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案件76.留置所のコズド

 時期は5月中旬、カネリとボンゴラは霧満山(きりみやま)から数十km離れた、聖明機関(せいみょうきかん)霧明隊(きりあけたい)支部に訪れた。そこに収監されている、悪堕者(シニステッド)のコズドと面会するためだ。


「あの黒モヤシ、『(コズド)の復讐など(ブラック)に興味が無い』とかほざきやがって・・・!」

「しょうがないよ、その間に依頼人が来るかもしれないし」


 看守の許可を得て面会室に入ると、窓ガラスの向こうに不機嫌な顔をしたコズドがいた。変異できないよう、首と手足に封印の枷をかけられている。


「お前ゲキアツ反省してねえな!」

「・・・オレを嘲笑いに来たのか?」

「話をしに来たんだ」


「話だと?テメェも復讐は止めろと言いに来たのか?何度も言うが、オレはこの恨みを抱えたまま泣き寝入りするつもりはねえ。必ずこの世界に復讐してやる!そしてテメェらもだ!」


「いい加減にしろこの―」

「その前に、君のことを色々教えてほしい」

「・・・あ?」


「おれも復讐はよくないと考えてる、恨み合い闇を広げるから。でも止めるだけじゃ、きっと君を救うことはできない。復讐以外の方法もあるし、復讐しかなくてもやり方はあるはずだ」


「おれはこの手で君を救いたい、そのためには知らないといけないんだ。君がこれまで受けてきた苦しみや、先代聖女暗殺事件の全貌を」


 コズドはボンゴラの真っ直ぐな眼差しを見て、コイツは本気で自分を救うつもりなのだと理解し、苛立ちが沸き上がった。


「息をするように綺麗事吐きやがって・・・虫唾が走るんだよ!オレを救う方法はただ一つ!この世界の全ての人間を叩き割り復讐するだけだ!!!」


 コズドは拳で窓ガラスを叩きながら怒声を上げたが、カネリとボンゴラは臆することなく真剣に見つめていた。


「・・・チッ」


 コズドは少し冷静になると、淡々と語り出した。


「・・・オレの親父、浅刺(あさとげ)カズトは義理堅い男だった」

「・・・!」


「『恨みは忘れていいが、受けた恩は忘れるな』。それが口癖のお人好しが、命の恩人である先代聖女を殺すなんて、絶対ェありえねえ」


「だがオレはこの恨みを決して忘れない、そしてテメェらの救いもいらねえ。必ずこの手で、復讐を果たす!」


「コズド・・・」

「面会の時間は終わりですよ」


 看守の指示に従い面会室を出る前に、ボンゴラはコズドに声をかけた。


「コズド、話してくれてありがとう。また来るから」

「・・・二度とそのツラ見せるな」


 2人が退室した後、コズドは天井を向いて溜息をついた。


「・・・なんで話したんだよ?」




 カネリとボンゴラは霧明隊(きりあけたい)支部を出て、最寄りのワープゾーンを目指しながら会話していた。


「親父のことしかわからんかったな」

「それでも一歩前進だよ」


「ボンゴラ、アイツも救ってやろうぜ!」

「そうだね」


(コズドの人生を狂わせた先代聖女暗殺事件と黒火手団(おれたち)は、決して無関係じゃない。必ずこの手で救ってみせる!)


その時、一人の青年が必死な顔で2人に助けを求めてきた。


「あなたたち異救者(イレギュリスト)ですよね!?向こうで人が倒れてるんです、来て下さい!!」




 カネリとボンゴラが青年に案内されたのは、人気が少ない空き地だった。そこで4,5人の人が血を流して倒れていたのだ。


「カネリは救急車を呼んで、119番!」

「任せろ!」


 カネリがスマホを使用している間、ボンゴラは怪我人に駆け寄り呼びかけた。


「大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」


 その時、倒れていた負傷者の指が釣り針のように鋭くなり、ボンゴラの左腕の袖を引き裂いた。


「えっ―」

「ボンゴラ!?」


 なんと倒れていた怪我人たちが立ち上がり、通報した青年と共に2人を囲んだのだ。


「どういうつもりだテメェら!」

「操られている!?」


 操られた人々が釣り針のように鋭い指で襲いかかり、カネリは彼らを傷つけまいと攻撃を避け続けた。


「くっそ!ヘタに殴れねえ!」

救手(すくいて)パルマ!!』


 ボンゴラの手から浄化の光を放ち、操られた人々を次々と無力化していった。


「ナイスボンゴラ!」

「いや、人間じゃない!」


 操られた人々は次第に小さくなり、釣り針がついた人形に姿を変えた。


闇異(ネガモーフ)の分身だ!」


 その時、100体近い数の分身が四方八方から現れ、カネリとボンゴラを包囲した。


「コイツは悪堕者(シニステッド)の仕業だな!!」




 同じ頃、カネリとボンゴラが分身たちに囲まれている様子を、遠くで見物している者がいた。


「ねえねえルアーくん、『疑似餌分身』を出し過ぎじゃないかなあ」

「いやいや釣りくん、相手は黒火手団(くろびてだん)、油断は禁物だよ」


「何よりボクたちの『昇進』がかかってるんだ、手を抜いちゃあいけないよ」

「そうだねルアーくん、一緒にがんばろう」


 その人物の正体は黒装束を纏った闇異(ネガモーフ)で、釣り針のように先端が尖った冠と、左右の手に疑似餌と釣り人を模した人形をつけているのが特徴だ。


「「ぼくたち操釣闇異(あやつりネガモーフ)ツリットルアットは、必ずゴールドランクになってみせるぞ!!」」


To be next case

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