案件88.妖しき翅
闇異八大属性の一つ【妖翅】は、速さと移動力に秀でている。頭部に羽を生やしているのが特徴で、空中を自在に飛び回り、時間と空間を操る技を得意とする。しかし打たれ弱い者が多く、羽が傷つくと飛行や技の発動に支障をきたす弱点がある。
矛貫隊の隊員モズロウが変異する聖明師と、フードバンクセンター・キガボクメツの元職員メグムことモッタナイも、この属性に該当する。
黒皇は強敵パボドレスが妖翅であり、その特性と弱点を熟知していた。それでも反撃一つできず窮地に立たされてしまったのは、彼女との実力差故である。
「やはりこの女・・・昨日仕留めたシルバーランクとは違う!」
『綺雀刃羽!!』
空中にいるパボドレスが両腕の翼を横に振ると、クジャクの羽根のような刃物が多数現われ黒皇に降り注いだ。
『黒幻自在!!』
黒皇は残像を伴う高速移動で綺雀刃羽をかわし、
ジグザグに動いて撹乱しつつ廃墟の中へ避難しようとするが、目の前に突然パボドレスが現れた。
「それはもう見切りましたわ」
妖翅は動体視力も発達し、彼女にとって黒皇の残像を伴う高速移動は、自転車程度のスピードに過ぎないのだ。
「くっ!」
『黒呪毒!!』
黒皇は咄嗟に、義手から呪いの液体をブシャーと撒き散らした。だがパボドレスは一滴も触れることなく瞬間移動し、黒皇の背後に回り込んで彼の後頭部にハイキックを決めた。
「がっ・・・!」
「それも見飽きましたわ」
黒皇は前のめりに倒れるかと思いきや、足を強く踏ん張り振り向きざまに黒騎剣を抜いた。しかし制御不能の斬撃すら、彼女の瞬間移動に届かなかった。
「その厄介な剣も通じなくてよ」
「黒に速過ぎる・・・打つ手はないのか!?」
「黒皇、むしろ誇りに思いなさい。この堕悪令嬢を前にしてここまで粘れたことを」
「・・・一つ聞きたい。それ程黒なスピードなら、もっと早く俺を仕留められるだろう。何故そうしない?」
「愚問ですわね。敢えて敵のあらゆる戦法を看破し、心をバッキバキにへし折り膝をつかせた上で、勝利を確信し見下ろしながら高笑いする。これこそが悪の醍醐味!そして堕悪令嬢のこの上ない嗜みでしてよ!!」
廃ビルの屋上からオーホッホッホと高笑いするパボドレスの姿は、悪に恥じぬ立ち振舞だった。その様子を見た黒皇は、悔しさのあまり膝をつき拳を地面に打ちつけた。
「何て黒な屈辱だ!貴様のような、『変質者』に敗北するとは・・・!」
「ブラックが口癖の貴方に、言われたくありませんわ!!」
パボドレスは黒皇の眼前に瞬間移動し、目にも留まらぬ回し蹴りを繰り出したが避けられてしまった。
(!?・・・まぐれですわね)
『黒幻自在!!』
黒皇は、パボドレスを囲むように残像を出しながら高速移動した。
「まだ悪あがきする余力が―」
パボドレスは黒皇の動きを見切っていた、にも関わらず彼の攻撃への対応が遅れ頬にかすり傷を負ってしまった。
(今度は油断・・・!)
パボドレスは気を引き締めるも、次第に黒皇の攻撃に対応できなくなっていた。
「どうした堕悪令嬢?俺の動きは見えている筈だろう!?」
(まぐれでも油断でもない!私の動きが鈍くなっている!!)
(考えられるのは、呪いで麻痺させる黒呪毒!しかし全て避けたはず!)
「黒皇!一体どんな手を!!」
「堕悪令嬢なら、悪知恵を働かせて解いてみろ!」
説明しよう!実はこの辺り一帯は、無色透明になるまで薄めたガス状の黒呪毒で満たされているのだ。
黒皇ことアゼルは彼女のスピードに対抗するため、気づかれずに動きを封じる作戦を事前に練っていた。
バークを逃がしたのは彼を巻き込まないため、そして逃げも隠れもせずパボドレスに挑み続けたのは、彼女をこの場に留まらせ呪いが効果を発揮するまで時間稼ぎをしていたからだ。
傷つき呪いで動けなくなったパボドレスに対し、黒皇はサーベルを向けた。
「つまり俺の黒は、貴様よりも一枚上手なのだ」
「意味不明ですが、私を倒せば貴方も呪われますわよ・・・」
彼女もデス・シンテージを使ってるかもしれない、下手に撃破すれば死の呪いが降りかかってしまう。しかし黒皇は動じなかった。
「そんなことは黒も承知だ―」
黒皇は錬黒術で黒い物体を生成し、それをロープのように細長くしてパボドレスを亀甲縛りにし、ロープの末端を廃ビルの屋上に固定し彼女を海老反りにして吊し上げた。
「これで暫くは動けまい」
「キーッ!覚えてなさい黒皇!!この屈辱は、必ず倍にして返しますわ!!!」
悪役として見事なまでの捨て台詞を吐いたパボドレスを無視し、黒皇は脳内通信で仲間たちに状況を報告した。
「こちら黒皇、パボドレスの無力化に成功した。少し休んだらカネリとMsハズミに合流する。以上」
その後黒皇は近くの廃墟の中に入り、ガクッと座り込んだ。
(チッ、想定より時間がかかったことで余計なダメージを負った。義肢のメンテを急がねば・・・!)
ボンゴラたちを蝕む死の呪い発動まで、あと19時間40分!それまでにこの異空間内に隠された、呪いを解く方法を探し出さねばならない!
その頃、矛貫隊のリンドー、バーク、ソラノ、フロンの4人は既に合流し、呪いを解く方法をしらみ潰しに探していた。
「アゼルの野郎、報告が遅えんだよ!」
「今頃激熱カネリも、射幸ハズミの加勢で危機を脱してるはずよ」
「後は解呪法を探すのみですね!」
「ていうか、ノーヒントで探すの無理じゃないですか?」
また同じ頃、浜辺ではカネリファイヤとガニューズメントが不滅氷と対峙していた。
「助かったぜハズミネキ!」
「あんなザコに負けてんじゃねえ!ハチの巣にしてやるぞ!」
「やってみなよ、死の呪いで返り討ちに―」
その時、異空間全域にサエラの声が響き渡った。
『あーあーテステス・・・よしOK、異空間内にいる全ての悪堕者と異救者に告ぐ!このゲームは急遽、中止にする!!!』
To be next case




