしていた。
雨の中、バスは進む。
次のバス停は、
――星が丘
香澄は、聞いたことのない場所に来てしまった。バスを乗り過ごしたのだろうか。
慌ててバスを降りて、辺りを見渡すと、そこは広々とした通りだった。
白い石畳の歩道に、街灯は星明かりみたいな銀色に煌めいていた。雨の音が、オルゴールみたいに、シャララシャララと響いていた。
香澄は立ちすくんで、これからどうしようかと考えていると、ふいに・・・
「お手をどうぞ。」
とても聞き慣れた声だった。顔を上げるとそこにいたのは
――猫のももだった。




