案件86.捻くれたルーキー
矛貫隊の新人隊員バークは黒皇に、亡き兄捻生ホドクの命を奪ったのはお前なのかと問い詰めた時、彼の脳裏には兄との思い出が甦っていた―
「バーク、大川さん家の窓ガラスを割ったのは、本当にお前なのか?」
「・・・そうだよ、オレが割ったんだ」
バークは10歳にも満たない頃から既に目つきが悪く、ホドクの質問に対し不貞腐れながら目を逸らしていた。
「い~やウソだな、顔に書いてある。自分がやったんじゃないって、ちゃんと言わないとダメだぞ」
「言ったよ何度も!でもオレ目つきが悪いから、何かあるとみんなオレを疑うんだ!何もしてないのに悪者扱いされて・・・オレもうヤだよ・・・!」
悔しさでボロボロと涙を流すバークに対し、ホドクは彼を優しく抱きしめた。
「バーク、お前がほんとはいい奴なのは俺が一番よく知っている。でも真実を伝えることを諦めちゃダメなんだ、お前を信じている人たちのためにも」
「兄ちゃん・・・」
バークにとって唯一の心の支えは、自分を信じて疑わない兄だったのだ。彼がいたからバークは、捻くれながらも悪事に手を染めず成長した。
「それでよアニキ、俺をいじめやがったパイセン共、ちょっと煽っただけでキレてボコってきたんだ。小型カメラで録画されてると気づかずになあ!」
「それをSNSに投稿したら、アイツら泣きベソかいてやがった!ザマァないぜ!」
ケラケラ笑いながら語るバークに対し、ホドクは呆れながら安心した様子だった。
「真実を伝えることを諦めるなとは言ったが、やり過ぎるなよ」
「アニキこそ、今度はあの黒理家を調べるんだろ?」
「死なねえよう気をつけるんだな」
「心配には及ばないさ」
しかしバークが小学校を卒業する前、ホドクは帰らぬ人となってしまった―
場面は現在に戻り、バークは険悪な様子で黒皇と対峙していた。
「黒理家の被害者が、こんな身近にいたとはな・・・」
「もう一度言うぞ、オレのアニキを殺ったのはテメェなのか?」
「・・・貴様の兄捻生ホドクは、異救者の不祥事を暴くジャーナリストだったな」
「ああ、黒理家が暗躍する事件を追って、事故に見せかけ殺されたんだ」
「自業自得だろ、一般人が身の程を弁えなかった結果だ」
「黙れクソ野郎!!」
激怒したバークが左手で黒皇の首根っこを掴み、右手で『ツイストクロー』の構えに入った。
このやり取りを離れた場所で聞いていたフロンとソラノは、バークを制止させようと彼の脳内に呼びかけた。
『私情を慎みなさいバーク!』
『今はそれどころじゃないでしょ!』
「外野は引っ込んでろ!これはオレとコイツの問題だ!!」
「さあ言え!アニキを殺したのはテメェなのか!!?」
怒りで取り乱すバークに臆することなく、黒皇は静かに答えた。
「俺ではない。貴様の兄が殺された当日、10歳だった俺は特例で異救者国家試験に臨んでいた」
「じゃあオレの兄貴を殺ったのは、テメェの身内の誰なんだ!?」
「・・・心当たりが多過ぎて、検討がつかないな。だがそれを知ってどうする?浅刺コズドと同じ様に復讐するのか?法の狗である貴様が」
「・・・・・!!」
黒皇に挑発されたバークが、彼の首をねじ切ろうと右手を伸ばした。
と思いきや、黒皇の首を掴んだまま左にどけて、彼を背後から斬りかかろうとする悪堕者の刃物を掴みねじ切った。
「!」
「テメェのせいで見つかったじゃねえか!」
黒皇とバークは悪堕者に取り囲まれるも、攻撃をかわしながらカウンターを次々と決めた。
「貴様が私情を挟んだのが発端だろ!」
「うるせぇ!とにかくオレを、あのクソ野郎と一緒にすんな!」
「黒理家の不祥事は、オレが暴いて捻り潰してやる!聖明機関矛貫隊隊員としてなあ!」
「貴様には無理だ、その前に俺が解体してより黒にするからだ!だが俺が救世主になった暁には、貴様を含む黒理家の被害者全員に相応の賠償を約束しよう」
「救世主になるのは、テメェじゃねえよ!」
バークの頭の中に浮かんだのは、矛貫オスタ隊長の姿だった。兄を失った直後、黒理家への復讐心に囚われた自分を補導し、進むべき道を示してくれたのが彼だったのだ。
ルールにうるさく、厳しい訓練を押し付ける気に食わない上司だと思ってる一方、兄と同様自分の顔立ちに囚われず信頼し、隊員の命を決して無下にしないオスタを、口には出さないが尊敬していた。
『気は済んだかしらバーク?後で命令違反と、上官に対する暴言の罰を与えるから覚悟なさい』
「うげっ!勘弁してくれよ副隊長!」
「自業自得だ馬鹿め」
同じ頃カネリファイヤたちは、合流地点を目指し砂浜の上を疾走していた。
「カネリさんごめんね、うちの同期が迷惑かけて」
「気にすんなソラコ!」
「いやソラノだって」
「それより静か過ぎないか?さっきまで敵がいっぱいいたのに―」
「僕の巻き添えを食らいたくないからさ」
その言葉を聞いた3人はザザザっと急停止した。何故なら彼女たちの前方に、氷草ケラシルこと不滅氷が現れたからだ。
「こいつ!霧明隊支部を襲った悪堕者だ!!」
「誰かと思えば、カネリファイヤと聖明師二人か。楽勝すぎてマジ冷めるわ」
一方黒皇とバークを取り囲んでいた悪堕者たちは、足元からクジャクの羽を模した魔法陣が現れ一人残らず姿を消してしまった。
「どうなってやがる・・・?」
「人払いをして差し上げましたの、貴方方は私だけの遊び相手ですから」
そう言って二人の背後から、茉由瑠院ラビライザことパボドレスが悠然と姿を現した。
「パボドレス・・・!」
「またお会いしましたわね黒皇、今回は何秒持つかしら?」
「・・・捻生バーク、こいつは俺が足止めする。貴様は先に行け」
「あ!?一人でカッコつけんなよ!この前瞬殺されただろ!!」
「こいつは逃げ切れる相手ではない!俺達の目的を忘れるな!!」
「コイツはここで倒さなきゃならねえ!例え呪われてもだ!!」
カネリファイヤもまた、不滅氷と戦うべき相手は自分一人だと確信していた。
「副隊長!」
『・・・ここは黒火手団に任せて、別の合流地点を目指しなさい!』
「了解、ソラノ行こう!激熱カネリ!アタシたちが戻るまでやられるな!!」
「黒理アゼル!後で泣きつくなよ!!」
「勝手に出て行くなよ」
「一人たりとも逃がしませんわ」
パボドレスと不滅氷が、矛貫隊に狙いを定めたその時、黒皇とカネリファイヤに阻止された。
「「貴様の相手は、この俺だ!!」」
こうして黒皇とカネリファイヤの、リベンジマッチが始まった!死の呪い発動まで、あと22時間10分!!
To be next case




