案件64.燃える体育館
19時18分、ボンゴラが緊急時用のワープゾーンで移動した直後に、カネリ救出作戦が始まった。
まずツドウは、シーリングシールドに閉じ込められたカネリファイヤを体育館の中へ運び、アゼルとハズミも同行した。
「確認ですが黒理アゼル、ツドウさんと私との連携に対応出来ますか?」
「問題無い、1ヶ月近く黒な訓練を施されたからな」
「こういう時に備えてきてよかったよ!」
一方ハトノスの異救者総勢50人は、体育館を囲むように立ち並んだ。
「みんな!変異だ!」
4人が体育館に入ったのを確認すると、ヨブローことバンブーオーの合図で異救者たちが一斉に変異した。
「『竹籠結界』、起動!!」
バンブーオーの合図と同時に、体育館から無数の地下茎が伸びて、異救者たちの足に絡みついた。そして体育館が彼らのエネルギーを吸収すると、光り輝き出した。
(私の力で作ったこの体育館は、みんなの力を糧にヌクラマ国最強の檻となる!)
「今のカネリ君を止められるのは、あの3人しかいない!我々は彼女の攻撃が体育館から漏れないよう、全力を尽くすんだ!!」
「シーリングシールドはそろそろ限界だ、おれたちも変異するよ!」
「「「変異!!!」」」
19時26分、結界の起動を確認したアゼル、ツドウ、ハズミも闇異に変異した。
「アッハハハハハ!!行くぜヤロウどもぉおおお!!!」
「やれやれ、こんな時でもガニューズメントは通常運転か」
「ハズミ、先手よろしく!」
ハズミが変異した姿の名は、悦砲異救者ガニューズメント。頭部の中心に照準器のような巨大な眼をもち、その周囲には機関銃の弾を連結した帯が髪の毛のように垂れ下がり、身体中に様々な銃器を装備している。
「喰らえぇ!『ハピネス乱射』ぁあああ!!!」
ガニューズメントは2丁のガトリング銃を取り出し、ズダダダダダッとカネリファイヤを盾諸共撃ちまくった。理知的なハズミとは思えない、大胆不敵な戦いぶりだ。
「アハハハハハ!人を撃つのってチョー気持ちイイ!!」
「これでよく秘書が務まるな」
「ハズミは変異するとハイになるけど、自我を保ててるから大丈夫だよ」
ガニューズメントの銃撃は凄まじく、体育館の内壁に多数の流れ弾が命中し穴だらけになったが、『竹籠結界』の効果ですぐに修復した。
激しい銃撃で煙が立ち込める中、カネリファイヤがゆっくりと立ち上がった。身体中に銃弾を受け血を流しているが、いずれも筋肉を貫けず大したダメージを負ってはないようだ。
対してガニューズメントは動揺することなく、小回りが利く二丁拳銃に持ち替えた。
「中々やるじゃん、バズレイダの英雄」
「オレを・・・バズレイダのエイユウって、呼ぶんじゃネェエエエエエ!!!」
暴走するカネリファイヤが、館内を火の海にしてしまうほどの『チャンプファイヤー』を口から放った。
『ジャンボシールド!!』
ツドウことエスクディアンは、前方に巨大な盾を発生させ激しい炎を遮断した。
「ついに正気を失ってしまったか・・・」
(盾越しにも関わらず黒な熱気だ・・・!)
次にカネリファイヤは『バーニングストレート』で『ジャンボシールド』を殴り壊し、その勢いを止めず3人に襲いかかった。
『サドンシールド!!』
カネリファイヤの目の前に突然3枚の盾が現れ、身体に激突し動きが止まった隙に、黒皇が素早く斬りつけ、ガニューズメントが再び銃を撃ちまくった。
かつて数万の闇異を撃破した激熱モードのカネリファイヤだが、特級異救者とその右腕、さらに黒理家の天才が相手では分が悪かった。
19時35分、カネリファイヤは3人の連携攻撃に歯が立たず、息を切らし始めた。
「ハア・・・ハア・・・!」
「やれやれ、黒に世話の焼ける妹だ」
「次でハチの巣にして、ボロッ切れにしてやるよぉおおお!!!」
「ハズミ~、手加減してあげて」
この調子ならカネリファイヤの暴走を止められる、そう思ってた矢先にエスクディアンが体育館の異変に気づいた。
「『竹籠結界』が消えた!?」
同じ頃、体育館の外では思わぬアクシデントが起きていた。なんとハトノスの異救者たちが、正体不明の闇異軍団に襲われていたのだ。
「何だこいつら!?」
「こんな時に!」
謎の闇異の攻撃を受けて、数人の異救者たちが人に戻ってしまった。
「まずい!『竹籠結界』を維持できない・・・!」
結界の力を失った体育館に代わり、エスクディアンが体育館の内壁を無数の盾で埋め尽くし、カネリファイヤの攻撃が外へ漏れるの防いでいた。
しかしこうなっては、エスクディアンは盾を維持するのが精一杯だ。
「ごめん!二人だけでカネリを頼む!」
「ここまで削れれば、俺とMsハズミで十分!」
「しっかり守れよツドウさんよぉ!!」
(外の様子が気になる、だがおれたちがここを離れるわけにはいかない!ヨブローさん、ハトノスのみんな、持ちこたえてくれ!!)
20時30分、ボンゴラは盾を背負いながら無我夢中でマフラーを追い、ハトノス事務所を囲む竹林の中へ入って行った。
「あった!やっと見つけた!」
マフラーは、ボンゴラの手が届く高さの竹の枝に引っ掛かっていた。
「結局戻って来ちゃった、みんなの邪魔にならないようワープゾーンで戻ろう」
マフラーを首に巻いたその時、近くで爆発音と人の叫びが聞こえたため、気になって様子を見ると、体育館の前でハトノスの異救者と闇異が戦っていた。
「な、なんで闇異が!?」
既に異救者たちの半数近くが人に戻り、戦える者は生身の仲間を守りながら防戦を強いられている。
さらに体育館は半壊し、ところどころから黒い煙が漏れ出ていた。
(これって、かなりまずい状況なんじゃ・・・!?)
残念なことにボンゴラの勘は的中していた。体育館の中ではエスクディアンが召喚した盾のほとんどが損壊し、黒皇、エスクディアン、ガニューズメントは傷つき膝をついていた。
「ゲキアツにぃ・・・してヤルぞテメェら・・・!」
「カネリめ・・・これ程の力を持っていたとは・・・!」
「ここで守らなきゃあ、盾男を名乗れないよ!」
「気をしっかり持ちなヤロウ共!!!」
20時36分、ボンゴラは傷つき倒れる異救者たちを目の当たりにして、ジレンマに陥っていた。
(みんなを助けなきゃ!でも闇異相手に何ができる!?足を引っ張るだけだろ!)
ボンゴラは僅かな可能性に賭けて変異を試みた、しかし当然のように何も起こらなかった。
「どうしてこんな時でも変異できないんだ!おれには何が足りないんだ!!戦わないといけないのはわかってるのに!!」
助けるべき状況だが自分にはその力がない、ボンゴラのジレンマが極限に達した時、脳内で過去の記憶が蘇っていた。
『人を傷つけることに慣れてなくて・・・』
『世の中話し合いで解決できりゃあ、ゲキアツ苦労しねえんだよ』
『全ての人を救うために救世主を目指すといったが、それは黒な理想論だ』
『力で制するのが、君の目指す救世主かい?』
『綺麗事だけでは、人は救えないんです』
『本当にそれでいいの?』
『戦う覚悟もできている!なのに、何が足りないんですか!?』
『ボンゴラくん、忘れちゃったの?』
『思い出して!わたしとの・・・』
『約束を!!」
(マナキちゃんとの・・・約束・・・!!)
その時ボンゴラは、何かを思い出したかのように目を見開いた。
To be next case




