案件89.無駄足
サエラから突然、ゲーム中止の宣告を受けた異救者たちは戸惑っていた。
「ゲーム中止ぃ!?」
「どういうことだ!?」
「まさか・・・!」
『そのまさかだよフロン副隊長!シンテージ生産プラントで解呪法をゲットするのは、ご立派なルール違反だ!!』
「そうなんですか!?」
「くっ、読まれたか・・・!」
話は遡り異空間に突入する前、矛貫隊隊長のオスタと副隊長のフロンは、密かに作戦を立てていた。
「フロン、お前はリンドーたちを連れてゲームに参加し、奴らの気を引け。俺は別働隊を率いてシンテージ生産プラントに潜入し、解呪の手がかりを探す」
「闇淵サエラは、ルールを貫き通すような奴ではない」
「でしょうね。向こうはプラントの特定に気づいてないようだけど、油断しないで」
「ああ。それと俺はゲームの間、矛貫隊支部で待機していると嘘情報を流してある。俺達が潜入していることは、あいつらにも黙っててくれ」
「了解。敵を欺くにはまず味方から、ね―」
話は現在に戻り、狡猾なサエラはオスタの作戦を見越して事前に手を打っていたのだ。
「悲しいかなあ、おれって人からどう見られてるかわかっちゃうんだよね~。だからゲームを始める前に、大事な情報とかぜ~んぶ別の場所に移しといたのさ!」
「よく言うわね、最初から解呪法を渡す気なんてない癖に」
『ピンポーン!デス・シンテージに呪われた者たちの運命は、最初から決まっていたのさ!』
『そしてルール違反の罰として、死の呪いのカウントダウンを残り1時間に短縮し、ゲーム終了に伴いこの異空間は間もなく崩壊する!早く脱出しないと、二度と出られなくなっちゃうぜ~。それじゃあみんな、お疲れさ~ん!』
その直後、異空間の中でゴゴゴと地響きが鳴り、空がヒビ割れ出した。その影響は、カネリファイヤたちがいる浜辺にも及んでいた。
「残念だったねカネリファイヤ、冷めない内にお線香でも焚いたら?」
「勝手に決めんな冷め太郎!!」
カネリファイヤが不滅氷に殴りかかろうとするが、不滅氷は怪しい道具を取り出すと別の空間へワープし、カネリファイヤの攻撃は空振りに終わった。
「チッキショウ!!」
「カネリ!アゼルを拾ってさっさとここを出るぞ!!」
同じ頃、崩壊する異空間内の悪堕者たちは、一目散に目的の場所を目指していた。
「もうダメだあああ!閉じ込められちまううう!!」
「バカ諦めるな!この先に外へつながるワープゾーンがあるんだぞ!」
しかし彼らの動向は、高所にいる矛貫隊にマークされていた。
「やっぱり出口が隠されていたか」
「奴らの後をつけりゃあ脱出できるな!」
「出口は他のアジトと繋がってるかもしれないわ、注意なさい」
「副隊長、ハズミさんたちも出口を見つけました。先に行って大丈夫だそうです!」
その後、異空間は崩壊するも全員無事脱出した。フロンの読み通り、出口は悪堕者のアジトに繋がっていたが、異救者たちは残る力全てを振り絞り、2度目の脱出も成功させた。
しかしアゼルとカネリは、傷だらけになりながらも足を止めなかった。死の危機が迫るボンゴラことが心配で仕方がなかったのだ。二人は血と汗にまみれ息を切らしながら、ボンゴラが入院している医療施設の前に到着した。
「ハア・・・ハア・・・おいアゼル、あと何分だ・・・!?」
「ハア・・・もう・・・1時間を過ぎている・・・!」
すると医療施設の自動ドアが開き、残念そうな表情のズイナンが現れた。
「ズイのおっさん・・・!」
「・・・お前さんたち、無駄足だったな」
その言葉を聞いたアゼルとカネリは愕然とし、膝をついて打ちひしがれた。
「クソッたれ!!また仲間を救えなかった・・・!バズレイダの時と・・・何も変わっちゃいねえ!!!」
「手差ボンゴラ・・・惜しい男を亡くした・・・!」
カネリは己の無力さに涙を流し、アゼルはボンゴラの死を深く悔やんだ。
「お、おい・・・」
「って、二人ともひどいケガじゃないか!?ズイナンさん、急いで手当しましょう!!」
「「!?」」
アゼルとカネリは信じられない光景を目にして、口をポカンと開けていた。目の前に、死んだと思われていたボンゴラがいたからだ。
「ボンゴラ・・・お前・・・死んでもオレたちのことが心配で・・・!」
「いや待てMrズイナン、何をもって無駄足なのだ?」
「さっきの連絡聞いてなかったのか?ボンゴラが全員の呪いを解いたから、今までの苦労は無駄足だったなって言ったんだが・・・」
「じゃあボンゴラお前生きてんのかぁ!!?」
「俺としたことが、スマホのメッセージに気づかなかった・・・」
「二人のがんばりは無駄じゃないよ。色んな人の助けがあったからこそ、みんなを救えたんだ。改めてありがとう」
「うう・・・ボンゴラぁあああああ!!!」
ボンゴラの優しい感謝の言葉を聞いたカネリは、涙を流しながら彼の胴上げを始めた。
「ボンゴラ!ボンゴラ!ボンゴラ!ボンゴラ!」
「いやカネリ嬉しいけど、早く傷を治した方がいいよ!」
一方ズイナンは微笑ましい表情で二人を見守りながら、アゼルを手当していた。
「青春だねえ」
「その元気を分けてほしいものだ」
その日の夜、事後処理を終えた黒火手団は、事務所に戻りゆっくり休んでいた。
「いいなあボンゴラ、スコア3万点かよ!オレとアゼルはたった100点だぜ?」
「今回は結果的に、殆ど人助けに貢献出来なかった。100点でも貰えただけ有り難い」
「おれ一人の手柄じゃないんだけどなあ・・・」
「そろそろ教えろボンゴラ、どうやってデス・シンテージの呪いを解いたのだ?お前一人の力で、全員を解呪したとは黒に考えられん」
「他の人がいる前では言えなかったけど、最初に手を貸してくれたのはマナキちゃんなんだ」
To be next case




