案件69.揺れるヌクラマ国
朝7時頃、ハトノス事務所の大会議室は、緊急応援要請を受けた第48班をはじめ、各班の学生と引率の異救者全員が集まり騒然としていた。
「やっぱり大変なことが起きたんだ・・・」
「ゲキアツヤベえのは間違いないな!」
「SNSを調べてみろ、黒な事態になっているぞ」
アゼルがスマホを見ている途中で、ツドウのスピーチが始まった。いつもは笑みを絶やさないツドウだが、今回ばかりは真剣な顔をしていた。
『みんな来てくれてありがとう。何人かはもう知ってると思うけど、今ヌクラマ国は大変なことになっている。まずはこれを見てほしい』
ツドウがリモコンを操作すると、大会議室の照明が消され壁にかけられた巨大スクリーンに映像が映し出された。
そこに映っているのは、豪華な椅子に踏ん反り返って座る大男だ。顔と身なりは整っており、筋骨隆々で不敵な笑みを浮かべている。
『ご機嫌ようヌクラマ国の諸君、私の名は尾後里タツマ。突然だが、ヌックリ鉱山は我々が制圧した。返してほしくば、竹谷ヨブローと盾守ツドウ、君たち二人だけでこの山に来るのだ』
「ヌックリ鉱山!?どこだ!?」
「インターンの最初期に行っただろ、脳筋雌ゴリラめ」
「ホリオさんたちは無事なのか!?」
『ヌックリ鉱山は、国内の地下資源産出量ナンバーワンだけではない。闇のエネルギーも豊富に眠っており、その地下鉱脈は国内全ての鉱山とつながっている』
『そこに改良を重ね、特定危険呪物と化したシンテージを投げ込んだら、どうなると思う?』
タツマがカメラの前でシンテージを見せつけていると、画面の端から身体を縄で縛られたホリオが現れた。
『バカなマネはやめるだ!そんなことしたら国中の闇エネルギーが暴走して、みんな闇異になるか死んじまうべ!!』
『シャラ~ップ!そいつを黙らせろ!』
『うわ何するだ!やめ・・・』
ホリオはタツマの手下に口を封じられ、画面の外へ姿を消した。その様子を見たボンゴラはホリオの身を案じ、カネリは怒りを露わにした。
「ホリオさん!」
「この前オレを暴走させたのは、アイツらだな!」
『理解してもらえたかな?我々はこの山の作業員だけではない、この国の国民全員の命を握っている。彼らの命が惜しければ、今日の正午までにヨブローとツドウ二人だけで来るのだ!』
『決して不意を突こうなどと、余計なことは考えるなよ?シーユーアゲイン!』
ここでタツマの犯行声明が終了すると同時に、大会議室の照明が明るくなった。そしてツドウのスピーチが再び始まった。
『この動画がSNSに投稿されたのは今朝の6時、期限まで残り5時間を切っている。国民たちはパニックになり、他のチームと聖明機関が彼らを落ち着かせ、闇の発生を抑え込んでくれている。君たちもこれに協力してほしい!』
事態の重さに学生の多くが息をのむ中、ツドウはマイクをヨブローに渡した。
『各班の配置と任務の内容を、君たちのスマホに送信した。場合によっては闇異との戦闘もあり得る、学生たちは異救者の指示に従い、無理のない範囲で人助けするんだ!』
各班がメッセージの内容を確認し速やかに退室する中、第48班の前にハズミが現れた。
「貴方達3人は、私と一緒に来てもらいます」
「ハズミさん?」
ハズミに案内され第48班が指導室に入ると、ツドウとヨブローが待っていた。アゼルは自分たちだけ別室へ移動されたことに、重大な目的があると考えた。
「・・・事情を説明してもらうぞ」
「君たち3人は、おれたちと一緒に来てほしい」
「でもツドウさん、約束を破ったらみんなが―」
「手差ボンゴラ、敵が約束を守るとは限りませんよ」
「人手が限られる以上、並の異救者より強い君たちが頼りなんだ」
ボンゴラはアゼルとカネリにはまだ敵わないが、初変異から1ヶ月半の時を経て技を磨き、実戦で十分通用する力を身に付けていた。
第48班の実力を信じるツドウは、彼らの同意を得て作戦を説明した。
「おれとヨブローさんで、タツマたちの気を引き時間を稼ぐ。その間にハズミと48班は、地下鉱脈を奪還しホリオさんたちを助けてほしい」
「私とツドウ君が力を合わせれば、きっとタツマを倒せる」
「だが奴らが制圧している地下鉱脈は、ヌックリ鉱山のどこにある?山の至る場所に坑道があり、迷宮の様になっているんだぞ」
「あの山にはこの前来た時、『シーリングシールド』を置いて闇を抑えていたんだ。ハズミならその場所がわかる」
「ガニューズメントの感知能力を以ってすれば、ツドウさんが設置した盾の所在を全て把握できます」
「さすがツドウさんの秘書・・・!」
「若干能力を誇張してないだろうな?」
「タツマがおれを呼んだのは、『シーリングシールド』をどうにかしたいからだろう。正午までまだ時間はある、しっかり準備を整え30分前に事務所の入口で集合だ!」
「了解した」
「カネリ話わかった?」
「山の下にいる奴らを、ブッ飛ばせばいいんだな!」
その時ハズミが、3人に不思議な文字が描かれた御札を渡した。
「これは何ですか?」
「隠密の御札です。身に着けていれば気配が消え、敵に発見されにくくなります。これを使って、敵が制圧した地下鉱脈に接近し奇襲をかけます」
ボンゴラが衣服の上から左胸に御札を着けると、御札がペタっと貼り付いた。
「これでどう?」
「ボンゴラ!?いなくなったのかと思った!」
「お前も早く貼れ、御札を貼った者同士なら認識できる」
「ただし気配を消しただけなので、過信は禁物です。また生身の時でしか効果を発揮しません」
「ハズミさん、ありがとうございます」
そして11時半頃、アゼル、カネリ、ボンゴラ、ツドウ、ハズミ、ヨブローの6人は、戦いの準備を終えハトノス事務所を出発した。
To be next case




