案件68.ボンゴラの提案
将来入団するチームを決めかねている第48班に対し、ツドウは自分たちで新たなチームを作ることを提案したが、プライドの高いアゼルとカネリは、互いに組むことを拒み独自に仲間集めを始めた。
「黒な天才である俺と、新たなチームを結成しないか?スコアを存分に稼げる上、実績次第で相応の地位を約束しよう」
「オレ様と組んで、ゲキアツなチームを作ろうぜ!」
「・・・まあ、考えとくよ」
「ごめんね、わたしもう志望チーム決まってるんだ」
二人はインターンの合間に、他の学生を手当たり次第勧誘するが、反応はイマイチだった。実力はあれど、過激な発言と行動が目立つ二人と組もうとする物好きは、中々いないのだ。
(チッ、また脈なしか)
「全然集まんねえな~」
アゼルとカネリは丸1日かけて学生全員に声をかけたが、一人も収穫は得られなかった。
「カネリ、俺は既に10人近く仲間を集めたが、お前は何人だ?」
「あ~、オレは100人くらいだな」
「下手な嘘をつくんじゃない」
「アゼルくんも本当なの?」
ボンゴラに指摘されたアゼルは、少しムッとした表情をした。
「そう言う貴様は何人集まったのだ?」
「おれはインターンが始まって1ヶ月間、色んな学生を見てきたけど・・・」
「アゼルくんとカネリさんが、一番だと思う」
「お前もアイツと同じこと言うのかよ!」
「その理由は?」
「おれと同じように救世主を目指している上、相応の実力を持っているから」
「アゼルくんの天才的頭脳と、カネリさんの圧倒的な力に、浄化が使えるおれが加われば、もっと多くの人が救え、もっと多くのスコアが稼げると思うんだ」
「・・・・・!」
「類稀なる力を得て間もない凡人が、俺と対等になれたような言い草だな」
「全ての人を救うためなら、天才だって超えてみせるよ」
スパイの名門黒理家の元天才アゼルと、数万の闇異を相手に生き残ったカネリと比べれば、ボンゴラは取るに足らない存在だろう。
だが彼の真剣な眼差しは、並々ならぬ覚悟を秘め静かに燃えていることを、アゼルとカネリは感じ取っていた。
「それでも組むのが嫌なら提案だけど、おれたち3人のスコアの合計が100億を超えた時、一番スコアを稼いだ人が残る二人のスコア全てを手にするのはどう?」
「ハァ!?」
「正気か!?」
ボンゴラの思わぬ提案に、アゼルとカネリは大きく驚いた。スコアの譲渡は、救世会の厳しい審査を通れば可能なのだ。
「おれたち3人が、競い合うようにスコアを稼いでいけば、100億はすぐに貯まるはずだ」
「寝言は寝て言え!落ちこぼれと凡人のスコアを足しても、俺が稼ぐスコアと比べれば雀の涙にすらならないぞ!」
一方カネリは、ボンゴラが自分と同じように大切な人と救世主になることを約束し、暴走した時に助けてくれたことを思い出していた。
「う~ん・・・ヨシ!お前がそこまで言うなら、オレの仲間にしてやってもいいぜ!」
「ありがとうカネリさん!」
「ただしオレが代表で、チーム名はゲキアツ団だからな!」
「勝手にしてろ、俺はお前達と組むなど黒にお断りだ!」
そう言ってアゼルは階段を上がり、自室へ戻って行った。
「アゼルくん・・・」
「やめとけあんなヤツ!」
(仲間集めも大事だが、自身の強化も並行して行わねば)
アゼルの部屋は物が散乱せず綺麗に整い、ベッドや机などの家具はほぼ黒一色だった。また窓が付いた棚の中に、アゼルの義肢の予備が保管されている。
アゼルは棚から予備の義足を取り出し机に置くと、今度は引き出しからドライバーやピンセットなどを取り出し、義足の外装を外してカチャカチャといじり始めた。
(義足のバッテリー容量を増やしたいが、同時に重量も増えてバランスが悪くなる・・・。昨日のカネリとの組手も、反応速度は瀬戸際だった・・・)
(・・・黒に値が張るが、最新型バッテリーの購入も検討するか―)
その時、耳元でブ~ンという奇妙な音が聞こえたため振り向くと、ハエが素早く変則的な動きで室内を飛び回っていた。
「・・・・・」
アゼルは表情を変えず無言のまま、左義手の人差し指を指し、ハエに狙いを定めた。
『黒死令!!』
アゼルが鋭い殺気を放つと、飛び回っていたハエが急に止まり、そのまま床に落下した。そしてゆっくりとしゃがみ、落ちたハエを確認すると脚をピクピクと動かしていた。
(チッ、即死には至っていない・・・!殺気だけで標的を殺す黒理家の奥義、『黒死令』。このインターンが終わるまでに、何としても復活させねば!!)
身体の半分近くと闇異の力を失ったアゼルは、必死の思いでリハビリしながら学校に通っていた。
しかしそれでも全盛期の頃の自分には遠く及ばず、黒理家に伝わる数々の技は弱体化し、一部は使えなくなってしまった。
(俺は黒な天才、黒理アゼル!必ず全てを、取り戻してやる!!)
同じ頃カネリとボンゴラは、チームを組んだことで打ち解け合い、会話が弾んでいた。
「―黒理家にいた頃は、ずっと辛い思いをしてたんだね」
「だからオレは誓ったんだ、救世主になってオレを捨てたアイツらをゲキアツ見返してやるって!戻って来いと言われてももう遅い!!」
「そしてオレを拾い育ててくれたのが、レッカさんと激熱家のみんなだ!レッカさんたちとの約束を果たすためにも、救世主にオレはなる!!」
「カネリさんにとって、激熱家の人たちこそが本当の家族なんだね」
「あったりまえよ!」
「あ、この前聞けなかったけど、カネリさんはどうして『バズレイダの英雄』って呼ばれるのが嫌なの?」
その瞬間、さっきまで得意気に話していたカネリが顔をしかめ、ボンゴラを睨みつけた。
「ごめん!話したくないならいいんだ」
「・・・大切な人たちを救えなくて、何が英雄だよ」
「今まで散々世話になったのに、オレのせいでレッカさんたちは・・・!」
カネリは憤りと同時に、悲しげな顔をしていた。ボンゴラは彼女の様子から、黒理家にいた頃よりも辛い思いをしたのだと察した。
「カネリさん・・・」
その時、カネリとボンゴラのスマホが同時に鳴り出し画面を見ると、学生への緊急応援要請のメッセージが届いていた。
「ヌックリ山で闇異暴走と落盤事故により、応援求むだって!」
「ヌックリ山?どっかで聞いたような・・・」
「Mrホリオの仕事場だ!」
アゼルのスマホにも緊急のメッセージが届いたため、自室から飛び出してきた。そして3人は準備を整え、現場へと移動した。
「ついて来んなアゼル!」
「目的地は同じだろ!」
「ホリオさん、そして作業場のみんな!待っていて下さい!!」
To be next case




