銀河超特急かぐや姫エクスプレス
記念リクエスト企画で執筆 原案:あやの様
「はー、FIREって最高だわ」
月面コロニーにある草原にごろりと大の字に転がり、輝夜は空を仰ぎ見た。
「夢の不労所得で家計が潤い、家事だってアウトソージング、好きなだけ夜更かしして好きなだけお昼寝もできる」
日向ぼっこをしながら呟き、ご機嫌で寝返りを打つ。
「お団子も美味しい」
顔のすぐ横においたランチボックスには、お団子が大量に詰めこまれていた。
ごろごろしながら食べようと、実家に勤めるメイドに作ってもらったものだ。
月で味わう月見団子、いとをかし、ワロス。
「まったく、輝夜様ったらいくら何でもちょっとだらけ過ぎじゃないですか?奥様も呆れておいででしたよ。うちの娘は何世紀になったら脱ニートするんだって。」
すぐ隣からあきれた様子で声をかけてきたのは、竹取家に長年つかえるメイドの宇佐美。
「いやあねぇ、月の最高権力者の娘でお金にも困っていないこの私が、いまさら嫌々働くことなんてないじゃない。やりたいことを探すのが今の私の仕事よ。」
「じゃあ、社交界に顔でも出してみては?」
しかし、輝夜はちっちっと、指を振って取り合わない。
「私、これでも昔は地球一のスーパーモテ女だったのよ。本気を出したらコロニーが傾いちゃうわ。」
「あー、それ100万回ききました。『いつまでも働かないならやりたいことが見つかるよう見聞を広めてこい』って地球に強制留学させられて、そこで散々悪女ムーブをかました後で月まですごすご逃げ帰ったんでしょう?」
「言い方酷くない!?」
い、一応、時の帝にはあと腐れがないようにうまいこと言って、手切れ金がわりに不老不死の薬を渡したりもしたから……なんてゴニョゴニョ言い訳が始まる。
「ほかの方はどうなんでしたっけ?ほら、『藤原フヒト』さんとか」
「その名前を出すのは勘弁して下さい!」
自分で言い出したくせに、輝夜はあっさりと白旗を上げた。なにせ彼には大変申し訳ないことをしたという負い目がある。
死ぬほど恨まれていてもおかしくない男の名前を出すのは禁止カードだ。レギュレーション違反をとってほしい。
「まあ、千年以上前の話ですしね。」
「そうよね、流石に時効よね」
「まあ子孫が復讐に来るかもしれませんが」
「やめてよ、そんなはずないじゃない」
軽口をたたき合っていると、緊急事態を告げるサイレンが鳴り響いた。
――地球の方向から正体不明の超高速飛行物体がこちらへ向かっています。
――外出中の方は安全のため、自宅もしくはシェルターへ避難してください。
アナウンスを聞き、二人はばっと顔を見合わせた。
■ ■ ■
地球人の平均寿命は短いんですって。
特に妻に先立たれた男性はすぐに亡くなる傾向があるとか。
あと、両親が亡くなると子供が遺産を相続するみたい。
20年にも及ぶ強制留学のステイホーム先に関しては、お父様が便宜を図ってくれていた。地球に戸籍のなかった私なんだけど、高齢かつ妻が病弱な夫婦の養子にしてもらえるよう頼みこみ、またその際、養育費及び謝礼として多額を手渡したという。
お母さまに頭が上がらない一方、私に激甘なお父様。
こすっからい考えが手に取るようにわかる。
そうして始まった留学も、はや15年。私は思った。
「あれぇーなんか想定と違うぞ。」
「どうしたんじゃ輝夜。」
まずお婆さん、現在めちゃくちゃ元気。
お父様から渡された大量の山吹色のお菓子をみたお婆さん。今からが我が世の春よとばかりに布団から飛び起きて、医者に掛かり、もりもり食事をとり、あっという間に病を駆逐してしまった。病は気からって本当なのね。
「そろそろ縁談を組むに気になったかえ。」
「だから結婚なんてしないって。」
お爺さんも超元気。もともと竹細工の職人だったのにお金で冠位を買って『竹取の翁』なんて名乗り人生を楽しみまくっている。まあ、二人ともいい人だし元気なのは喜ばしい限りなんだけどね。
想定外と言えばもう一つ、先のお爺さんの話と関係があるんだけど、私に現在、長い人生で初のモテ期が到来している。
以前、『歌会に全然に出てこない輝夜姫ってどんな娘なんだ』、『なんでもめちやくちゃ美人らしいぞ』なんてデマが流れて、恋文が届くようになったことがあった。
でも返信の短歌とかよくわからないので、けむに巻いてお茶を濁すために『美味しいコーヒーの淹れ方』とか『トンデモ未来予知』を思わせぶりなオサレポエム風にして返信していたら、貴族社会でおもしれー女として妻に迎えたいという男性が激増したのだ。
事実は小説よりも奇なりって本当なのね。
しかし時々見合いを勧めてくるのは勘弁してほしい。だって、専業主婦って忙しいじゃん?それに私、留学期間が終わったら月に帰るし。
というわけで、絶対にお見合いなんてしないんだからね!
「すまんのう輝夜、見合いを5人とすることになってしもうた。」
「なんでぇ!?嫌だって言ったのにいぃぃぃ!」
頭を抱えながら話を聞くと、上位貴族からの申し出で、どうしても断れなかったらしい。
お爺さん、お金で冠位を買った新興弱小貴族だからなぁ......
しかし、先ほども言ったが私は結婚などする気はない。
なので夢見ている殿方達には申し訳ないが、幻滅して頂きましょう。
そんなわけで、見合いでは不思議ちゃんを演じつつ無理難題をつきつけさせてもらった。計画どおり、皇子の大半は苦笑いで退散。まあ『私の考えた最強アイテムを結納品としてもってこい』なんて無茶ぶりをされたら当然だろう。
唯一、やたらやる気になっていた車持皇子、本名『藤原フヒト』っていう変人がいてちょっと気になったけれど、それも問題ないはずだ。『蓬莱の玉の枝』なんてトンデモ植物を準備できるはずがないし。
ちなみに創作活動は最近の趣味でもある。
なにせ地球は科学文明が月よりもずっと遅れている。もちろん漫画やアニメやゲームもない。だから自給自足で創作活動だ、やってみると意外と楽しいのよコレ。
今書いている『冤罪で月を追放された私は地球の最高権力者に溺愛される ~今更戻って来いと懇願されてももう遅い~』なんて歴史に残る傑作になる気がするわ。月に帰ったらこれで一発当てて不労所得生活とかできないかしら?
そんなイベントから3年後、私の手元に『蓬莱の玉の枝』がある件。
「本当に持ってきちゃったの?!」
なんでも藤原フヒトさんは海を渡って蓬莱山を探していたらしい。あたりまえだがそんな山は私の頭の中にしかない。だから当然見つからなかったのだが、旅先で出会った賢者夫婦とかに叡智を授けてもらい品種改良やら何やらして自作したのだという。
たしかに、『根が銀色で茎が金色で実が真珠っぽい植物』だ……
てか、賢者夫婦とフヒトさん、凄すぎない?月にはない技術体系もあるみたいだけど。
正直にすごいと思った。
そこまでやってくれたことに、胸もちょっとキュンとした。
が、まあそれはそれとして、結婚するのは嫌だ。だって専業主婦って忙しいからね。
だから申し訳なく思いつつも、後づけで「自作かぁ。それも凄いけど……それだと50点ですね。」などと賜った。そしてその場しのぎに、「もう一度チャンスをあげましょう。今度はでっかい玉をみせて頂戴。両手に持ちきれないくらいうんと大きい玉を、天然物で。そしたら今度こそ貴方と結婚いたします。」なんて無茶苦茶まで言った。
それで流石にあきらめるだろうと思ったが、その後、風の噂で聞いた話では巨大な宝玉を探し続けていたらしい。
また蓬莱の玉の枝の件では海外遠征費用や協力者への謝礼で莫大な財も失っていたという。
これは私も流石に申し訳なかったなと思う。
うん……本当にごめんなさい。
その後、時の帝から妻に迎える宣言をされ、その時はまた焦った。
こっちには断わる権利も無いんかい。帝の権力凄すぎ!
ちなみにその時は、留学の終わりが近かったのでダラダラ引き伸ばし、最後は迎えに来た宇佐美に催眠ガスを撒いてもらって護衛の皆様にはお眠り頂き、なんとか月にとんずらこかせてもらった次第である。
その際、お世話になった老夫婦にとばっちりが行かないよう、手切れ金代わりに不老不死の薬を帝に渡しておいた。
あと宇宙服となる羽衣を着る際に『これを着て月に帰るといずれ地上の記憶を失ってしまうのです。藤原フヒトさんには申し訳ないとお伝えください』と伝言も残した。
名付けて『現在の被告には責任能力がないから無罪!』作戦である。
ほら、記憶ってやがて風化するじゃない?だから嘘は言っていないよね。
相手がどうとるかは相手の自由だし……
◇◇ ◇
ここは輝夜の自宅。警報をうけ竹取一族全員がリビングに集合していた。
「ね、ねえ。本当に子孫がお礼参りに来たなんてことはないわよね」
「取り立てとかじゃなければいいですね、千年分の利息はえぐいですよ」
「今そういう冗談はいらないから!」
輝夜は不安になっていた。
そういえば、預かっていた蓬莱の玉の枝はちゃっかりと月に持ち帰えらせてもらっていた。のみならず株分けしてから新種の植物として特許を取り、不労所得としてがっぽりと儲けさせてもらっている。現在はコロニー内に蓬莱山って観光名所もできているくらいだ。
ちなみに、地球で書いていた小説は一次選考で落ちた。
「地球から向かっている未確認飛行物体はものすごい速度です。我々の高速船の3倍以上の速度で向かってきています。」
大臣から報告を聞き月の最高権力者である輝夜の母親が頭を抱えている。確かに月の民たちは、大昔、邪神にムー大陸を滅ぼされて以降は技術革新が起きていない。そして地球は月のコロニーの裏側にあるため、この数百年くらいは観測を怠っていた。しかしまさか、既に技術力で地球の文明に追い抜かれているとは誰も思っていなかったのだ。
「まあ、可能性が高いのは宇宙探索。もし我々の存在に気づいていても友好条約を結ぼうと提案してくるあたりでしょう」
「そ、そうよね。きっとそうに違いないわ。ははは……」
少々からかい過ぎたと思ったのか、フォローする宇佐美。しかし――
「大統領、謎の飛行物体より映像を受信。大型スクリーンに表示します。」
『私は地球連邦の元首、藤原フヒト。輝夜姫に用件があり現在そちらに向かっている』
子孫どころか、記憶にあるそのままの顔。
まさかのご本人だった。
「あー……これは本当にまずいやつでしたね。」
「いざという時は輝夜を差し出しましょう」
宇佐美と母親の言葉を聞きながら、ショックと恐怖により輝夜は卒倒した。
当時のことは全部忘れたことにしよう。
薄れゆく意識の中、そう思った。
■■ ■
その男は『車持皇子』、通称を藤原フヒトといった。
時代が違えば英雄として世に名を残すような人物だったろう。
天智天皇の落胤であり、疎まれた身の上から皇子まで昇りつめた彼は、まごうこと無き傑物だった。
権力や名声よりも幼少時の友情を重んじ、ある友人から「藤原、お前は人間じゃねぇ!」と命名された当時のあだ名を通称とする豪放磊落な男。
その一方で、深い洞察力と情け深さも持ち合わせた人物でもあった。
そんな彼の人生はさぞ面白いものと思いきや、実は退屈と闘う日々である。
彼は全てを持ちあわせて生まれ、そしてそれ故に早いうちから己の人生に倦んでいた。
なんでもすぐに出来るようになってしまうし、なんだって手に入れられてしまう。
簡単に手に入る栄光に価値はない。無味乾燥の日々に彼は退屈で仕方がなかった。
そんな彼が久しぶりに面白いと思ったのは、噂となっている下級貴族の女に気まぐれで出した手紙の返信を読んだ時だ。
意味はよく分からないが力強い言葉が羅列されていた。それで、もしかしてと思い陰陽師に意見を求めると、「そのままでは使えないが、鬼道的にいくつものブレイクスルーが起きそうな詠唱のヒントがあります」と言われた。
また、解読すると「つまり千年ほど先に邪神が復活するんだよ!」という予言書らしきものもあった。その時は衝撃の余り「な、なんだってー!」と声が出たほどだ。
書き手である輝夜姫という女性に興味が湧き、自分もどうせいつか誰かと結婚するならと見合いをしてみた初対面が、彼の初恋の始まりだった。
いままで女性と言うのは自分の気を引こうと色目を使いしなだれかかってくる存在しか知らなかった。しかし輝夜姫は自分と結婚することにまったく興味がなさそうで、むしろ自分と結婚するなら甲斐性をみせろと難題を提示してきた。
「面白れー女……やってやろうじゃないか」
思わず声にでていた。初めての挑戦、心が躍る。
しかし難題を叶えるのは彼を以てしても困難であった。『蓬莱の玉の枝』などこの地上のどこにも存在しないので当然である。初めて自分の手に負えないという経験をした彼は戸惑った。
自分は騙されているのではないか、そんな思いを抱えながらフヒトは海を渡った。そこで賢者夫婦と出会う。自分を上回る頭脳の持ち主に出会うのは初めての経験だった。彼らの叡智を借り『蓬莱の玉の枝』を作り出したとき、いままでの自分の見識の狭さ、そして思い上がりを知った。
『この世にない物でさえ、知恵と熱意があれば新たに作り出せる』
難題は、狭い視野で燻っていた自分にそれを教えてくれた。
自信満々で自作した『蓬莱の玉の枝』を渡したとき、輝夜姫に言われた。
「自作かぁ。それも凄いけど……それだと50点ですね。」
フヒトは目を白黒させた。自作だと50点……だと?
ならば、どこかにオリジナルがあるということか?
世界中を探してもなかったのだが、まさか伝説にある天界にでも行けと言うのだろうか。
いやいやまさか、という気持ちはあった。
しかし今までの自分の了見の狭さを思い出す。悩む彼に、輝夜姫は言った。
「もう一度チャンスをあげましょう。今度はでっかい玉をみせて頂戴。両手に持ちきれないくらいうんと大きい玉を、天然物で。そしたら今度こそ貴方と結婚いたします。」
新難題である。
一瞬、出来るわけがないという気持ちにもなった。しかし、蓬莱の玉の枝のこともある。この美しい姫が出題したのなら、可能なことなのだろうと思い再び挑戦してみることにした。
とはいえ、この時彼は海外遠征費用や協力者への謝礼で莫大な財を失っていた。もちろん、そこで得た知見や新技術を用いた事業はすでに起こしていて、数年あれば使った予算以上のものが回収できる見込みではある。しかし、それまでは低予算で探す必要があった。
彼は事業を部下に任せて、一先ず、日本一の霊峰を掘ってみることにした。
霊峰からは莫大な天然資源が出てきた。それはまた彼に莫大な財をもたらしたが、巨大な宝玉を見つけることはできなかった。それで、もう一度海外遠征でもしようかと考えていた時、霊峰のふもとで帝の使者と出会い、彼女が月に帰ったことと、自分に謝罪を述べていたことを知った。
「そうか……そういうことだったのか。」
フヒトのなかで、全てがつながった。
彼女は難題にかこつけ、自分達に技術革新のヒントを提示していたのだ。
蓬莱の玉の枝は地上にはない。ならばまがい物を作るのではなく天上世界に至る技術を開発するというのが本筋だろう。ゆえに、50点だった。
また、両手に持ちきれないくらいうんと大きい玉というのは、天上世界からみたこの地上の事だったのだ。なるほど、世界を旅して分かったが、丸くて海の多いこの世界を月から見たら、巨大な瑠璃の玉のように見えるように違いない。
真実にはかすりもしていないのだが、何故か辻褄だけは合っていた。
「そしてその目的は……邪神の討伐」
フヒトは旅の中で、かつてとある大陸が邪神に滅ぼされ、民は箱舟で月に渡ったという伝説をきいていた。そして、輝夜姫の予言書にはおよそ千年後に邪神が復活するだろうと書かれていた。
きっと彼女は、地球の民の千年後を憂い、単身でこっそりと月の技術の伝聞に来てくれていたのだ。
しかし、この技術革新は国同士どころか星間国家同士の争いに繋がりかねない危険なものである。おそらくそれが月の禁忌に触れ、月に連れ戻されると同時に彼女は記憶を消去されることとなったのだろう。痛ましいことだ。
もちろん大外れ。ニートを憂いた親に強制留学させられただけなのだが、真実を知るものはこの場にはいなかった。
「あの、藤原様……?」
「ああ、考えこんですまないね。ところで君はなぜこの霊峰に?」
「はい、帝より火口に不老不死の薬を捨てるように仰せつかっております。」
なるほど、帝は慧眼だと思った。不老不死の薬など保持しておけば争いの火種にあるし、飲んだ後で権力の座を奪われることになれば『死にたくても死ねない』という地獄を味わいかねないのだから。
しかし、これは自分にはまたとない好機だと思った。
自分の身を顧みず地上の民を救いに来てくれた聖女。
退屈だった人生を照らし、なんとしても妻にしたいと思った月の姫。
どれ程の艱難辛苦を味わおうとも、もう一度会いたいと願い、しかしそれは叶わないと思っていた彼女の元に今、細い糸がつながっている。
「済まない。君の子孫達が幸せに生きる未来のためにも、薬を捨てるのは少し待ってくれ。私の方から帝に上奏させていただく。」
そうして彼は『不老不死』となった。
そこから先は、出会いと別れを繰り返す、短くあっという間の千年だった。
なにせ仮想敵は邪なる神。伝承によれば、月まで行く技術力を持った旧人類を大陸ごと滅ぼしたおそるべき怪物である。おそらく、その日まで世界中の技術を結集し、数多のブレイクスルーを起こしてもなお足りない。
きっと、抜きんでた個の力もまた同時に必要となるだろう。
ならば自分は世界一の戦神となることでその日に備えよう。不老不死の特性を生かして『昨日よりも強くなる今日』を千年積み重ねるのだ。輝夜が危険を顧みず無償の愛で守ろうとしてくれた地上は、己の手で守ってみせる。
その信念のもと、彼は技術開発の主導を一族の者に任せた。
そして、世界中の強者に教えを請い戦闘能力を向上させる日々が始まった。
ある時代は国の大英雄に教えを乞うた
「なるほど……それで法力を学びたいというわけなのね。」
「その源泉は無償の愛です。おそらく貴方なら身に着けられることでしょう」
別の時代は異国の達人に師事した
「気功とカラリパヤットウを伝授しましょう。修める秘訣は“刻苦勉励”の精神です」
またある時は世界最強の王と手合わせを
「活人剣が何故強いか?死んでも生き返して修行させるからですよ」
そして、とうとう邪神が復活。
彼は世界中の猛者を率いて邪神を討伐し、その功績から地球連邦の長となった。
ちなみに輝夜姫の予言のした時期とは十年単位でずれていた。『いつか大地震がくる』的な予言なので当然だ、むしろ十数年の誤差で済んだのか奇跡である。
激戦の後、彼は思った。
「そうだ、月に行こう」
恐らく彼女は月の裏側にいる。
出向いて、彼女に礼を言うのだ。
そこから先は、長い長い百年だった。
楽しみを待つ時間はとても永く感じる。
地球連邦の長として、月面計画を打ち出した。
彼の号令の元に世界中の叡智が結集する。
「南海王国の技術を流用し銀河鉄道を……面白そうですね。是非協力させて下さい。」
「その部品の原材料には辺境領の資源をお使いください。花と額縁の様に相性が良いはずです」
「皆さん凄いですねぇ。あ、ストレングス国は宇宙食とかそちらの方面でお役にたてるかもしれません」
やがて、数多のブレイクスルーが起こった。
そして――
◇◇ ◇
月まで届く銀河超特急が完成した。
地球代表として乗り込みながらフヒトは思う。
今こそ、千年以上変わらぬ……いや会えない期間でより強く大きく育った愛を彼女に伝えよう。彼女は全てを忘れているかもしれないが、あの日彼女は蓬莱の玉の枝を月に持ち帰っていたらしい。ならばきっと、千年前の結婚の約束は、まだ有効だ。
自分の事を憎からず思っていてくれたのだと、そう思っておこう。
なに、忘れていてもこれから新しい思い出をたくさん作っていけばいい。
なにせ時間は沢山あるのだから。
千年以上たっているし、性格や人格が変わっているかもしれないが、それも問題ない。
彼女が彼女と言うだけで、永遠に愛することができるという確信が自分にはある。
「逃がさないよ、輝夜姫」
この愛は、地球中が応援してくれている。
もしも月の権力者が結婚に反対したら……
さて、現在、軍事力はどちらの星の方が上だろうか。
◇ ◇ ◇
この数か月後、地球連邦の代表と月の最高権利力者の娘が結婚し、史上初の星間友好条約が結ばれることとなった。その記念すべき日を、後に人々は様々な言葉で評する。
偉人は、『真実の愛により長い時と距離を超えて二人が結ばれた日』と言った。
またあるメイドは、『ざまぁされた悪女が年貢を納めた日』と言い、
『万年ニートが永久就職した記念日』何て言う親もいたそうである。
そうして二人は長く……本当に末永ーく、幸せに暮らしましたとさ。
『あの時は死ぬほど驚いたけど……今幸せだからまあいっか』とは誰かの言葉