案件62.ボンゴラの苦悩
「3人ともお疲れ!人助けした後のご飯はきっと美味しいよ!」
インターン二日目の夜、鉱石泥棒を懲らしめた第48班はツドウと共に、再びハトノス事務所の食堂に集まっていた。
「またメシおごってくれるのか!?」
「その必要はないでしょ、君たちには仮スコアがあるんだから」
第48班は泥棒の捕獲に貢献したことで、仮スコアをそれぞれ50点ずつ獲得した。換金すれば5万イェンになる。
「今後に備えて、なるべく温存するのが黒だな」
「どーせスコアにならないなら、パーッと使えばいいだろ!」
ご飯を食べ終わったカネリは、一度席を外し食券売り場へ向かった。
「酢豚に春巻き、チンジャオロース!ゲキアツ美味いぜ!」
「筍を用いた料理ばかりで、よく飽きないな」
「事務所の周りには竹がいっぱい生えてるからね、タケノコがよく採れるんだよ」
「噂だとヨブローさんは、美味しくて栄養満点なタケノコを育てるために、自分の『細胞』を使ってるらしいよ」
「ナニィ!?サイボウってなんだぁ!?」
「自分で調べろ」
「そういやボンゴラ、ドロボウとの戦い見てたぜ!ボンクラだと思ってたが、ちゃんと鍛えてんだな!」
「・・・うん、だれかを守るため護身術をね」
既にご飯を食べ終わったボンゴラは、自分の手を見つめ浮かない顔をしていた。
「どうしたんだいボンゴラ、悩みがあるなら相談に乗るよ」
「人助けのためとは言え、人を傷つけることに慣れてなくて・・・」
「そっか、中々慣れないよね・・・」
「なんだお前、そんなこと気にしてんのか?」
「世の中話し合いで解決できりゃあ、ゲキアツ苦労しねえんだよ。いちいち気にしてたら、救世主になれねえぞ!」
「一理あるが、お前のような馬鹿もなれるとは到底思えんな」
「んだと黒モヤシ!」
「貴様は昨夜、全ての人を救うために救世主を目指すといったが、それは黒な理想論だ。救いも価値観も人それぞれ違う、人を傷つけ命を奪うことに快楽を見出す輩もいる。そいつを救うために生贄でも用意するのか?」
「それは・・・」
「だが救世主の座を継承すると同時に、世界を思い通りに救う力が与えられる。その力を利用し人格改変等を行うなら話は別だが」
「・・・やっぱりおれには、救世主になる覚悟が足りないのかな?」
「力で制するのが、君の目指す救世主かい?」
「ちがいます・・・でも、学校の実習で色んなことを学びました。綺麗事だけでは、人は救えないんです」
ボンゴラはそう言いながら、手を強く握り締めた。
「すみませんおれ、今から自主トレ行ってきます」
ボンゴラは食器を返却口に片付けた後、早々と食堂から出て行った。
「ボンゴラ・・・」
「オレもメシ食ったら自主トレだな!」
「・・・・・」
「ハッ!ヤァッ!」
ハトノスに隣接する体育館は夜も営業し、追加料金を支払えば戦闘訓練用ロボットを借りられる。ボンゴラはロボット相手に、ひたすら拳と蹴りを叩き込んでいた。
「ハア・・・ハア・・・、戦うことに慣れさえすれば―」
『ボンゴラくん、本当にそれでいいの?』
ボンゴラはマナキの声が聞こえたと思い振り向いたが、そこに彼女の姿はなかった。幻聴だったようだ。
「・・・疲れてるみたいだ、ここまでにするか」
時期は8月中旬、インターン開始から1ヶ月以上が経過した。炎天下の体育館では闇異に変異した学生たちが、激しい組手を行っていた。
ハズミが彼らを静かに見守っている時、ツドウが視察にやって来た。
「ハズミお疲れ、Aグループのみんなはどう?」
「概ね順調です、ほぼ全員が闇異に変異できるようになり、個人差はありますが身体能力や精神力、活動時間等が改善しつつあります」
「ただ一人を除いてですが」
「・・・ボンゴラか、彼は今どこに?」
「1時間前に10キロマラソンを始めました、そろそろ戻って来るはずです」
「と、うわさをすれば・・・」
ボンゴラが息を荒げ汗だくになりながら、マラソンから帰ってきた。
「ボンゴラお疲れ、クエン酸ドリンク飲むかい?」
「ありがとうございます・・・」
ボンゴラは600mlのドリンクを一気飲みして、少し元気を取り戻した。
「ハズミさん、お願いがあります。おれに学校規定の5倍の、闇のエネルギーを当てて下さい」
「・・・その理由は?」
「今日まで3倍の闇を浴び続けましたが、全然変異できませんでした。多分足りないんだと思います、もっと高濃度の闇を浴びれば―」
「その度に倒れた貴方が、それ以上の闇を浴びると命に関わりますよ?」
「やってみないとわからないじゃないですか!それくらいの覚悟はあります!」
「ボンゴラ、勇気と無謀を履き違えちゃいけないよ。君の頼みは聞き入れられない」
「なら闇を受け付けない体質のおれは、どうすれば変異できるんですか!?これまで必死に身体を鍛え、必要な知識と技術も身につけ、戦う覚悟もできている!なのに、何が足りないんですか!?」
ボンゴラは、自身の不甲斐なさから来る怒りを吐き出した後、ハッと我に返った。
「!二人とも、すみません・・・学校で同期や後輩にどんどん差をつけられた悔しさが、今回と重なって・・・頭冷やしてきます、本当にすみませんでした」
ボンゴラはタオルで汗を拭きながら体育館に入り、隅で学生たちの組手の見学を始めた。
「いいのですかツドウさん、彼にアドバイスしなくて」
「あとは自分自身で、見つけるしかないんだ」
(ボンゴラ、おれは信じてるよ。君がこの課題を乗り越えられることを!)
その日の夜、カネリは一人外で自主トレに励んでいた。仮スコアで購入したサンドバッグに、ひたすらパンチを打ち込んでいた。
「オラオラオラ!オラァーッ!!!・・・休憩!」
カネリは地面に座り、夜空を眺めながら一休みを始めた。
「くっそー、勉強がゲキアツ頭に入ってこねえ。このままじゃアゼルやボンゴラに負けちまう!なんとかしねえと・・・」
その時、カネリが後ろから謎の薬物を打たれ、その場で倒れてしまった。
「だれだ・・・テメェ・・・」
カネリの背後には怪しい人影がいたが、彼女はその正体を見破れず意識を失ってしまった。
果たしてカネリは、この後どうなってしまうのだろうか!?
To be next case




