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冬の童話祭2025

ゆきちゃんがおもちを食べる話

作者: 六福亭


 ゆきちゃんが、お家でかるたをして遊んでいると、たけひろおじさんがやってきて言いました。


「ゆきちゃん、おもちを食べようよ」

「食べたい!」

 ゆきちゃんはおもちが大好きなのです。冷凍庫の中のおもちを5つ(ゆきちゃんと、たけひろおじさんと、お母さんと、お父さんと、おばあちゃんの分です)取り出して、トースターで焼きました。


 おもちがぷっくりとふくらんだら、トースターから取り出して、きなこや砂糖醤油で食べるのです。


 ところが、ゆきちゃんがきなこをおもちにまぶそうとした時、ぽん! という音がしたかと思うと、おもちがみんな消えてしまいました。


 おもちはどこに行ってしまったのでしょうか? 家中探しても、5つのもちはどこにも見当たりません。さあ、ゆきちゃんはすっかり落ち込んでしまいました。

「もう1度、焼けば大丈夫だよ」

 と、たけひろおじさんがなぐさめてくれましたが、ゆきちゃんはへそを曲げてしまい、もうおもちを食べたいとは言いませんでした。


 次の日、たけひろおじさんが、またおもちを食べようと言いました。

「食べる!」

 ゆきちゃんは、昨日食べられなかった分、はりきっておもちを用意しました。


 けれど、トースターから、まあるいおもちを取り出した瞬間に、やっぱりおもちは消えてしまいます。


 ゆきちゃんはこの時じっとおもちを見つめていました。それで、他のみんなが気づかなかったことに気づいたのです。


 トースターからおもちを出した時、ちっちゃなちっちゃな鬼が、わらわらとどこからともなく飛び出してきて、けらけら笑いながらもちを残らず奪い、逃げていったのです。


 ゆきちゃんはびっくりしましたが、この変な鬼どもから、おもちを取り返さなきゃと決意したのでした。


 おもちじゃないおやつを食べた後で、ゆきちゃんは和霊神社に行きたいと言いました。たけひろおじさんが連れて行ってくれることになり、2人でくつをはいて、歩いて5分の和霊神社に行きました。


 天気が良かったので、和霊神社のそばにある、和霊公園で遊びたかったのですが、ゆきちゃんにはもっと大事な目的があるのです。大きなつるつるのすべり台も、機関車も、素通りしました。


 ゆきちゃんはまっすぐ和霊神社の大きな石の鳥居をくぐり、長い階段を登って、神社の本殿にやってきました。


 今日は、神様にお祈りすることはたった1つです。

「神様、お願いです。あたしたちのもちを盗んだ、あの鬼たちのいるところを教えてください!」

 そうお願いし終わった後、どしんどしんと大きな音が聞こえてきました。


 振り返ると、大きくて真っ赤な牛鬼が、すぐ後ろにいて、ゆきちゃんを見下ろしていました。


 ゆきちゃんは、怖がらずにあいさつしました。牛鬼は、ゆきちゃんの町を守ってくれている神様ですからね。

「こんにちは、牛鬼さん」

「こんにちは、ゆき。何かあったのかね?」

 ゆきちゃんは、拳を振り上げて、鬼たちがもちを盗んだ話を聞かせました。

 

 全てを聞いた牛鬼は、牙をむき出して怒りました。

「とんでもないやつらだ」

「そうなの! どこにいるのか、牛鬼さんは知らない?」

「知っている。背中にお乗り、鬼の国へ連れて行ってあげよう」

 ゆきちゃんは、たけひろおじさんに許可をもらって、牛鬼の背中に乗りました。すると牛鬼は神社の本殿をすり抜けて、鬼の国に飛んでいったのです。



 鬼の国は、神社の隣の中学校の校庭の、いらずの森の中にありました。頭上にはうっそうと木の葉が茂って、まだ昼間なのに暗く見えます。森の真ん中にぽっかりと空いた広場があって、そこにたくさんの鬼が集まっていました。


 牛鬼は、ゆきちゃんを背中に乗せたまま、器用に木々をよけて森の真ん中へ進んでいきました。


 鬼といっても、いろんな鬼がいることを、ゆきちゃんは知りました。赤い鬼も、青い鬼も、黄色い鬼も、白黒の鬼も、茶色い鬼もいました。象くらい大きな鬼がいれば、豆粒ほどの鬼もいました。角の数もみんなばらばらで、あっちこっちを見るだけでゆきちゃんの目はいくつあっても足りません。牛鬼も、何頭も座って、鬼たちの冗談にからから笑っています。


 鬼たちは酒盛りをしているようです。日本酒、甘酒、ビール、ハイボール、カシスオレンジ、ウイスキー……他にもありとあらゆるお酒があります。食べるものも、数の子や鯛のおさしみ、田作り、栗きんとん、かまぼこにスコッチエッグといったお正月のごちそうから、豚肉の丸焼きのような豪快なごちそうもどっさりと用意されています。


 ゆきちゃんは、そんなごちそうの中に、丸いおもちがいくつもあるのを見つけました。おもちの周りには、ちっちゃな鬼がたくさんいて、へんてこなダンスを踊っています。

 

 ゆきちゃんは牛鬼の背中から降りて、鬼の酒盛りの中にずんずん入っていきました。鬼は驚くやら、怒るやら。牛鬼が、ゆきちゃんの後を追いかけます。

 

 ゆきちゃんの目的は、おもちです。ちっちゃな鬼に向かって、ゆきちゃんは大きな声で言いました。

「あたしたちのおもちを、返してちょうだい!」

 ゆきちゃんを連れてきてくれた牛鬼も、加勢しました。

「人間のおやつを盗むとは、不届きな奴らだ。せっかくの新年会が、台なしではないか!」

 牛鬼に怒られた、ちっちゃな鬼たちは、泣きだしてしまいました。

「だって、だって、新年会に持ってくるごちそうを、落っことしちゃったんだよう」

 鬼たちは、口々にちっちゃな鬼を叱ります。その様子を見ていると、ゆきちゃんは何だか、ちっちゃな鬼たちがかわいそうになってきました。

「もういいよ、おもちはみんなで食べてちょうだい。そのかわり、もう二度とおもちを盗まないでね」

 小鬼たちは泣きながらゆきちゃんにお礼を言いました。

「ありがとう、ありがとう」

「さ、もう泣かないで。新年会を楽しんでね」

 牛鬼が、優しい声でゆきちゃんに言います。

「優しい子だ、気に入った。この中で何か、食べたいものはあるか?」

 ゆきちゃんはとても迷った末に、こう答えました。

「おうちで、たけひろおじさんやみんなとおもちを食べたいな」

 

 そこで、牛鬼がゆきちゃんを、和霊神社まで送ってくれました。そして、待っていたたけひろおじさんとゆきちゃんがお家に帰ると、つきたてほやほやのおもちが、どこからかどっさりと届いていました。


 ゆきちゃんは、お家のみんなと、おもちをたくさん食べました。あんこ、きなこ、砂糖醤油、きんかんはちみつ……おなかいっぱいで、楽しいお正月でした。

 

この話を投稿するのは絶対に今日じゃないな……と思いました。

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― 新着の感想 ―
お汁粉が食べたいなー、と思ってしまいました╰(*´︶`*)╯♡
2025/01/21 20:28 退会済み
管理
素直で、想像が広がるとても良いお話でした。 子供たちも物語の中で、ゆきちゃんと同じように冒険をして、ハラハラして、喜んでくれると思います。
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