案件66.課題クリアの裏で
カネリファイヤの暴走が止まった翌日の朝、ハトノスの異救者たちは事後処理に追われていた。一方学生たちは、避難指示が解除されたため仮設住宅に戻って来た。
「おい聞いたか!?昨日の夜あのボンゴラが変異して、カネリを浄化したんだってよ!」
「マジ!?たった一人だけ変異できなかったアイツが!?」
「浄化技が使える闇異って、聖明師以外だとかなりレアじゃない!?」
「48班はみんな揃ってヤベェぞ!」
「ところで今日の実技演習は?」
「体育館はボロボロだから自主練だろ」
その頃ボンゴラは、事務所の医務室でマナキの夢を見ていた。
『ありがとうマナキちゃん、君のおかげで大切なことを思い出せたよ』
『どういたしまして、もう忘れちゃダメだよ!』
『おれが信じるままに、この手でみんなを救ってみせる』
『そうすればきっと、あなたは救世主になれる。わたしはずっと待ってるから―』
ボンゴラが夢から覚めると、近くにはヨブローがいた。
「ヨブローさん・・・ここは・・・そっかおれ、カネリさんを浄化した後、ずって寝てたんですね・・・」
「初めて変異して技を多用したから、疲れが一気にきたんだろう」
「ボンゴラ君、ハトノスの代表として君に心から感謝する。だが勝手な行動をとったのは、許されない」
「二度も約束を破って、すみませんでした・・・」
「人ならざる力を制し、人助けに必要な実力と覚悟を満たす者が、一人前の異救者だ。そうでない者は自分だけでなく、大勢の人を危険に晒す可能性がある。今回は非常に運が良かったに過ぎない」
「・・・・・」
「罰として、千字以上2千字以内で反省文を書くこと!さらに今日から1ヶ月間毎日補習!土壇場で目覚めたその力、使いこなしてみせるんだ!」
「はい!この手でものにしてみせます!」
「そうだ、みんなはどうなったんですか?」
「アゼル君は自室で休んでるよ、カネリ君は聖明機関に預けて再封印中だ。ツドウ君とハズミ君は彼らと話をしているよ」
同じ頃、医務室から離れた一室で、ツドウとハズミと、聖明機関の女性隊員が話し合いを始めた。
「オスタ隊長は別案件で忙しいから、代わりに私が対応するわ」
彼女の名は雪伏フロン、聖明機関矛貫隊の副隊長であり、銀色の長髪でクールに微笑んでいる。
「まず激熱カネリの再封印は、今日中に終わる予定よ。今度はそう簡単に解けないよう、しっかり封印してあげるわ」
「つまり前回の封印は、そう簡単に解けてしまうものだったのですか?我々を管理する立場でありながら、少々弛んでいるのではないでしょうか?」
「ごめんなさいね、私たちはあなたたちの活動に差し支えないよう、一人ひとりのメンタルやランクに合わせて、封印を調整してるの。特級の秘書であるあなたなら、その大変さをわかってくれると思ったんだけど」
ツドウとオスタもまた、救世主を目指すライバル同士。それ故か、ハズミはオスタの右腕であるフロンに、対抗心を燃やしているようだ。
「まあまあ二人とも、悪いのはカネリの封印を解いた奴だよ。そこら辺の話が知りたいな~」
「まだ犯人を特定できてないけど、あの子の暴走と昨夜乱入した闇異の集団に、繋がりがあることはわかったわ」
「繋がり?彼女と国内の無法者たちに、どのような関係が?」
「両者の身体を調べた結果、これを投与されたことがわかったの」
そう言ってフロンは、暗い虹色の油のような液体が入った、怪しいアンプルを取り出した。
「これは・・・【シンテージ】!」
「そう、人を強制的に変異させる呪物よ」
「元々セイブレスで流通していた代物だけど、最近は救世会加盟国に横流しされていて、隊長たちは取り締まりで大変なの」
「しかも激熱カネリに投与されたのは、封印を解除できる新型。異救者を暴走させるリスクが高いから、特定危険呪物に認定したわ」
「まさか彼女が姿を消したのは、敵の拠点に連れて行かれ、新型シンテージの実験台にされたから?」
「私もそう考えて犯人の居場所を聞いたけど、あの子も無法者たちも記憶を消されていたわ」
「手がかりなしか・・・」
「でも隊長は、犯人はまた何か仕掛けてくると踏んでいるの」
「なんせここは、闇の地下資源が眠る国。聖女様の浄化が効かなかったのも、関係しているかもしれないわね」
「雪伏フロン、言葉を慎んで下さい。それは我々とハトノスの幹部だけの機密情報です」
「大丈夫だよハズミ、この部屋は防音対策されているから」
「あなたの言う通り気をつけるわ。この情報が外部に漏れたら、国民たちが不安を抱いて闇が充満し、地下の闇エネルギーを刺激しかねないから」
「だからカネリが暴走した時も、公にしないよう政府にお願いしたんだ」
「そう言えばツドウは、色々と無茶をしていたわね」
「国内の鉱山を回って、『シーリングシールド』で闇のエネルギーを封印し、消耗した状態でバズレイダの英雄に挑んだのだから。万一に備えて私たちが呼ばれたけど、学生に出る幕を取られて少し残念だわ」
「無茶をしたことだけは同感です、貴方も慎んで下さい!」
「ごめんよハズミ、聖女様がまた来てくれるまでの辛抱だから・・・」
「年内に入国する予定だから、それまで頑張ってね」
「フロンも忙しい中、来てくれてありがとう!お礼にこの―」
「盾以外をお願いするわ」
「そんなあ・・・」
「私はこれから、国境の警備を厳しくするよう政府に要請するわ。もちろん国民の感情に配慮してね」
「よろしくねフロン」
するとツドウは、首にかけている盾型のペンダントに声をかけた。
「アゼルもここで話したことは、絶対秘密だからね!」
「気づいていたのか!流石は特級異救者・・・!」
アゼルはツドウの目を盗み、ペンダントに盗聴器を仕掛けていたのだ。
『とりあえず、学生のおいたはあなたたちに任せるわ』
『今回は不問としますが、次やったら心臓を撃ち抜きますよ』
その直後、ブツッという音と共に盗聴器からの電波が途絶えた。
(・・・特級が一国に長期滞在するのは、黒な理由があると思っていた)
(だがそれより黒なのは、あの男だ!取るに足らない存在だと評価していたが、まさか浄化能力に目覚めるとは・・・黒に侮れん!)
(手差ボンゴラ・・・貴様の名、覚えておくぞ!)
(そして、昨日の朝食の後始末を押し付けた借り、必ず返してもらうぞ!)
「たっだいまー!封印ゲキアツ疲れたハラ減ったー!!ボンゴラあとで勝負しろー!!!」
カネリは再封印を終え、48班の仮設住宅に帰ってきたのだ。
「五月蝿い雌ゴリラめ・・・!」
こうしてボンゴラは闇異に目覚め、アゼルとカネリは彼をライバルとして認め始めた。だが闇渦巻くインターンシップは、まだ始まったばかりである!
To be next case




