案件90.底知れぬサエラ
サエラがゲーム中止を宣言した同時刻、死の呪いが大幅に短縮したことで患者たちが一斉に苦しみだした。
「うぅっ!ぐぅっ!!」
「どういうことだ!?死の呪い発動まで18時間以上あったはずだぞ!!」
患者の容態が急激に悪化したため、医療隊員たちは必死の治療活動を始めた。
ボンゴラも死の呪いの影響で苦痛に苛まれる中、彼の頭の中からマナキの声が聞こえてきた。
(ボンゴラくん・・・ボンゴラくん・・・)
(・・・マナキちゃん?)
ボンゴラの右腕にはマフラーが巻き付いていた、マナキはマフラーを介してボンゴラの頭に直接語りかけていたのだ。
(わたしの力を貸してあげる、みんなを助けて―)
するとボンゴラの苦痛が和らぎゆっくり目を開けると、右手に巻き付いたマフラーが光り輝いていた。その様子にボンゴラだけでなく、ズイナンたちも驚いていた。
「一体何が・・・?」
「皆さん、お願いがあります・・・。死の呪いに苦しむ人たちを、全員ここに集めて下さい・・・。おれがこの手で救ってみせます!」
「おいおい無茶言うな!お前さんだって死にかけてるだろう!」
その時、ズイナンのスマホが鳴り出した。発信者はオスタ隊長だ。
「もしもし?・・・ああ、ボンゴラなら意識を取り戻して・・・なにぃ!?・・・わかった、すぐ対応する!」
ズイナンは戸惑いながらも、他の医療隊員たちに指示を出した。
「みんな、オスタ隊長からの命令だ!手差ボンゴラの解呪を全員でサポートしろと!まずは各病院の患者たちが全員ここにやって来る!スペースを確保するんだ!!」
「ですが患者は合計43人!それだけの人数を、集中治療室に入れるのは無理です!」
「だったら外だ!今いる患者たちも、バイタルモニターや輸液ポンプと一緒に運び出すんだ!」
「了解!ポータブル電源用意します!」
こうして死の呪い発動まで残り5分を切った時、ボンゴラがいる医療施設の敷地内で患者全員が集められた。
「皆さん、ご協力ありが―」
「礼は後でいい。頼むぞボンゴラ、奇跡を起こしてくれ!」
ボンゴラはリチャウターに変異し、彼の両手とマフラーから浄化の光が溢れ出していた。
「この手で救ってみせる!救手ハグネード!!!」
「んで、みんな助かったのか!」
「うん、自分も巻き込めるように救手ハグネードを調整したんだ」
「マナキちゃんとズイナンさんたちの助けがあったから、みんなを助けられた」
そう言ってボンゴラは、マフラーをギュッと握りしめた。
「ちょっと待て。話を聞く限り、お前と聖女の関係が矛貫オスタに漏れていたのではないか!?」
「あ!もしかしたらそうかも!」
「ゲキアツヤベェぞ!スコア全部ボッシュウされちまう!!」
「それには心配及ばないよ!」
動揺する三人の前に、なんと特級異救者のツドウが現れた。
「ツドウさんいつの間に!?」
「ドアの鍵が開けっぱだから、勝手に入っちゃった!」
「ピンポンしろよ!フホーシンニュウだぞ!」
「それよりMrツドウ、心配及ばないとはどういう意味だ!?」
ツドウはマナキのお願いを聞いて、オスタにボンゴラの解呪を手伝うよう依頼したのだ。
「オスタにはボンゴラのこと、超期待の新人だからできる!って言っといたんだ。最初は半信半疑だったけど、部下の命がかかってるからね。なんとか乗ってくれたよ」
「つまり矛貫オスタではなく、貴方がボンゴラと聖女の関係を知っているのか」
「そう、聖女様はおれを信頼してるから、スコアが没収されることはないよ」
「秘密を守るのも、盾男の務めさ!」
「じゃあ、他の人たちにはバレてないんですね」
ボンゴラはホッと胸を撫で下ろしていた。
「さて、3人の無事も確認したことだし、ノゾミモチに戻るとするか」
「もう行くんですか?」
「ハズミが時間にうるさいんだ。3人とも、これからも聖女様のことよろしくね!」
「ゲキアツ任しとけ!」
「そうだ!またお土産に盾を持ってきたんだけど―」
「要らないから早く帰れ」
同じ頃、闇のエネルギーで満たされた地底深くにある悪堕者の本部で、コズド、ケラシル、ラビライザの三人が話し合っていた。
「おかえりなさいコズド。私に頼らず、仇を探した成果はありまして?」
「黙れ」
「もしかしてゼロ?マジ冷めるわ」
「んなことより、サエラの奴はどうしたんだ?」
コズドの視線の先でサエラは、顔が酷く歪むほど怒り狂い、激しい怒声を上げながら本部の備品を壁や床に投げつけ、蹴り飛ばしながら大暴れしていた。
「フザけんなクソがぁあああああ!!!あれだけ試行錯誤して開発したデス・シンテージが、たった一人の新入りに破られただとぉおおおおお!!?確実に殺すために、プラントを潰してまで徹底したのに誰一人殺せなかっただあああああ!!?こんなご都合展開が、あってたまるかぁあああああ!!!」
コズドたち3人を除く悪堕者の構成員は、怒り狂うサエラに怯えオロオロしていた。
「サエラさん怒りを鎮めて下さい!」
「このままじゃ本部がブッ壊れてしまいます!」
「うるせぇクソ共ぉおおお!!」
サエラは手当たり次第に物を投げつけて部下に八つ当たりし、コズドたちの目の前でオフィスデスクがガシャーンと音を立てて床に叩きつけられたが、3人は眉一つ動かすことはなかった。
「アイツがあそこまでブチギレるとはな」
「無理もありませんわ」
「人を食ったような奴が、ざまぁないね」
「あら、カネリファイヤから無様に逃げた貴方に、それを言う資格があって?」
「あれはフリだし、君だって黒皇に亀甲縛りされただろ?」
ケラシルとラビライザが言い争っている時、コズドが割って入るように話しかけた。
「おいクジャク女、オレはテメェの手下にはならねえ。だが手は組んでやる、仇を教えろ」
「・・・仕方ありませんわね。私のことは、茉由瑠院ラビライザもしくは堕悪令嬢と呼びなさい」
「結局組むのかよ、マジ冷めるわ」
一方、先程まで暴れていたサエラは息を切らして静止し、ブツブツと独り言を呟き始めた。
「ハア・・・その辺にしとけよサエラ・・・こんなアクシデント・・・今に始まったことじゃないだろ?」
「我々の目的は各地で悪事を働き・・・人々の悪意や恐怖を増長させ闇を充満させる・・・」
「今回の作戦は失敗したが、実行したことで異救者共に恐怖と不安を与えられた・・・重要なのはその積み重ねさ」
「そう、私たちの計画はゆっくりと、着実に進んでいるの」
するとサエラは落ち着きを取り戻し、邪悪な笑みを浮かべた。
「ああ、そうだよなあ!闇の赴くままに人助けを妨害し、人々をヒトリバコで捕らえ、手薄になった場所を破壊するのも、全ては『そこ』に繋がる!!」
「忌々しい聖女も、生意気な新入りボンゴラもブッ潰し、今度こそ実現するんだ!!」
「闇が支配する世界!最悪の闇深案件!!第二の大闇黒禍だあああああ!!!」
大闇黒禍とは100年以上前、世界中が闇で溢れかえり人類を滅亡一歩手前まで追い込んだ大災害である。
悪堕者の目的である世界を悪の底に堕とすとは、大闇黒禍をもう一度引き起こすことである。
それを夢見るサエラの狂ったような高笑いが、悪堕者の本部中に響き渡った。
『スコア早見表』
手差ボンゴラ(初級)
42591点(+30000)MVP
黒理アゼル(初級)
12960点(+100)
激熱カネリ(初級)
12727点(+100)
スコア100億点以上で救世主になれる!
まずは1万点以上を目指し、3級試験に合格せよ!
To be next case




