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日替わりメイド 〜五人のご主人様たちの純愛と狂愛と、囚われメイドの秘め事〜  作者: 音那 憂
第2章 支配の中で芽吹くもの

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第12話 監視者としての責任

 蓮巳千尋という男は怪しい。嘘と真実を使い分け、嘘が真実であるかのように思考させる。記憶を改竄し、自分の都合の良いものへと上書きさせる。あたかも、相手自身の意志でそうさせたのだと思い込ませる。甘い言葉と優しさを種に、地に毒の花を撒き散らし、枯らせるのを楽しんでいる。


 天海はそんな蓮巳が嫌いだ。莉子はこの屋敷に来たとき、自分が一番知っている存在であり、唯一の“壊れない”存在だった。当初は壊す気でいたが……莉子は天海の最後だ、そう確信している。

 天海財閥の頂点に立つ父親は、天海に全てを託している。それは天海にとって誇りだった。

 

 “十二番目の少女計画” 今度こそ、成功させる。

 

 そのためにも、蓮巳という存在が邪魔だった。蓮巳の言動で変わってしまう莉子本来の表情、仕草、癖、思考、記憶、感情……全てが奪われていくことが許せなかった。


 自分だけのものだと思っていたのに――。





「朔様、朝食をお持ちしました」

「入って」


 莉子が今週もやってくる。本当は、毎日莉子の姿を、直接この目で観察していたい天海だった。

 天海はテーブルに朝食を並べる莉子の所作、全てを目で追っていた。


「あ、あの……」


 莉子が困った様子で天海を見ていた。テーブルには、全ての食事が揃えられたのに、天海が手をつけないので、戸惑ったのだろう。

 そんな表情さえ、1秒たりとも逃さずに記録しておきたい、天海はそんな衝動を抑え込む。


「ああ、なんでもないよ」


 天海が監視をしていると公言しても、逃げ出すことなく、怯えながらもこの屋敷で生き延びる方法を模索し、上手く立ち回っている莉子。とても貴重な存在であり、今後もこれ以上の逸材には出会えないだろう。


 天海はフォークを握ると、ゆっくりと食事を始める。洗礼された美しい所作に、莉子が見惚れるのがわかる。


 (素直で単純だね。僕を無意識に目で追っている。そう、そのまま、ずっと僕にだけ見せる顔を見せて)


 天海はフォークを置くと、莉子の方を向いて薄く笑う。


「昨日の夜、疲れてメイド服のままベッドへ横になってたでしょ。服に皺ができちゃうから、やめた方がいいよ」

「……っ」


 ハッとした様子で丸くてタレ目がちな目を見開くと、すぐに色白の肌が青ざめていく。でも、頬と唇の血色感は消えない。莉子は驚くと、まぶたがぴくりと二度震える癖がある。そして、3秒後に眉が寄り、3.7秒後に薄く唇を開ける。花弁のような唇の隙間から、少しの吐息が漏れる。驚きから恐怖へ変わる時の、いつもの莉子の表情だ。


「あと、金曜日、蓮巳に心を操られてた。自覚ある? ああいうの、嫌いだからやめてね。“誰のものにもなるな”って言ってるでしょ」

「えっ……ご、ごめんなさい……気をつけます……」


 莉子はこの命令に弱い。初めて会った時からそうだ。異常に心拍数が上昇し、脳波に乱れが出る。


 (……何か、この言葉に関するトラウマのようなものを抱えているのだろうか。それとも、契約時に、強く指示された?)


 天海の知らない莉子が存在することに、かすかな苛立ちを覚える。


「まあ、いいよ。今日は一緒に登校しよう。僕の車に乗って」

「えっ、でも……」

「嫌なの? あんたに拒否権なんてないでしょ」

「……わ、わかりました」

「じゃあ、準備して。ご馳走様」


 天海は、食器を片付けて一礼し、部屋を去るまでの莉子の様子を目で追う。焦っているのに丁寧で、柔らかな動き、それでいて手早い。自分では気づいていないようだが、その所作は完璧なメイドのそれだ。


「完璧な僕の道具……やっぱり、あんたが僕の最後のメイドだ」





「あ、あの、私……」


 牛革のシートに、控えめだけれど高級感漂う銀色に縁取られた内装。エンジン音が聞こえないほどの静かな車内で、莉子は天海の隣に座り、学園へと向かっていた。


「ああ、大丈夫。他の生徒に見られないように、あんただけ少し手前で降ろすから。帝真みたいに見せびらかすほど、僕は馬鹿じゃないよ」

「あ、ありがとうございます……」


 天海が学園に登校すること自体、珍しい。ほとんど授業に出ることはなく、いつもは屋敷で本を読んでいる。それでも学園側が何も言わないのは、天海財閥の既得権益なのだろう。


 天海は、頬をついて窓の外を見ていた。曇り空の隙間から、太陽の光が薄く差し込む。栗色の瞳に、光が当たり金色に変化した。珍しい瞳。美しくて、幻想的だ。


「どうしたの? 3.5秒、僕に見惚れてた」

「っ、なんでもないです……」


 天海はいつも近くにいると、こうして細かいところまで観察をしてくる。莉子にとってはすごく居心地が悪い。……でも、なんとなく悪意を感じられない、そんな気がしていた。ただ面白がっているだけ、莉子の反応を。


 (それも、どうかと思うけど……)


 ふと、莉子は窓の外を見ると、神城が花壇沿いを歩いていた。思わず身を乗り出し、神城を目で追う。神城が徒歩で登校するなんて、珍しい。手にはビニール袋が握られている。


 (今日は午後から雨が降るのに、傘を持っていなかった。どうしよう、私だけ屋敷に一度戻って、帝真様の傘を取りに……)


 そう思っていると、天海の手が莉子の両目を塞いだ。


「何見てるの。今日は僕の担当でしょ」

「わっ、ごめんなさい」

「帝真は最近、歩いて通学してるよ。別に珍しくない」

「そ、そうなんですね……」


 不機嫌そうな天海の横顔に萎縮する。今日は天海の担当だ。曜日の垣根は越えないよう、しっかりしないと……と莉子は自分に言い聞かせる。


 莉子は不甲斐なさを感じ俯いていると、突然、制服のシャツの襟をつかまれた。


「きゃっ」


 天海が莉子のシャツのボタンを一つ外して、じっと見ている。かと思えば、何かを怪しむように、スカートをめくろうとしてきた。


「や、やめてください……!」

「あっ……ごめん。なんか、違和感が……いや、なんでもないや」


 そっと莉子から手を離すと、考え込むように天海は視線を戻した。


 (な、なんだったんだろう……)


 莉子は外されたボタンを、ゆっくりと締めた。





「あれは……」


 天海は、屋上の塔屋の日陰に寝そべり、スマホで屋敷のパソコンを遠隔操作していた。

 莉子の制服に付けられていた、小さなタグ。莉子は気づいていないようだったが、微細なタグが、大量に埋め込まれていた。


 (もしかして、体温や脳波を測るためのものか? ハッキングした装置には、常に体温や脳波のグラフが表示されている。でも、あそこまで異常な数のタグを付ける必要はあるのか……恒常性や脳波を操るわけでもあるまいし)


 莉子のメイド服に、タグがついていることには気づいていた。見えない内側にも、制服と同じように大量のタグが付けられているかもしれない。財閥の技術を使えば、衣服の繊維にそういった装置を埋め込むことは可能だ。


 しかし――そこまでする目的がわからない。


 屋敷の閉鎖性、監視カメラの多さ、廊下に付けられた足跡……天海は、見えない何かに、追われている気がした。


 (皮肉だな。自分が一番の監視者だと思っていたのに、それを超える何かが存在している気分だ)


「ふっ……利用してやる。あの子は僕が最後まで見届けるんだよ」



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