案件95.合否の行方
実技試験開始から2時間以上経過したが、黒火手団は矛貫隊の新人4人に劣勢を強いられていた。
このまま矛貫隊を全滅させるか、黒い立方体の中にいるロボットを彼らの背後にあるゴールまで連れて行かないと、黒火手団は時間切れで失格になってしまう。
その様子を矛貫隊隊長のオスタと副隊長のフロンが、モニターから部下4人の健闘を見守っていた。
「頑張ってるわね、あの子達」
「出来て当然だ、手塩をかけて鍛え上げたんだからな」
「訓練生時代射撃成績1位の魔眼、玉善リンドー」
「自分と相手を捻ることで変則的な攻撃を繰り出す戦鬼、捻生バーク」
「同じく戦鬼だが真っ向勝負に限れば格上とも渡り合う、末甲トゥエバ」
「萬怪らしく目立った短所がないオールラウンダー、常平ソラノ」
「あいつらはいずれルールを貫き通す、聖明機関の矛になってもらう」
「でも問題はここからね―」
矛貫隊の新人たちは勝利を確信し、戦いながら脳内通信で会話を始めた。
『このペースでいけばわたしたちの勝ちだね!』
『最後まで油断は禁物だ』
『あともう一息ッス!』
『・・・なあ、なんかおかしくねえか?』
『おかしい?何がッスか?』
『オレ達の作戦が、あまりにも上手くいき過ぎてんだよ』
『このままじゃ合格できねえのに、奴ら何の策も打ってこねえ。しかも焦ってるって感じがしねえんだよ』
『合格を諦めちゃったんじゃない?』
『一応ロボットの位置情報を確認するか・・・何っ!?』
「リンドー、どうしたんスか!?」
「ロボットの位置が、2つになってる!!」
ロボットには発信機が組み込まれ黒い立方体の中にいると思われていたが、それとは別の反応がゴール地点を目指し移動しているのだ!
「エエエどうなってるんスか!?」
「ハメられたんだよ!動いてるのが本物のロボットだ!」
「わたしが行ってくる!」
「ソラノ頼んだ!」
「そうはさせない!!」
ソラノがゴールを目指すロボットを追うべく戦線を離脱し、リチャウターは彼女を追いかけた。
「やりやがったな黒火手団、だがこれで不合格だ!」
「いや、これで俺達の合格は黒に決まった」
その時、リチャウターはソラノを追いかけると見せかけて、腕を長く伸ばしトゥエバの両足を掴んだ。
「へ?」
「スキあり!バーニングストレート!!」
トゥエバが両足に気を取られている一瞬を狙い、カネリファイヤが必殺の拳を決めた。
「アヂィイイイッスゥウウウ!!!」
トゥエバは爆炎に包まれながら断末魔を上げ変異を解いてしまったが、幸い大きな火傷は負ってなかった。
「ヨォシ!まず1人目!」
「フェイント!?」
「邪魔だトゥエバ!さっさと下が―」
バークが避難を促している時、リンドーの首が突然はね飛ばされた。仲間に気を取られている隙に、黒皇の目にも留まらぬ一閃を許してしまったのだ。
「これで2人目」
『バークどうしよう!?』
「ソラノはそのままゴール行け!こっちはオレ一人で何とかする!!」
目の前にある黒い立方体の中からの反応とゴール近くにある反応、どちらがロボットなのか二人に考える余裕はない、二手に分かれて確認するしか選択肢はなかった。
(せめて黒いのごと、ひねり潰してやる!!)
バークは玉砕覚悟で両手に全てのパワーを集中させ、全速力で黒火手団が守る黒い立方体を目指した。
「超新星はなあ!テメェらだけじゃねえんだよぉおおお!!!」
バークは必死になって叫ぶも、黒皇の素早い斬撃で上半身と下半身が分断されてしまった。
「!まだだぁ!!」
バークは分断されても黒い立方体への攻撃を諦めず、両腕をねじりながら勢いよく伸ばした。
「いけえええ!ツイストクローーーーー!!!」
ここで一矢報いたと思いきや、リチャウターの巨大化した右手がバークの両手を受け止めた。
「うぅっ!!」
渾身のツイストクローを受けた右手がグチャグチャにねじれたが、黒皇が素早く移動して右腕を切断したため、リチャウターのボディにまで波及せずに済んだ。
「・・・くそったれ!」
「3人目!チャンプファイヤー!!」
最後の攻撃が失敗に終わったバークは、カネリファイヤの火炎放射によって撃破された。
一方、ソラノはゴール地点にたどり着き辺りを見回したが、ロボットの姿は見当たらなかった。
「バークもやられた、けどロボットさえ壊せば!」
その時物音がした方向に自動小銃を発砲すると、黒い手のような機械の残骸を発見した。
「・・・なにコレ?」
ゴールを目指す反応はロボットじゃないと確信した直後、ソラノの前に黒火手団の3人が現れた。
「4人目、オレたちのゲキアツ勝利だ!」
「・・・降参していいよね?」
こうして黒火手団は実技試験を無事合格した。では彼らがどのように作戦を考えたのか、それは矛貫隊から試験の説明を受けた後にまで遡る―
「ロボットと同じ発信機を作る!?」
「声が大きいぞボンゴラ!」
「それルール違反じゃないの!?」
「ロボットの発信機の電気信号を解析し、同じ信号を発するよう自分の発信機を改造するだけだ」
そう言ってアゼルはスマホを見ながら、1円玉くらいの大きさの発信機を先端が細かい器具でいじっていた。そして改造が終わると、発信機を予備の義手に取り付けた。
「これでどうやって実技試験を突破するの?」
「奴等の虚を突くのだ」
「聖明師の強みは浄化攻撃と、呪いへの耐性に加え連携が得意という点だ。だが奴等の連携さえ崩せば、実力で上回る俺達に勝機がある」
「試験会場にワープしたらまず予備の義手を遠隔操作し、迂回してゴールの近くまで移動させる。その間発信機の機能はオフにするから、矛貫隊に気づかれることはないだろう」
「それまで俺達は奴等の注意を引きつつ、錬黒術で防護したロボットを守り時間を稼ぐ。ゴール手前で新たな反応が突然現れたら、実戦経験の浅い奴等は必ず動揺する」
「となるとチャンスが来るまで、無理に攻めなくていいのか。カネリわかった?」
「ロボットを守りながら、ホコヌキ隊をブッ飛ばせばいいんだな!」
「ああお前はそれでいい、作戦を隠し通せるタイプじゃないからな―」
話は現在に戻り、黒火手団は実技試験の会場から待合室へ戻った。
「いや~3級試験はゲキアツ楽勝だったな!」
「俺の作戦のお陰で勝利できたのだ、黒に感謝しろ」
「二人ともがんばったから合格できたんだよ。でも今回おれは、あまり役に立てなかったな・・・」
ボンゴラは実技試験中、ソラノから 浄化に頼りすぎだと指摘されたことを気にしていた。
「ボンゴラもがんばっただろ!」
「お前も十分貢献した、3級昇格の手続きを済ませるぞ」
一方矛貫隊の新人4人は、別室でモニター越しのオスタとフロンと反省会を開いていた。
『みんな実技試験ご苦労様。自分たちで作戦を考え、実行してみてどうだったかしら?』
「・・・作戦そのものに、問題はなかったと思います」
「ただ、発信機の反応が増えた時にテンパっちまったな」
「あそこでわたしが抜けたのが敗因だよね・・・」
「いや確認に行くのは当たり前ッスよ」
『確認は当然だが、全員で移動すれば致命傷は避けられただろう。お前達は自ら作戦を考え相手を分析し、各々の役割を決め実行に移すことはできていたが、不測の事態への対応がまだまだ甘い。実戦経験を積み重ね、判断能力を磨いていけ』
「押忍!」
「了解です!」
『そしてバーク、敵の違和感に気づいた勘の鋭さは評価してやる。ルールを貫き通す上で、必要不可欠なスキルの一つだ』
「へへっ、そりゃどーも」
(アタシも勘を養っていくぞ!)
その時、ドーンという音と共に建物が大きく揺れた。
「うおっ!」
「なに!?」
『お前達どうした!?』
『緊急放送です!悪堕者が3級試験会場を襲撃しました!戦闘可能な異救者は速やかに迎撃または、非戦闘員及び負傷者の避難をお願いします!!』
To be next case




