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青空ハウス  作者: aki
2/6

*2.疑惑

**


隣人がめいちゃんの保育園の先生で担任と発覚して、一週間。


相変わらず生活時間が違うみたいで、先生とは合わない日々が続いている。


つまり、いつも通り。



「明日で実習終わりだね~」


お昼休み。


教室の窓際の席をくっつけて女子6人でお昼ごはんを食べている。

同じ学科、同い年。

出身地はみんなバラバラだけど、何となく気が合う6人組。


中でも、入学してすぐ友達になった吉田(よしだ)美紀(みき)とは一番の親友だ。

専門学校でこんなに気の合う友達が出来るとは思ってなかった、なんて言ったら失礼かな。


「実習のレポートいつ提出だっけ?」


美紀が呟く。


すかさず手帳を確認しながら、答えるしっかりものの上村(うえむら)さん。


「来週の金曜日だよ。

計画的にレポート進めなきゃだね。ももちゃん、頑張って」


「…うぅ、がんばる」


上村さんに名指しされたのは、グループの中で一番のんびりしている岸田(きしだ)ももちゃん。

ももちゃんは、県内中部、電車で1時間の距離に実家があるのだけれど、遅刻が心配という理由で学校から徒歩10分の場所にあるアパートに住んでいる。

入学当初から1人暮らし・バイトしたい、という共通点があり今ではバイト仲間でもある。


「きーちゃんも手伝ってね?」


「え、ヤダよ。そういうのは自分でやって」


上目遣いのももちゃんをバッサリ切るクールな木本(きもと)さんこと、きーちゃん。


「そうだよ。分からないところは手伝うけど、まずは自分でがんばろう」


ももちゃんを慰めるのは、優しい優等生タイプの井上(いのうえ)(あずさ)ちゃん。


この春スタートした、週1回の実習も明日で終わり。


レポート提出後は、嬉しい夏休みだ。


今年の夏、何しようかな。

楽しい妄想が頭の中を駆け巡っていった。


   **


7月下旬。


専門学校を運営している法人の関連施設での実習最終日。


夏の日差しがいよいよ強くなり、移動だけで汗だく。


徒歩5分の場所にある施設には、同じ学科の生徒がすでに担当の持ち場に移動していた。


私の担当は、2階の大部屋。


その隣の大部屋は、寿の担当だった。

真剣な顔で実習の準備を始めている寿。


声をかけるのをためらっていると、


「小野くん、ボールペン持ってる?」


ももちゃんが寿に声をかけていた。


ももちゃんの担当は同じ階だっけ?


寿からボールペンを受け取ったももちゃんはお礼を言うと、階段の方へ向かっていった。


ちらり、と私の顔を確認して。


……目が合った、よね。


私の中に良く分からないモヤモヤが静かに広がっていく。


ももちゃんの担当場所、私と同じ階じゃなかった。


実習最終日にして、ようやく気付く友達の担当フロア。


施設からの帰り道、私は美紀と歩いていた。


仲良し6人組のうち、ももちゃんを含む4人は先に学校へ戻っていた。


「ま、偶然じゃない?

いつも忘れ物多いし、何も考えてなさそうじゃん、あの子」


さっきのボールペン貸し借りのくだりを話すと、あっけらかんとコメントをくれる美紀。


「そうかな…

わざわざ、違うフロアの人に借りる?

私、ももちゃんと目が合った気がするんだけど、何も言わずに行くかな?」


「うーん、ももちゃん目が悪いみたいだし、気づかなかったんじゃない?」


講義中はいつもメガネのももちゃん。

そういえば、メガネかけてなかった。

私は目が合った気がしたけど、ももちゃんは見えてなかった可能性もあるわけだ。


私は、ムリヤリ納得した。


**


日曜日。


私の家に寿が来ていた。


レポートを作成している手が止まる。


「ねえ、さわこ」


寿がスマホの画面を見せてくる。


「花火行かない?

この日なら、実技の練習もないでしょ?」


お盆の週末。

車で1時間程の場所で行われる小さな花火大会。


専門学生の夏休みとは名ばかりで。

実際は、実技の実習やテストの日程が予定に入り、前期に行えなかった分の追加講義が盛りだくさん。だけど。

さすがに、お盆休みくらいはあるわけで。


「行きたい!

何着てこう?」


「浴衣?」


お互い顔を見合わせて笑う。


「じゃあ、かわいいの着ていくね」


「マジで!?期待しとくわ~」


こんなのがいいんじゃない?と浴衣を検索する。


そのうち、二人の距離がだんだん近くなって、


レポートどころではなくなった。


  **


レポート提出が終わると、夏休みの日程がエントランスの掲示板に貼りだされた。


8月からの夏休みは、お盆休み以外、実技の練習に実技のテスト、時々追加講義。

9月、前期末試験。

その後、試験の結果発表、必要に応じて追試。


「本当に休みがない!!」


美紀と顔を合わせて、へこむ。


ずーーーん


「うちらには遊んでるヒマはないってことだよ」


悟ったような顔をした上村さんが私の肩をたたく。


「そういえば、試験範囲も見た?

結構エグイよ」


夏休みの予定が掲示してある隣。

これまた、膨大な範囲の試験範囲が貼りだされていた。


ーーー花火、行けるのかな?


  **


夏休み最初の月曜日の夕方。


お姉ちゃんから再び、保育園のお迎えお願いコールがあった。


めいちゃんに会うのはあの日以来。

ついでに、勇二先生に会うのもあの日以来だった。


保育園の園庭では、暑さを知らない子どもたちが元気に走り回っていた。


その中から、めいちゃんを探す私を、先生に見つけられた。


「めいちゃんのおばさん、お疲れ様」


さわやか~に声をかけてくる勇二先生。

相変わらず、緩いパーマの前髪をしばっている。


「おばさんって…

先生より若いと思うんですけど」


嫌みたっぷりに答えるが、どこ吹く風。


「実際、叔母さんじゃん」


「まあ、そうですけど」


ちょっとムカつきながら、めいちゃん探しを続ける。


そういえば、先生に名前言ってなかったかも。


「先生、私の名前、」

「さーちゃん、でしょ?」


名前を言う前に即答される。


「めいちゃんがよく話してくれるよ。

優しくて、大好きなさーちゃんの話。」


「ありがとうございます」


誉められると恥ずかしいな。


てか、めいちゃん、何を話したんだ?

おしゃべり大好きなめいちゃん、ペラペラしゃべってるのかな…

私のことは先生に秘密って口止めしておこう!


やっと見つけためいちゃんは、お友達と一緒に砂場で遊んでいた。

汗と砂にまみれためいちゃんを促し、保育園をあとにした。


実家に着くと、家族総出で出迎えられた。


父、母、お義兄さん、お姉ちゃん。。

みんな家にいるじゃん。

私がめいちゃんのお迎えに行く必要、あった?


私の疑問を他所に、妙にウキウキした父と母が家に入るよう促す。

お義兄さんも明らかに上機嫌。


「ぱぱ、きょうおうちにいたの?」


「ひーみーつー」


「おしえてよー」


めいちゃんとお義兄さんのやり取りを、げっそりとした顔で見ているお姉ちゃん。


「お姉ちゃん、調子悪い?大丈夫?」


心配そうにのぞき込むと、平気、と死んだような声で返答があった。


「いやいや、調子悪いでしょ」


食い下がる私をリビングで呼ぶ声がする。


「とりあえず、説明するわ」


死んだような声と顔の姉に背を押され、リビングへ向かう。


ダイニングテーブルにはお寿司やグラタン、ハンバーグ。

めいちゃんの好きなものばかり並べてあった。


お祝い事でもあったかな、と考えるよりも早くめいちゃんが聞いていた。


「ごちそうだねー。なにかあるの?」


「うふふ。いいことがあったのよ」


取り皿やコップを並べながら、母の声がはずんでいる。


普段はお酒を飲まない父とお義兄さんは、ビールを注いでいる。


「さーちゃんも飲む?」


「私、車だから」


「そうかそうか、ノンアルにしとく?」


「普通にお茶にしとく」


「めい、ジュース!」


オレンジあるよ、と母がめいちゃん用に持ってくる。


ワイワイと騒ぎ出すリビングの隅で、青い顔をしているお姉ちゃん。


今にも吐きそうなかんじで、口元を押さえている。


大丈夫かな、お姉ちゃん……


みんながごはんを食べ始めたころ。


「さわことめいに、大事なお話があります」


青い顔をしたお姉ちゃんが、ついに口を開いた。


「赤ちゃんができました」


お姉ちゃんの宣言に、思わずめいちゃんの顔を見る。


きょとん、とした顔のめいちゃん。


「今日、病院に行ってきたんだよ。2か月だって」


と、お義兄さん。


「おめでとう!!」


パチパチと思わず拍手をしてしまう。

わー、甥っ子か姪っ子がまた増えるなんて嬉しい。


「めいちゃん、おねえちゃんになるんだね」


「めい、おねえちゃん?」


「そうだよ。嬉しいね」


めいちゃんの顔に喜びが広がる。

ようやく事態が呑み込めてきた様子。


「わーい」


素直に喜ぶ一同。

沈む姉。


「……お姉ちゃん?」


「さわこ、ごめんね」


え?

いつも自由気ままで元気なお姉ちゃんが、か弱い声でつぶやく。


「何?私は謝るようなことされてないんだけど…」


ううん、と弱弱しく頭をふるお姉ちゃん。


「これから迷惑をかける、かな」


カレンダーを広げ、頭を下げるお姉ちゃんとお義兄さん。


「お父さん、お母さん、さーちゃん、、

めいの保育園の送り迎えのご協力、お願いします」


それか!!


めいちゃん妊娠のときも、悪阻が重く、入院までしたお姉ちゃん。

今回も悪阻がひどいようで、すでに、普段の生活がままならなくなってきているそうだ。


とりあえず、お義兄さん、父、母、私の予定を確認し、カレンダーにめいちゃんの送り迎えの当番を書き込んだ。


アパートの駐車場に着くと、バイトを終えた寿から着信があった。


『もしもし』


「寿?バイトお疲れ様」


『おう、お疲れ。

さわこは?実家どうだった?』


「やー、それがね。

お姉ちゃん、二人めができたんだって」


『まじか。おめでとう』


電話の向こうで寿の声が弾む。

私が嬉しいと思うことを、一緒に嬉しいと思ってくれているようだ。


車から降りて、玄関へ向かう。


「でね、めいちゃんの保育園の送り迎えを頼まれたの。

……毎日じゃないんだけど」


おめでたいことだから、できるだけ姉夫婦には協力してあげたいけど。

ただでさえ会える時間は少ないのに、この上さらに会える時間が減ってしまうのかと思うと、なかなか複雑な心境になってしまう。


申し訳なさそうに伝えると、寿の明るい声がかえってきた。


『ずーっとじゃないんだし、大丈夫でしょ』


予想外に明るい声に、安心してしまう。

ちょっとでも悩んで、バカみたい。


『それに、ちょうど実技も前期試験もあるし。

お互いそっちに集中しよう!』


「そうだね!

悪阻が落ち着けば、少しは余裕でき、ると思う、し…」


玄関をあけようとして、視線に気づく。

ふと視線の方向を見ると、勇二先生と目があってしまった。


『もしもーし、どうかした?』


変なところで言葉が詰まった私に寿が声をかける。


「あ、ごめん。大丈夫。

もう玄関ついたよ」


『そっか、了解。

おれも今から運転だから、また明日な』


おやすみ、と電話が切れた。


ツーツー音を聞きながら、固まる私。

ボサボサ頭にメガネの完全オフモードの先生は、タバコをふかしていた。


いつもいつも、変なタイミングで会っちゃうな……。


そのまま、家の中へ入ってしまうのも気が引けるので、とりあえず挨拶をしておく。


「……こんばんは」


「こんばんは」


タバコを携帯灰皿に捨てながら、立ち上がる。

お腹が膨らむジェスチャーをする勇二先生。


「さーちゃん?」


「ち、違います!

姉です、あ・ね!!」


電話聞かれてたのかな。

勇二先生は、クックッと笑いを噛み殺して、


「冗談だよ、ごめん」


といたずらっぽく笑った。

デリケートな問題をいたずらですますな。

怒りの拳で先生を殴りたい衝動にかられる。


この野郎、必ずシバく。

怒りを込めて睨むも、先生には響かなかった。


その時、


私のスマホの着信音が響きだす。


「昼間、めいちゃんのお父さんから園に連絡があったんだよ。

送り迎えや行事なんかで迷惑をかけるかもって。

じゃ、おやすみ~」


言いたいことだけ言うと、先生はさっさと家の中へ入っていった。


後に残った私は、慌てて電話に出た。


**


夏休みに入って2日。

昨日から始まった実技の練習。

初日の昨日は、実技のテスト範囲の説明と、練習で使っても良い部屋や時間の説明。


今日からいよいよ練習開始。


実習室には、パラパラと人が集まり出してきた。


1学科40人。

出席番号順で2人1組になってテストを受けることから、だいたいの人がテストのペアと練習をしている。


土日・お盆休み以外はほぼ毎日実習室が使えるので、ペアになった美紀とお互いの予定を確認する。

隣の県出身の美紀も学校の近くで一人暮らしをし、アルバイトと学業の両立をしている。


「練習は10時~16時までってことでいい?」


「オッケー。あ、来週の水曜日だけごめん。

バイトだ」


「夏休みの平日って、休みにしてもらったって言ってなかった?」


実はね、、と経緯を説明する。


8月は夏休みといいつつ、講義や実習が入るのは分かっていたので、平日の昼は休みにしてもらっていたのだけど。

昨夜、バイト先の店長から出勤確認の電話があったのだった。

来週の水曜日の昼間のシフトには、ももちゃんが入っていたんだけど、休みにして欲しいと店長に相談したそうで、、


その日は、お盆の週の水曜日。


いつもいる昼間のパートさんも休み希望を出していて、急には出勤できず。

休み希望を出している学生バイトの子たちも、当然出勤はムリだった。

前月なかばまでに翌月の休み希望を出しているんだから、みんな予定があって当然で。


『お盆の週だから、絶対忙しいよ~

みんな予定があって出勤できないんだって~

どうしよう~助けて、さわこちゃーん』


と、昨日店長に泣きつかれたら、強い意思で


『ムリ』


とは言えなかった。


ちょうど予定もなかったし…

いや、勉強する予定はあったけど。


そんなわけで、私が出勤することになったのだった。


「それ、ももちゃん自分勝手すぎない?

この前もそうじゃなかった?」


「…そう」


ももちゃんの急な勤務変更は、今に始まったことではなかった。


美紀は、ありえない、と目をみはっている。


同意。


急な勤務変更なんて、よっぽどの理由がない限り迷惑だよね。


「その週は、お盆休みだからどっちにしても実技の練習はできないね」


お昼。


私は美紀と一緒に食堂へ来ていた。


とりあえず、空いている席を探す。

夏休みの割には、結構な人数の学生が来ていて。

特別講義があったり、実技の練習があったり、試験の勉強、レポートの作成とみんな何かと学校へ来る用事があるみたい。


ガヤガヤとしている食堂の窓側に空いている席を見つけて、美紀と向かい合って座る。

美紀の目の前には、湯気がもくもくと出ている担々麺。


『この暑いのに、、

よくもまあ、そんなに熱いのが食べれるね』


後ろから声がかかる。

声の主は、同じ学科の川村(かわむら)あいなちゃんだった。

長い髪をラフにまとめたあいなちゃんは、私と同じ冷やし中華を頼んだみたい。


「二人とも、隣いい?」


どうぞ、とジェスチャーする美紀。

そして、

「私、熱いの好きだからいいの」

と、笑う。


「今日は、他の4人は?」


「教室でお弁当食べるって。

ももちゃんは、お昼忘れたから一度帰るんだって。

そういう、あいなちゃんは?いつものメンバーは?」


「みんな、今日休みだよ。

バイトだったり、デートだったり」


あいなちゃんは、年も普段仲良くしているメンバーも違うけど、気さくな性格で割と仲良くさせてもらっている。

同じ学年だけど、実は2歳年上。

私の通う専門学校は、社会人経験後入学した人や大学卒業後資格を取得しに来る人が多いので、現役生は想像より少なかったりする。そして、留年生も以外に多い。

あいなちゃんは、高卒後、お金を貯めてから専門学校に入学したという苦労人。


あっという間に担々麺を食べ終わった美紀が、食後のデザートにとアイスを買って戻ってくる。


「まだ食べるの?」


その細い体のどこに入るのか。

スレンダーな美紀は、お腹をポンとたたくと、余裕、とVサインをした。

そんな私は、冷やし中華が半分食べ終わったところ。


スマホをチェックしていたあいなちゃんが、そういえば、と話し出した。


「そういえば、ももちゃんの連絡先分かる?」


「どうして?」


「私、実技テストのペアがももちゃんだから、今日から練習してるんだけど…

ももちゃん、約束した時間になっても来ないから連絡しようと思って、連絡先知らないことに気づいたんだよね」


あはは、と困ったように笑うあいなちゃん。


結局、約束よりも30分程遅れてきたももちゃん。

遅刻やなんかのときに連絡先知らないと今後不便だから、と連絡先を聞くと


『今日、スマホ忘れちゃたからまた今度でいい?』


と言われたそう。


そのいきさつを聞いた私たちは、


「それ、自分の番号教えるか、あいなちゃんの番号聞けばよくない?」


と声をはもらせた。


「というわけなので、午後何時に学校戻ってくるか聞いてもらえる?」


お願い、とあいなちゃん。


「え、

ももちゃん、何時に戻ってくるか言わなかったの?」


「あれ?

午後バイトじゃなかったかな?」


予定を確認する私。

バイトのシフト表によると、15:00~ももちゃんの予定になっている。


「やっぱり、ももちゃんシフトに入ってるよ。15時からだから、一旦学校戻ってくるのかな?」


ピロリン


「ももちゃんからメッセきたよ。

13時半くらいに戻ってくるって。

てか、あいなちゃんに連絡先教えていいって言ってるから教えるね!

あいなちゃんの連絡先も、ももちゃんに教えていい?」


美紀がスマホを見ながらあいなちゃんに質問する。

あいなちゃんは二つ返事でOKする。

メッセージを美紀が作成している間に、ももちゃんの連絡先をあいなちゃんに教えてあげる。


「ありがとう。さわこちゃん、美紀ちゃん。

ももちゃんに連絡してみるね。」


ニッコリ笑うあいなちゃん。


どういたしまして。


その後。

あいなちゃんがももちゃんに送ったメッセージは既読にならず、

電話もつながらなかったけど、

美紀のメッセージには、すぐ連絡があったし……


タイミングが悪かったかな?と私たちは思うことにした。


食堂で実技の教科書を確認した私たちは、13時半に実習室に戻った。


午後の実習室に人はまばら。


まだ、ももちゃんは来てないみたい。

梓ちゃん、きーちゃん、上村さんもまだ来てないから、みんなで来るのかな?


ももちゃんが戻ってくるまで、美紀とあいなちゃんと実技の練習。


時計が14時になる頃。

ももちゃんは梓ちゃんたちと一緒に実習室へ戻ってきた。

実習室へ入るなり、ももちゃんはパタパタと私たちのところへ走ってきて。


「遅くなってごめんね。

連絡しようと思ったんだけど、急いだ方が早いかと思って…」


と謝りだした。


一生懸命謝る姿に、あいなちゃんは


「大丈夫だよ。

ただ、今度遅くなるときは、先に連絡して欲しいな。

連絡がないと心配しちゃうし」


と声をかけて、にっこり。

涙目のももちゃんも、つられてにっこりする。

二人はそのまま実技の練習を始めた。


その様子を見ながら、こそっと梓ちゃんがささやいてきた。


「川村さん、怒ってないみたいでよかった。

ももちゃんがね、今朝、川村さん怒ってたって言ってたから、午後来るとき緊張してたみたい。」


「え、そうなの?」


「うん。

お昼には、何回か川村さんから電話があって困ってたみたいだよ。


とりあえず、一緒に練習できてるみたいだし、一安心かな」


良かった良かった、と梓ちゃんは笑う。


事態が把握できず、あいまいな返事をしておく。


あいなちゃん、お昼のときは怒ってる感じはなかったけどな。

むしろ困ってたのは、いつ来るのか分からないももちゃんを待ってたあいなちゃんの方じゃないかな。


ももちゃんとあいなちゃんとのやり取りに何か誤解があったのかな?


私の心に小さな疑問が浮かんだ。気がした。


 **


いよいよ世間の皆様も夏休みに突入した頃。


私は朝からバイトへ向かっていた。

ももちゃんと急遽シフトが変わった水曜日。


平日のこの時間は、昼間のパートさんと店長、社員さんが働いているんだけど、お盆の1週間は稼ぎ時。

バイトも戦力に加わって頑張ります。

今日のメンバーは、店長、社員の工藤さん、昼間のパートで一番温厚な鈴木さんと私。お昼からは、一緒にバイトを始めた同い年のサホがシフトに入ってたっけ。

普段はパートさんとも他のバイト仲間とも、仕事時間が被らないから、今日は朝からちょっとウキウキ。


「おはようございます」


バックヤードから店内に入ると、開店準備が始まっていた。

バイト先は、ショッピングモールに入っている『お持ち帰り専用 寿司屋』。


タイムカードを押すとき、シフト表が目に入った。


ももちゃんのシフト、かなり変更が多いな。

休み・遅刻の記載が多い。

その分、他のバイト仲間やパートさんにしわ寄せがいっている様子。


そんなものを見てしまったために、何だかモヤモヤした気持ちで仕事がスタートした。


ちょっと遅めのお昼休憩が終わると、バックヤードで昼出勤のサホに会った。


「お疲れ。

昼休憩終わり?」


うん、と頷く。


サホは周りをキョロキョロ見回してしてから、声を潜めて言った。


「仕事前にアレなんだけど。

岸田さんって学校でどうなの?」


え?と目を見張る。


「前から遅刻とか欠勤がちょいちょいあったでしょ?

でも、最近、試験とかレポートとかで直前にシフト変更の相談があって、かなりひどいよ。

ここって、休み希望出しやすいけど、それにしても自由すぎない?

学校そんなに厳しいの?」


どうやら、直前のシフト変更の理由を学校のせいにしているみたい。


「しかも、この前の火曜日、急に岸田さん休むから私1日勤務になったんだよ。予定あったのにさ~

パートの鬼頭(きとう)さんも一緒の日で、二人で文句言っちゃったよ。」


この前の火曜日…

夏休み2日目で、あいなちゃんがももちゃんの連絡先を聞いてきた日。

ももちゃんは、夕方まであいなちゃんと実技の練習をしてたっけ。

バイト、休んだんだ。。。


「鬼頭さん、めっちゃ怒ってて怖かったよ」


パートの鬼頭さんは、パートさんの中で一番仕事歴が長く、気の強いおばちゃんでリーダー的存在。

揉めるとやっかいだ。


「店長もさ、今度急なシフト変更頼んできたら対処するって言ってたけど、どうなるのかな~」


「どうかね~。

来月はうちの学校、試験だからな。

試験日程確認して、計画的に勉強すればよっぽど学校関係は大丈夫じゃないかな」


「そうだといいね」


私たちは苦笑いをした。


夕方の買い物客が多い時間。

私はレジに立っていた。

レジをやりつつ、商品ケースに並べられた商品をキレイに陳列しなおす。


「寿司食べよ~

オレ、鉄火巻きと~納豆巻きと~かっぱ巻き!かんぴょうも好き~」


全部巻物じゃないか!

タラタラとした口調につっこみを入れたくなる。

チャラそうな格好をした声の主は、なおもしゃべっている。


「お寿司もいいけど、デザートもいるかなぁ?」


「そんなに食べるのか?

つまみも結構買ったけど」


チャラそうな人の後ろから買い物袋をぶら下げた勇二先生がやってきた。

お寿司を選ぶ先生と目があった。


「バイト?」


「……そうです。」


おずおず、と手をあげる。


バイト先がバレてしまった。


特に何もないけど、バイト先に知り合いが来るのって変に緊張する。


「あー、噂のさわこちゃんじゃん!」


オーバーリアクションでチャラい人が言う。


「え、誰」


私が一歩後ずさると、


「こいつ、保育園のコーキ先生だよ。

中尾公輝(なかお こうき)。」


勇二先生が答える。


え?公輝先生?


私は記憶を辿る。

こんなチャラい先生いたかな?


「あー、メガネないから分かんない系かな?」


そう言いつつメガネをかける。


メガネの先生、いたかな?


私がまだ分からない、という顔をしているので、

ワックスでふんわりまとまった髪を手で抑える公輝先生。


「あー、思い出した!

七三分けっぽいメガネの真面目そうな先生!」


私の記憶の中の公輝先生と、今目の前にいるチャラ男が合致した。


「公輝先生って、OFFではチャラいんだね」


「え、オレいつでも真面目系よ?」


いやいやいや、とつっこむ私と勇二先生。


と、そこへ。


「お知り合いですか?お安くしときますよ。

ハイ、2割り引き。」


2割り引きシールを持ってサホが出てきて、シールを貼った商品を渡す。


「マージでー!

やった!!えー、うれしい」


テンションが上がる公輝先生。


「いや、朝作った商品に貼ってるだけですから。同じ時間に作った他のお寿司も割り引きだから」


すかさず、つっこむ。


「えー、それでも嬉しいじゃん。

じゃあ、いっぱい買ってこ~」


そう言って、巻物ばかりかごに入れた公輝先生は、かごを勇二先生に押し付ける。


「まっつんも食べたいの入れな」


「これ、払うの俺だよね?」


「そうそう。

お酒はオレが払ったからね!

お寿司はよろしく~」


自分の分を選び終わった公輝先生は、ルンルンと歩き出す。


「先、車行ってるね~

さわこちゃん、バイト頑張ってね~

ばいばーい」


はぁ、とため息をつくと、勇二先生は握りのパックと公輝先生に押し付けられたかごをレジに出した。


「お会計よろしく」


「はい、ありがとうございます!

てか、先生たちって仲良いんですね」


「あー、あいつとは学生時代からの付き合いだから」


お金を出しながら答える勇二先生。


「なるほど」


私からおつりとレシートをもらうと先生は、じゃあバイトがんばれ、と手をひらひらさせて帰っていった。


その姿を少し見送ってから、次のお客さんの接客をした。


先生が帰ったあと、混んできたレジ仕事を終えると、今度はサホと鈴木さんから質問攻めにあった。


「さっきのイケメン2人組は誰なの?」


「どういう関係なのよ」


二人の質問を一通り聞いてから、先生と知り合った経緯を説明する。

その流れで、めいっこの保育園の送り迎えをする時があることを伝える。


「ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」


ぺこり、と頭を下げる。

すると


「大丈夫よ~

さわこちゃん、バイトのドタキャンも遅刻もないじゃない。少しくらいそういうのあっても大丈夫よ~」


朗らかに笑う鈴木さん。


「そうそう。さわこのせいじゃないんだから。今のうちにお姉ちゃん孝行しときな」


「サホちゃんの言う通りよ。

岸田さんみたいじゃ困るけどね~」


温和な鈴木さんがチクりと嫌味言う。

思ってもみなかった発言に、ビックリしてサホを見る。

サホもビックリしたようで、ちょっと固まっている。

思わず、二人で顔を見合わせてしまった。


帰宅すると、先生の家の窓から明かりが漏れていた。

隣の隣、私の部屋は真っ暗。

車から荷物を下ろしていると、陽気な声が聴こえる。


「さーわこちゃん

おかえり~」


勇二先生の部屋の窓からテンションマックスの公輝先生が顔を出した。


「一緒にのむ~?」


完全に酔っぱらっている公輝先生。

手にはビールとおつまみ。


「いやいや、飲みませんから。

てか、先生、明日仕事じゃないんですか?」


保育園は、お盆期間でもやっている。


「明日はねー、ふふふ

なーんと、遅番なんだな~」


「オイ、公輝。近所迷惑。

これ食べておとなしくしてろ」


しゅうまいとともに公輝先生を部屋に引っ込めた勇二先生が出てくる。


「お疲れ。

公輝がうるさくて悪いな」


「いえいえ」


「寿司、ご馳走さま。

美味しかった」


「それは、良かったです。

…公輝先生、保育園と全然雰囲気違いますね」


「人には違う一面があるって?」


「そうそう。

公輝先生の場合、真面目からチャラいの振り幅がすごくてビックリです」


思わず笑ってしまう。


 **


お盆休み、最終日の日曜日。花火大会当日。


花火会場は、多くの人で賑わっている。


花火まであと1時間。


寿とのんびり散策する。


たくさんの屋台、人人人。


「晴れて良かったな」


「そうだね。

お盆休み、なかなか会えなかったから、今日花火来れて嬉しい」


私がほほ笑むと、寿もにっこり。


「浴衣、かわいい」


照れる。


お盆休みは、お互いバイトがあって、

予定の合う日は一緒に図書館で勉強をしたりもしたけれど。


ゆっくりデートするのは久しぶりかも。


射的や金魚すくい

イカ焼きやりんご飴

いろいろな露店が軒を連ねていた。


「イカ焼き食べよ」


「私、かき氷がいい」


お互い好きなものを買って、

それぞれシェアして。


いつの間にか、花火が見える場所まで来ていた。


時間を確認する寿。



ひゅ~


ドオオン



花火が夜空に打ち上げられた。


周りが一斉に空を見上げる。


「キレイ」


どこからか感嘆の声が漏れる。


周りと同じように、私も夜空の花を撮る。


「うーん、上手く撮れないなあ。

写真撮るの難しいね」


「だな」


答えながら、寿はスマホの画面を確認している。


「どう?撮れた?」


私が寿のスマホを覗くと。


メッセージのやり取りが一瞬見えた。


「全然ダメ。

やっぱり見るのが一番だよ」


寿はスマホをズボンのポケットにしまうと夜空を見上げた。


え?

今の画面…


『いつ会える?』

『また会いたい』


まるで恋人同士かのようなメッセージに、

見たことのあるアイコン。

名前は、『キシダさん』。


まさか。


暑いはずなのに。


背中に冷たいものが伝わる。


「…そうだね」


私は笑顔が固まるのを感じた裏側で、勇二先生の声が響いた。


『人には違う一面があるって?』


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