案件65.この手に覚悟を
「ボンゴラ君が戻って来ただって!?」
20時55分、窮地に立たされた仲間たちを救うべく駆けつけたバンブーオーは、仲間の一人から事情を聞いていた。
「はい!カネリファイヤが体育館にいると教えたら、急いで入って行きました!」
「何故引き止めなかったんだ!」
「すみません!ですがボンゴラ君は手から不思議な光を放ち、闇異を次々と無力化していったんです・・・」
ヨブローはふと周りを見渡すと、目立った傷がない十数人の闇異が倒れていた。
「これを、ボンゴラ君が・・・!?」
同じ頃、体育館の中は戦いの影響で火の手が上がり、暴走カネリファイヤとエスクディアンが組み合う中、黒皇とガニューズメントは人の姿に戻っていた。
「二人とも早く外に出るんだ!このままでは、一酸化炭素中毒になってしまうぞ!」
「貴方を置いて逃げる訳には・・・!」
「ハイスコアを得るチャンス、棒に振ってたまるか・・・!」
その時、一体の闇異が乱入しアゼルに襲いかかった。格下と言えど、変異する力を失い傷ついたアゼルにとって危険な相手である。
ハズミは闇異の気を引こうと発砲するが効果はなかった。エスクディアンもカネリファイヤの相手で手一杯だ。
「逃げるんだアゼル!」
「冗談ではない!こんな黒な状況・・・!」
次の瞬間、今度はボンゴラが乱入し、光り輝く手で闇異に掌底を当て転倒させた。
「ボンゴラ!」
「何故!?」
「貴様何をしに来た!?戦う力も、覚悟も無い分際で!!」
「助けに来たんだ!現実にのまれてずっと忘れていた!」
掌底を受けた闇異は、狙いをボンゴラに切り替え反撃を仕掛けた。それに対しボンゴラは、盾で攻撃を防ぎながら語り出した。
「おれに必要なのは、戦う覚悟なんかじゃない!例え綺麗事や理想論だと言われても、だれ一人残さず絶対救う!それが、おれの覚悟なんだ!!」
闇異の渾身の一撃で盾は粉々に砕かれてしまい、ボンゴラは後退した。
「カネリさんもアゼルくんも!ツドウさんもハズミさんも!ハトノスのみんなも!この手で救ってみせる!!」
炎に照らされたボンゴラの顔は、一切の迷いがない真剣な表情をしていた。
「変異!!!」
ボンゴラの身体から闇のエネルギーが溢れ出し、全身を覆い尽くした。しかし闇異はその隙を突こうと襲いかかってきた。
ボンゴラはそのまま闇異と組み合い投げ飛ばすと、身体を覆う闇が弾け飛び、ずんぐりした体型で頭部に指のような突起を5本生やし、ピンクのマフラーを巻いた白いボディの闇異が姿を現した。
8月15日21時7分、燃える体育館の中で、ついにボンゴラは変異を成功させた。
「馬鹿な!?」
「このタイミングで・・・!」
「いいぞボンゴラ!」
「ボン・・・ゴラ・・・?」
ボンゴラの変異に一同が驚き、暴走するカネリファイヤが一瞬だけ意識を取り戻した。一方敵闇異がゆっくり起き上がり、言葉を発した。
「オマエェ・・・オマエはナンナンダ!?」
ボンゴラは敵闇異を見据えながら、マナキと過ごした日々を思い出していた―
『マナキちゃんできた!おれが考えた最高の異救者だ!』
9歳だった頃のボンゴラは、自由帳に描いた異救者をマナキに見せた。それはやや歪だが、ボンゴラが変異した姿に酷似していた。
『すごーい!なんて名前なの?』
『まだ決めてないんだ、この手でどんな人も救えるんだけど・・・』
『じゃあ、わたしがつけてあげる!手を差し伸べるって意味で―』
「救手異救者・・・リチャウターだ!」
その時バキバキという音を伴い、体育館の屋根が崩れ出した。その真下にいるハズミに危機が迫る。
『リチャウターはどんな技が使えるの?』
『まずは救手アーム!腕を伸ばしたり手を大きくしたりして、みんなを助けるんだ!』
『救手アーム!』
ボンゴラことリチャウターは、右腕が長く伸びると同時に右手が巨大化し、ハズミの頭上に覆い被さって瓦礫から守った。
「ハズミさん大丈夫ですか!?」
「ええ、助かりました・・・」
闇異が不意打ちを仕掛けてきたが、リチャウターはすぐに察知し光を発する掌底で迎え撃った。
今までとは違い、救う覚悟を決めたリチャウターの戦いに迷いはなく、洗練された動きで闇異を圧倒した。
『次は救手パルマ!手から光を出して攻撃するんだ、でも相手にダメージを与えずに浄化できるんだよ!』
救手パルマを何度も打ち込まれた闇異は、力尽きて人の姿に戻った。
「二人ともこの人をお願い!あとはカネリさんだ!」
そう言ってリチャウターは、暴走カネリファイヤと戦うエスクディアンに加勢した。
「ボンゴラ、おれにはもうカネリを救う力は残ってない。君に賭けてもいいかな?」
「必ず救ってみせます!」
その直後、カネリファイヤがオラァアアア!!と叫びながら二人に襲いかかったが、2枚の『サドンシールド』に前後から挟まれ、動きを封じられてしまった。
「サポートは任せろ!」
「ありがとうございます!『救手パルマ!!』」
リチャウターは『サドンシールド』の隙間から、救手パルマを連続で打ち込んだが、カネリファイヤは力を振り絞り『サドンシールド』とリチャウターをはね除けた。
「浄化が効いてない!?」
「パワーが足りないんだ、もっと強力な浄化技はあるかい?」
「・・・あります、ただ準備に時間がかかるので、稼いでいただけますか?」
「異救者きっての盾男に任せろ!!」
リチャウターが精神を集中させると、マフラーと両手が光輝き出した。
エスクディアンがカネリファイヤを押さえてる中、ハズミが銃を発砲し、アゼルが痺れるクナイを飛ばしてきた。
「対闇異用麻酔弾です、今の激熱カネリに有効か定かではありませんが」
「これでも無いよりは黒にマシだろう・・・!」
「サンキュー二人とも!」
そしてついに、リチャウターが必殺技を放つ準備を整えた。
「ツドウさんお待たせしました!離れて下さい!!」
「待ってたぜ!」
エスクディアンはカネリファイヤを転倒させてから、その場を離れた。
『リチャウターの必殺技なんにしよう?』
『二人で一緒に考えようよ!』
「カネリさん!この手で、救ってみせる!!」
『救手ハグネード!!!』
リチャウターの両手から、螺旋状に回転しながら光輝くエネルギーが放たれ、カネリファイヤをのみ込み、体育館の天井を突き抜けて上空に舞い上げた。
劣勢から押し返し、闇異たちに勝利したハトノスの異救者たちは、信じられない光景を目の当たりにした。夜空に光り輝く巨大な竜巻が現れたのだ。
竜巻が消えると浄化されたカネリが落下し、リチャウターが受け止めると意識を取り戻した。
「カネリさん大丈夫?」
「・・・やるじゃねえかボンゴラ・・・ありがとよ・・・!」
21時42分、カネリ救出作戦は成功に終わった。
To be next case




