案件81.我ら闇異根絶団!
黒火手団は夕方頃、武装した一般人が闇異と戦っているとの通報を受け、事務所を出発した。
現場に到着すると、ヘルメットや防弾チョッキを着て鉄パイプを手にした3人組の男性が、鹿に似た角を生やし猫獣人のような闇異を一方的に痛めつけていた。
「どっちが悪者かわかんねえな!」
「そういう問題ではない」
「戦いを止めさせないと、変異!」
黒火手団の3人は変異し、カネリファイヤが猫型闇異を押さえ、黒皇とリチャウターは武装した3人の前に立ちはだかった。
「ここはおれたちに任せて避難して下さい!」
「冗談じゃない!お前たち異救者に任せられるか!」
「そこをどけ!」
「指示に従えないなら、呪いで麻痺させるぞ!」
両者が揉めている間、カネリファイヤは猫型闇異と激しく組み合っていた。
「角があるヤツは・・・何だっけ?まあいいや、お前それ以上暴れるとブッ飛ばしてやるぞ!」
「シャアアアア!!」
猫型闇異は、先程痛めつけられたせいでかなり気が立っており、カネリファイヤの忠告を聞かず、鋭い爪で切り裂いてきた。
「よ~しわかった、ゲキアツブッ飛ばすから歯ぁ食いしばれ!!」
カネリファイヤは猫型闇異のボディに強烈なパンチを決め、言葉通り遠くまで吹っ飛ばし見失ってしまった。
「ヤベ、飛ばしすぎた!」
「何をしているカネリ!早く追え!」
「俺たちの邪魔をするから取り逃がしたんだぞ!」
「これだから異救者はあてにならん!」
その日の夜、カネリファイヤが猫型闇異を探している間、黒皇とリチャウターは変異を解き、近くの喫茶店で武装した男3人の事情を聞いた。
「私は九字代マモル、サラリーマンだ」
「俺は木詰ボッコ、電気工に務めている」
「ぼくは板治ギータ、タクシー運転手だ」
「「「そして我々は、闇異根絶団!!!」」」
いい年した男性3人がテーブル席でビシッとポーズを決めるが、アゼルとボンゴラの反応はイマイチだった。
「すまない、黒コーヒーを一つ。で、貴様等一般人が闇異に挑むとは、どういう了見だ?」
「決まってるだろ、この街から闇異を根絶するんだ!」
「お前たちのやり方はぬるい!あんなバケモノども、この世から消えてしまえばいいんだ!」
「落ち着いて下さい、あなたたちと同じ人間なんですよ」
「【闇異差別禁止法】を知らないのか?」
「同じ人!?俺たち真人間が、闇異になるわけないだろ!」
「変異するのは、心が弱くて性根が腐った社会不適合者だけだ!」
「お前たちも闇異だから、仲間を庇ってるんだろ!」
「兎に角、闇異は貴様等の手に負える相手ではない。俺達に任せればいいのだ」
「これだけの装備で負けるはずがないんだよ!」
根絶団は御札や御守など、様々な闇異撃退グッズを、二人に見せびらかした。
「これらは闇異から身を守るためのものであって、戦うためのものではありません!」
「悪堕者の脱走を許したお前たちなんか信用できるか!」
「我々は我々のやり方でこの街を守る!」
その時、マモルのスマホが振動したためメールを確認した。
「妻の心配のメールだ。二人とも、明日も仕事だし今日はここまでにしよう」
「次じゃましたら承知しないからな!」
根絶団は不満そうに喫茶店から出るとそれぞれの家へと帰り、ボンゴラは浮かない顔で見つめていた。
「・・・・・」
「カネリと合流するぞ」
黒火手団の3人が揃った後、情報共有と腹ごしらえのため今度はラーメン屋に入店した。
「ワリぃ、あの闇異見つかんねえや」
「他の闇異と区別できるよう、名前考えようか」
「角猫闇異キャットラーが妥当だろう」
「キャットラーについて何か気づいたことある?」
「アイツと組み合った時、指に光る物がついてたんだよ」
「光る物・・・指輪か?」
「かなあ?」
「右と左の手どっちだった?あと何本目の指か覚えてる?」
「・・・左の・・・4本目だったような・・・」
「結婚指輪ではないか?」
「キャットラーの正体は、既婚者?」
「そうだ、あのヤロウ3人はどうなった?」
アゼルとボンゴラが闇異根絶団のことを説明すると、カネリは彼らの暴言を聞いて腹を立てた。
「ふざけんなアイツら!根性叩き直してやる!!」
「気持ちはわかるけど落ち着いて!」
「レッカさんが言ってた、ああいう差別をするから闇異が生まれるんだって!」
「同感だな、不当な差別など黒に値しない愚かな行為だ・・・」
アゼルは、差別に憤慨するカネリに目を逸らしながら呟いた。
「でもあの人たちは不安だから、いても立ってもいられないんだと思う。おれたちが頼りないせいで・・・」
「だからといって差別はダメだろ!」
「そうだね、まずはキャットラーを見つけよう。今度はおれが行くから2人は休んでて」
ボンゴラは先にラーメン屋を出て、キャットラーの捜索を始めた。
「ではお言葉に甘えて、濃厚醤油黒ラーメンを頼む」
「お前ってコーヒーとか黒いモンが好きだよな~」
「おっちゃん!オレ激辛味噌ラーメン特盛りで肉玉子ナルトメンマニンニク背脂全部マシマシね!」
「お前のは聞くだけで胃がもたれそうだ」
同じ頃、マモルが自宅のインターホンを鳴らすと、妻が出迎えに来た。しかし顔のところどころに痣があり、あまり元気はなさそうだ。
「どうしたんだミサコその顔!?」
「掃除してる時に目まいがして、転んじゃったの・・・」
「それよりまた闇異を探してたの?異救者に任せればいいじゃない・・・」
「お前もそう言うのか」
マモルは溜息をつくと、ミサコの両肩に手を置き優しく諭した。
「いいかミサコ、私はお前を愛している。お前が大切だから、闇異から守ってあげたいんだ」
「それに最近体調が悪そうじゃないか、闇異がいて不安なんだろ?」
「それは・・・」
「心配するな、お前は私が守ってやる。先に風呂入るよ」
「・・・・・」
洗面脱衣室へ向かうマモルの後ろで、ミサコは思い詰めた顔をしながら胸に両手を当てていた。そして彼女の左手の薬指には、結婚指輪がはめられていた。
(やっと掴んだこの幸せを、闇異なんかに潰されてたまるか!必ずお前たちを根絶してやる!!)
マモルはネクタイを外しながら、鏡に映った自分に向け闇異根絶を誓った。
To be next case




