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青空ハウス  作者: aki
1/6

*1. 隣の住人

**


暗い中にほんのり夏のにおい。


「じゃあ、また明日」


そう言うと、彼は私に軽くキスをした。


付き合って半年。


一通りのことは大抵すませた。


けど。


別れ際のキスはちょっと切ない。


お互い学生だから、平日は学校で会って、休日は予定次第。


彼はにっこり笑って私を部屋に入るよう促す。


私もゆっくり笑って彼を見送る。


道路に背を向ける形で建っている平屋のアパート。

テラスハウス、長屋、ともいうけど。

3軒連なっている建物が敷地内に3つ。

私の部屋は道路側の一番端にある。


玄関から出て、道路側に回ると駐車場。

車がないと生活が不便な地域のため、一部屋につき駐車場1台がデフォ。

隣が空き部屋のため、隣が入居するまでの条件で借りている駐車場に彼の車が停めてある。


彼の姿が見えなくなって、玄関を閉じようとした私の視界に人影が写った。


テラスハウスの奥には、私の住んでるA棟の駐輪場がある。

手前に私の自転車、奥に大きなオートバイ。


そのオートバイの前で煙草を吹かしている男の人。

眼鏡でボサボサ頭なのに、整っている顔立ち。

ちょっと長めの前髪をかきあげながらこっちを見ている。


眼鏡の奥がにやっと笑う。


……見られてた?


恥ずかしい!


そう思いながら、そっと玄関を閉じた。


          **


翌朝。


学校から徒歩3分の場所に借りている駐車場で彼と待ち合わせ。


私のアパートから車で10分。

彼の実家から車で20分の位置にある医療系の専門学校。

学校の近くにはいくつか駐車場があり、借りている学生も多い。

最寄り駅まで徒歩15分、学校と駅間の巡回バスも出ている。


私たちはそこの2年生。

専門学校は3年制。この間にみっちり知識と実技を覚えて、3年生の冬に国家試験に臨む。

四年制の専門学校や大学もあるのに、あえての3年制。

遊んでるヒマなんてないのだけど。


「おはよ」


彼と一緒にこの3年間、頑張るのだ。


「さわこ、昨日はごちそうさま」


さわこ、と呼ばれ、私、湯木(ゆぎ)さわこはにっこり笑う。


「お粗末様でした。また作るね、カレー」


お互い、顔を見合わせて微笑む。

彼、小野(おの)寿(ひさし)と校舎まで他愛のない会話をし、エントランスでそれぞれのロッカーへ向かう。



さて、講義に向かいますか。




放課後、駐車場で寿と待ち合わせてから、バイトまでの数十分他愛のない話をして過ごすのが最近の日課なのだけど。


「ごめん、今日早く帰るね」


「何かあった?」


心配そうな寿。


「お姉ちゃんから連絡があって、めいっこのお迎え頼まれちゃったの」


午後の講義が始まる前、姉から連絡があったのだ。


一回り歳の離れた姉は、6年前に結婚しバリバリ働く一児の母。

これまでにも時々、お迎えを頼まれている。


「そっか。

…でも、ちょっとだけ……」


寿が手を伸ばす。


その手が私を捕まえて、車内に引き込まれる。

明るいし、他の学生も利用している駐車場だから過度なスキンシップはしないけど。


昼間の熱気が籠った車内に生ぬるいエアコンの風が吹く。


「めいっこのお迎えの後は会える?」


いつの間にかつかまれた手は恋人繋ぎに変わっている。


「夜もムリかも。実家にめいっこ送ってくから何時になるか分からないんだよね」


しゅん、と寿の顔が悲しくなる。


「りょーかい」


会いたかったなぁ、と小さい声が続く。


その声に、胸がきゅんと締め付けられる。


「明日は大丈夫だから」


にっこり笑うと同時にスマホのアラームが鳴った。


めいっこ、めいちゃんのお迎えの時間だった。



学校から車で13分、私のアパートから車で3分の距離にある公立の保育園。


保育園の門をくぐると、子どもたちは園庭で遊んでいた。


めいちゃんは、どこかな?


同じ体操服を着た園児たちがいるなか、

園庭の隅にある鉄棒で遊んでいる女の子たち。

一生懸命逆上がりをしている。

一人が、地面を蹴って、くるんと回る。

二つに結んだ髪がゆれる。


「めいちゃん」


声をかけると女の子たちがこちらを振り向く。


「さーちゃん!

きょうのおむかえ、さーちゃんなの?」


「そうだよー

ママの代わりに来たよ。帰りのお支度しようか?」


はーい、と答えるとめいちゃんは園舎へ入っていった。


その姿を追いつつ、近くにいる先生に挨拶をする。


「めいの叔母です。お迎えにきました。」


「はい、ご苦労様です。めいちゃん、良い子にしてましたよ」


緩いパーマのかかった前髪をゴムで縛った男の先生。

にっこり笑って、


「さようなら」


私は、ぺこりと頭を下げて、めいちゃんの後を追った。


保育園の駐車場に着いた頃、お姉ちゃんから連絡がきた。


『体調悪い

母帰宅まで、頼む』


普段は絵文字満載なメッセージ。

電報かと思うほど、簡潔なメッセージの内容から、体調がマジで悪いことが伝わる。


2年前義兄の転勤後、実家で同居することになったお姉ちゃん家族。

共働きの姉夫婦、実家の父母も現役世代。


今、時間があるのは私だけ。


「めいちゃん、お母さん調子悪いんだって。

ばあばが帰ってくるまで、さーちゃん家で遊ぼうか?」


「うん!

さーちゃんだいすき!!」


めいちゃん、めっちゃ笑顔。

かわいい。


夕方6時半。


お腹が空いたと言うめいちゃんとカレーを食べ、お風呂に入れようか悩んでいたところ。

母帰宅、の連絡がきた。


「めいちゃん、ばあば帰ってきたって。

お家帰ろうか」


「はーい」


良い子のお返事をしためいちゃんは、保育園の荷物をまとめ、玄関へ向かう。


わがままを言わず、ぐずらず、楽しく私の家で遊び、帰るときも素直。


よくできた姪だわ…


何度か預かっているが、毎回トラブルもなく、よくできた姪に感心してしまう。


「さーちゃん、いくよー」


玄関を開けためいちゃんに急かされる。


「はいはい、おまたせ」


その時。

玄関の前を一台のバイクを押した人が横切った。


「あー」


バイクを見ためいちゃんが駐輪場へ駆け出す。


「ちょ、めいちゃん!」


慌てて後を追う。


「こんばんわー。なんでここにいるの?」


駐輪場にバイクを止める男性に遠慮なく話しかけるめいちゃん。


私の隣は空き家。その隣に住んでる人だと思うけど、面識ははっきり言って、ない。


引っ越しの挨拶をして以来、この住人とは生活時間が違うのか顔を合わせたことはめったにないのだ。


変な人だったらどうしよう。

昨日のアレ見られてたし。てか、トラブルになったら困る。


「めいちゃん…」


慌てて止めるが、お構いなしのめいちゃん。


男性がヘルメットを脱ぐ。

緩いパーマのかかった前髪をゴムで結んでいる。


あ、保育園で会った…


「ユージせんせい!

いまかえってきたの?」


めいちゃんの通う保育園の松本(まつもと)勇二(ゆうじ)先生だった。


「…あ」


ヘルメットを脇に抱えた勇二先生と目が合う。


一瞬、お互いが固まったのが分かったが、光の速さで平静を装う。


「めいがいつもお世話になってます」


「あー、めいちゃんのおばさんでしたか。

こちらこそ、いつもお世話になってます」


さわやかスマイルの先生。

昨日のボサ髪を見てからのこのギャップ。


今年の4月、めいちゃんの担任がイケメンだってお姉ちゃんが騒いでたのをふいに思い出した。


……ちょっと、シャクにさわるかも。

おまけに、おばさんって強調されたような気がするのもムカつく。

確かに叔母だけど。


「じゃあ、めいちゃん

また明日ね。」


おやすみ~とさわやかに先生は自宅へ消えていった。


先生が消えてから、小声でめいちゃんに確認する。


「めいちゃんの担任って、勇二先生なの?」


「そうだよ~

あと、レイコせんせい!」




隣の住人は、、


先生だったのかーーー‼




(正確には隣の隣だけど)


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