案件78.卑劣な釣り人
燃えるショッピングモールの中、黒皇は悪堕者に苦戦を強いられていた。相手はコズドと同じシルバーランクで、呪いが効きにくい上に防御が厚く、傷一つつかないのだ。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
「ゴキブリみたいに黒くてしぶとい奴だ」
彼らの近くには、逃げ遅れた人を結界で守る異救者がいて、息が上がっている黒皇を心配そうに見つめていた。
「大丈夫か!?やっぱり加勢したほうが―」
「貴様等は被災者に集中しろ!!」
(ここで退けば被災者の命は無い!黒殺刑を使うべきか!?)
その時、モールの窓ガラスが突然割れて何かが飛び込み、黒皇の一歩手前の床に突き刺さった。
「何だ!?」
「これは・・・黒騎剣!?」
黒騎剣は、かつて特定危険呪物だった【血黒の鎧】の本体であり、政村呪物館で起きた怪事件を解決した礼として手に入れた。
切れ味は鋭いが、コントロールできないため実戦で使えずにいたが、主の危機を察し自らの意志で馳せ参じたようだ。
「・・・使えと言いたいのか」
「剣が増えたぐらいで!」
悪堕者が迫り来るが、黒皇はすかさず黒騎剣を床から抜き、すれ違いざまに敵を斬り裂いた。
「ぐあああああ!!!」
『錬黒術』で作った武器が通用しなかった悪堕者に、初めて有効なダメージを与えられた。しかし同時に、近くの柱に深い切り傷を与えてしまった
(・・・まだ制御はできないが、被災者と味方を巻き込まなければ!!)
同じ頃リチャウターは、モールから数km離れた3階建てビルの屋上で、シルバーランクのツリットルアットと彼の分身たちと戦っていた。
「どうだすごいだろ、ルアーくんの疑似餌分身は」
「今まで戦ってきた分身とは、一味ちがうぞ」
ツリットルアットが操る人型の疑似餌分身は、指だけでなく身体中に鋭い釣り針を備えていた。リチャウターが『救手パルマ』を放つために直接手で触れると、釣り針が刺さってダメージを受けてしまうのだ。
(100体近い分身が相手じゃ身がもたない!こうなったらダメージ覚悟で、『救手ハグネード』だ!!)
リチャウターが『救手ハグネード』の構えに入った直後、ツリットルアットの右手に装着した釣り人の人形が釣り竿を振り、リチャウターの鼻に釣り針を引っ掛けた。
「いっ!」
そしてツリットルアットが勢いよく釣り竿を振り上げると、リチャウターが空中に高く放り上げられ、今度は釣り竿を思い切り振り落としリチャウターを床に叩きつけた。
「うああ!!!」
「大技は使わせないぞ」
「やるねえ釣りくん」
ダメージが蓄積したリチャウターは、おぼつかない足取りでゆっくりと立ち上がった。
「・・・お前はどうして、こんなことをするんだ?」
「ん?」
「え?」
「どうして人を傷つけ苦しめるだけでなく、人助けを邪魔するんだ!?彼らがお前に何をした!?こんなことをして何の意味があるんだ!?」
「「う~ん・・・」」
リチャウターの必死の問いに対し、ツリットルアットは両手の人形を使って考えるしぐさをした。
「別の恨みとか、特に深い意味はないよ」
「他人が傷つこうが苦しもうが、ボクたちの知ったことじゃないしね」
「「自分さえよければ、他人なんてどうでもいいじゃないか」」
「・・・・・!!」
リチャウターは静かに怒りが込み上げていた。ツリットルアットの抑揚のない発言から、こいつは心の底から他人に興味が無く、傷ついても苦しんでも何も感じないのだと理解した。
「釣りくん、そろそろシメようか」
「そうだねルアーくん、これでポイントゲットだ」
疑似餌分身がリチャウターに一斉に襲いかかってきた、絶体絶命のピンチである!!
『チャンプファイヤー!!!』
と思いきや、突然放たれた火炎放射で疑似餌分身たちは消し炭になった。あまりに急な出来事で、リチャウターとツリットルアットは目を見開いた。
「待たせたな!カネリファイヤ、ゲキアツ参上!!」
リチャウターの背後から、カネリファイヤが姿を現した。
「カネリ!」
「なぜここがわかった!?」
「俺が黒な天才異救者だからだ」
そう言って黒皇が、背後からツリットルアットの首を斬り飛ばした。
「アゼル!」
「こうなることを想定して、お前達に発信機を渡して正解だった」
「お前のメカも、たまには役に立つよな!」
「何時何時も役立っているんだよ!」
「二人ともありがとう!もうダメかと思った・・・」
「いや、まだ終わってないぞ」
黒皇の言う通り、疑似餌分身たちの動きは止まらず、頭部を失ったツリットルアットがゆっくりと立ち上がった。
「よくもやってくれたな・・・!」
「魚のエサにしてやるぞ!」
「・・・どうやら奴の本体は、両手に装着した人形らしい」
「頭はかざりなのか!?」
「ボンゴラ、『救手ハグネード』は使えるか?」
「それくらいの余裕はある!」
「俺とカネリは活動時間が残り少ない、お前の必殺技で黒に決めろ」
「守りはオレたちにゲキアツ任せな!」
「頼んだ!」
リチャウターが『救手ハグネード』の構えに入り、黒皇とカネリファイヤは疑似餌分身たちを蹴散らしていった。
「釣りくん、奴の必殺技を止めるんだ!」
「任せてルアーく―」
その時黒皇の素早い斬撃が、ツリットルアットの右手を切断した。
「釣りくーーーん!!」
「アゼル下がれ!巻き込まれるぞ!」
ついにリチャウターが、必殺技を放つ時が来たのだ。
「お前たちの無情な心、おれがこの手で浄化してみせる!『救手ハグネード!!!』」
ツリットルアットは逃げようとするも間に合わず、切断された右手ごと光の渦に飲み込まれてしまった。
「うわあああああ!釣り糸が身体に絡まるぅううううう!!!」
ツリットルアットの肉体は次第に削ぎ落とされ、釣り竿とルアーに姿を変え落下した。と同時に疑似餌分身たちは、動かなくなり小さな人形に姿を変えた。
「アイツら人間じゃなかったのか!」
「かつての黒騎剣と同様、呪物が変異して生まれた闇異だ」
「だから人間味が薄かったんだ・・・」
「それどうする?」
「この釣り竿セットは、後日Mrシャルドに寄贈してやろう」
「あ!また緊急案件の通知だ」
勝利の余韻に浸る間もなく、3人がスマホ画面を確認すると驚くべき内容が記されていた。
「霧明隊支部が、悪堕者に襲われてる!!?」
To be next case




