案件63.カネリ暴走
ボンゴラが気がつくと、目の前に悲しげな表情のマナキがいた。
「マナキちゃん!・・・心配かけてごめん、必ず救世主になって迎えに行くから―」
『ボンゴラくん、忘れちゃったの?』
「え?」
『思い出して!わたしとのや―』
「マナキちゃん!!」
ボンゴラが思わず手を伸ばすと、その先に見えたのは自室の天井だった。
「・・・夢か、何を忘れた?」
8月15日朝5時半頃、ボンゴラは台所へ移動し食事の準備を始めた。インターンの学生たちは班ごとに、家事分担のルールを決めることになっている。今日第48班の朝食を担当するのはボンゴラだ。
6時頃、朝食のできたタイミングでアゼルがやって来た。
「珍しいね、カネリさんが遅れるなんて。食べ物の匂いがしたらすぐ飛んでくるのに」
「知らないのか?奴は昨夜の筋トレから戻って来てないのだ」
「そうなの!?ちょっとスマホで呼んでみる」
「放っておけ、子供じゃないんだぞ」
ボンゴラはカネリに連絡を試みるが、電源が入ってないか、圏外を知らせるアナウンスが聞こえた。
「だめだ繋がらない・・・!」
「勉強について来れず、黒に不貞腐れているのだろう」
「アゼルくんは心配じゃないの!?」
「奴とは疾うの昔に縁を切った、どうなろうと俺の知ったことではない」
「・・・わかった、アゼルくん後片付けよろしく!」
「待て!何故俺が―」
ボンゴラはアゼルの制止を振り切り、カネリを探すため仮設住宅を飛び出した。
「カネリがいないって!?」
6時12分、ボンゴラはハトノス事務所で、ツドウとハズミに事情を説明した。
「スマホの電源を切ってるか圏外で、こんなことは今まで一度もありませんでした!」
「わかった、ハトノスの異救者たちに協力をお願いするよ」
「ツドウさん、今日のインターンは如何なさいますか?」
「予定通りやるけど、カネリの捜索に協力できるか声かけといて」
「ところでアゼルは?」
「俺の知ったことではないと言ったので、置いてきました」
「そっか、おれたちも探しに行こう」
「はい!」
ボンゴラたちはカネリを探して国中を回ったが、手がかりは全く掴めず時刻は18時を過ぎた。
「ツドウさん!カネリさんは見つかりましたか!?」
「いや、ここまで探して見つからないと、何かの事件に巻き込まれたかもしれないね。隣国の異救者たちにも聞いてみるよ」
「今日はもう遅いから、ボンゴラはハトノスで待機するんだ」
「・・・わかりました」
18時29分、ボンゴラは一足先にハトノス事務所に戻り、日が沈み始めていた。
(カネリさん、戻ってきてないよなあ・・・)
そう思いながら周囲を見渡すと、なんとカネリが事務所の敷地内で横たわっていた。
「カネリさん!!」
ボンゴラは思わずカネリさんに駆け寄り呼びかけると、カネリが目を覚ました。
「カネリさん大丈夫!?みんな心配したって熱っ!!」
ボンゴラがカネリの頬に触れると、体温が普段よりも熱く、苦しそうな表情をしていた。
「風邪ひいたの!?すぐ医務室に行こう!」
ところがカネリは起き上がると、ボンゴラを思い切り突き飛ばした。
「カネリさん!?」
「そんなこと・・・してる場合じゃねえ・・・!」
「オレから離れろぉおおおおお!!!」
次の瞬間カネリがカネリファイヤに変異した。だがこちらも様子がおかしい、右半身の痣から激しい炎が噴き出しているのだ。
「・・・え?え!?」
「ナニやってんだボンゴラ・・・早くシねえと・・・ヤキツクしちまうぞぉ!!」
するとカネリファイヤの身体が発光し始め、危険を感じたボンゴラがその場から離れようとしたが遅かった。
カネリファイヤの身体から激しい光が放たれ、ボンゴラがその光に飲み込まれたと思いきや―
『サドンシールド!!』
ボンゴラの前に盾が現れ、激しい光からボンゴラを守った。
光が止んでボンゴラが辺りを見回すと、カネリファイヤの周囲100平方mと自身を守った盾が黒焦げになっていた。あまりに突然の出来事で、ボンゴラは愕然としていた。
「な、なんだよこれ・・・!」
「ボンゴラ大丈夫か!?」
ツドウが変異した姿、エスクディアンが現れた。彼が盾を出さなかったら、今頃ボンゴラは消し炭になっていただろう。
「ツドウさん!カネリさんの様子がおかしいんです!」
「激熱モード!?とにかく今は封印が先だ!」
『シーリングシールド!!』
エスクディアンの前に、封印の文字が描かれた縦長の盾が4枚出現し、宙を舞ってカネリファイヤを囲むように閉じ込めた。
「ごめんねカネリ、必ず助けるから・・・!」
19時14分、ハトノスの事務所は騒然とし、学生たちは敷地外へ避難を始めていた。そんな中ボンゴラは、ツドウに事情の説明を求めた。
「ツドウさん教えて下さい!カネリさんに何があったんですか!?」
「カネリは今、闇異の力を制御できず暴走状態なんだ」
「暴走!?でもおれが知る限り、そんな兆候はありませんでした!」
「しかもあの姿は、闇異鍵で厳重に封印されてるはず。普通じゃありえない・・・!」
「原因は兎も角、いずれカネリは理性を失いこの事務所だけでなく、ヌクラマ国そのものを焦土に変えるだろう」
「アゼルくん!?」
「来てくれると思ったよ、やっぱり妹が心配なんだね!」
「勘違いしないで頂きたい、目的はあくまで報酬の仮スコア5千点だ」
「ヨブロー代表、学生の避難が完了しました!」
「わかった、我々もカネリ君の暴走を止めるぞ!」
ヨブローの呼びかけで、ハトノスの異救者たちはオーッと一斉に声を上げた。
「ツドウさん!カネリさんを助けるならおれも―」
「変異出来ない貴様に何が出来る?戦う覚悟すら無い半端者は、黒な足手纏だ!」
アゼルに正論を言われたボンゴラは、何も言えず黙り込んだ。
「大丈夫!おれは異救者きっての盾男だぜ!みんなと力を合わせ助けてみせるさ!ボンゴラも早く安全なところへ!」
「・・・カネリさんのこと、お願いします」
19時38分、事務所から10キロ以上離れた避難所では、学生たちが不安そうに話し合っており、そこにはボンゴラの姿もあった。
「インターンどうなるのかなあ?」
「あのカネリが暴走したんだって?いい迷惑だよ!」
「あんたもこの前まで何度も暴走してたでしょ!」
一方ボンゴラは己の無力さを悔やみながら、現実を受け入れようとしていた。
(これでいいんだ・・・ツドウさんたちがいるから、きっと大丈夫―)
と思ってる最中、ドーンと爆発音が鳴り、ボンゴラは思わず避難所の外へ出た。心配になりハトノス事務所がある方向を見ると、夜空が少し明るく黒煙が立ちのぼっていた。
「・・・・・!」
さらに突風が吹いて、ボンゴラが首に巻いているマフラーが、事務所の方へ飛んで行ってしまった。
「しまった!マフラーが・・・!」
戻ってはいけないとわかっているが、マナキからもらった大切なマフラーを、失うわけにはいかない。
ボンゴラは導かれるようにマフラーを追い、暴走するカネリファイヤと、それを止めようとするツドウたちの元へ戻って行った。
To be next case




