案件61.真夏の人助け実習
インターン二日目の昼、ボンゴラたち第48班は引率のツドウと共に、ハトノス事務所の食堂で昼食をとっていた。
「今日はおれの奢りだ、3人とも遠慮なく食べていいよ!」
「ツドウさん、ありがとうございます!・・・だけど、カネリさん食べないの?」
なんとあの大食いのカネリが、目の前に料理があるにも関わらず、白目を剥き魂が抜けたような顔で天井を見上げていた。
「モウヤダ・・・オレ・・・ベンキョウシタクナイ」
「Bグループのメイン課題は、人助けの知識と技術の習得なんだよね。カネリファイト!」
ツドウがカネリにご飯を勧める中、アゼルは淡々と食事に手をつけていた。
「アゼルくんたちCグループは、どんな演習をしていたの?」
「他のグループへの口外が許されない、黒な演習だ」
(口が裂けても言えるか!この俺が、公衆便所の掃除をしていたなどと!!)
Cグループは素行や経歴に問題のある学生たちが集められ、人助けの基本を学ぶという課題が課せられていたのだ。
「Cグループは近くの公園を掃除して、アゼルはそこのトイレを担当してたんだ」
「そうだったんですか、アゼルくんお疲れ様」
「ツドウ貴様ァ!!」
「公園にいたみんなに、感謝されたからよかったじゃん」
昼食後、ようやくカネリが元気を取り戻し、午後の実習に臨もうとしていた。
「よっしゃあ!ゲキアツやってやるぜぇ!!」
「また便所掃除ではないだろうな?」
「それもいいけど、3人にはもっとやってほしいことがあるんだよな~」
「それは?」
「それは・・・採掘作業のお手伝いだ!!」
第48班とツドウは、ハトノス事務所から遠くない鉱山の採掘作業場に訪れた。
「ここはヌックリ鉱山、地下資源産出量は国内ナンバーワン!3人は地中から掘り出した鉱物を、運び出す仕事をやってもらうよ。ということで、彼らのことお願いします!」
「おう!任せるべ!」
4人の前に、小太りで無精髭薄を生やし、薄汚れた作業着を着た中年男性が現れた。
「おらぁ堀掘ホリオ、この採掘場の現場監督だべ。まずは3人とも、向こうの小屋で作業着に着替えるだ」
「わかりました、ツドウさんは一緒じゃないんですか?」
「おれは他に用事があってね、何かあったらすぐ戻るよ」
アゼル、カネリ、ボンゴラの3人は作業着に着替え、トロッコに積まれた鉱物を指定の場所まで運ぶ仕事を始めた。
「便所掃除よりかはマシか・・・」
「ヘイヘイ、その程度のパワーかヤロウども!」
アゼルとボンゴラが汗をかきながら運んでる中、カネリは余裕の表情で二人の倍の量を運んでいた。
「くっ、脳筋雌ゴリラめ!」
アゼルはカネリに負けまいと、力を振り絞り運ぶペースを上げていった。
「二人とも安全第一だよ・・・」
鉱物の搬出を始めてから1時間後、ホリオの許可を得て第48班は水分を取り休憩していた。3人の中でとくにボンゴラの疲れが酷く、かなり汗をかいていた。
「こんな仕事、ゲキアツ楽勝だぜ!」
「いい気でいられるのは今の内だぞ」
「夏だから、熱中症にならないよう気をつけないと・・・」
「二人はいいなあ、闇異に目覚めた影響で身体能力が上がってるから」
「悔しかったらお前も、オレみたいなゲキアツ闇異になるんだな!」
「将来性を考慮するなら、黒な闇異に変異すべきだ」
「いいやゲキアツだ!」
「黒一択だ!」
何気ない会話から、アゼルとカネリが再びいがみ合ってしまった。
(話題を変えて気を逸らそう・・・)
「ずっと気になってたけど、二人はどうして名字がちがうの?」
「こいつが黒な落ちこぼれだから黒理家から追放され、問題児の掃き溜め激熱家に引き取られたのだ」
「テメェ激熱家をバカにすんな!」
「激熱家はなあ、レッカさんをはじめゲキアツなヤツらがいっぱいいる最ッ高のチームなんだぞ!」
「だがお前以外は全員、バズレイダの戦いで戦死したではないか」
「バズレイダ!?じゃあカネリさんは、【バズレイダの英雄】!?」
カネリの縁の地であり、激熱家の事務所があるバズレイダ国は、今から3年くらい前にセイブレスに侵略されてしまった。
カネリは敗北したものの、たった一人で数万のセイブレスを撃破したことで、バズレイダの英雄と呼ばれるようになった。
「オレは英雄なんかじゃねえ!次言ったらブッとばすぞ!」
「それはどういう意味―」
「大変だー!鉱石泥棒だべー!だれか捕まえるだー!!」
ホリオの声を聞いた3人は、一斉に声がする方へ向かった。
「ツドウさんに言った方が・・・」
「それでは間に合わん!」
「テメェが言ってこいや!」
カバンに鉱石をいっぱい詰め込んだ3人組の男が、採掘場を全力で走っていた。
「チョロいもんだぜ!」
「加工前のレアメタルでも、売れば大金になるぞ!」
その時、泥棒たちの前にアゼルとカネリが立ちはだかった。
「何だ生身の人間か」
「変異するまでもねえぜ!」
しかし泥棒たちは走ることを止めず、刃物と銃を取り出した。
「ケガしたくなかったら、そこをどきやがれ!!」
泥棒の一人がアゼルに向けて銃を撃つが、アゼルは常人離れしたスピードでこれを躱し、クナイを投げつけて反撃し、発砲した泥棒の左肩に当てた。
「しっ痺れる・・・!」
「麻痺の呪いが込められたクナイだ、黒に効くだろう」
一方カネリは、刃物を振り回す男の攻撃を紙一重で避けつつ、ボディーブローによるカウンターを決め制圧した。
「まいったか!」
「二人とも!まだ一人残ってるべ!」
最後の泥棒は仲間二人に目もくれず、無我夢中で逃げていった。
「無駄だ、すぐ追いついて―」
その時、ボンゴラが泥棒の横側に体当たりをぶちかまし、倒れた拍子でカバンの中の鉱石が散乱した。
「自首してください、今ならまだ引き返せます!」
ボンゴラは倒れた泥棒の前で膝をつき手を伸ばすが、泥棒はナイフを振り回しボンゴラの頬に傷を負わせた。
「―ッ!!」
ボンゴラは傷の痛みを怯むことなく、泥棒の腕を掴んでそのまま投げ倒した。
「ぐぅ・・・痛ぇ・・・!」
「・・・・・!」
それから少しして、騒ぎを聞きつけたツドウが戻ってきた。
「遅くなってすみません!皆さん大丈夫ですか!?」
「心配いらないべよ、あの子らが泥棒を捕まえただ」
ホリオが指を指した方を見ると、ロープに縛られた泥棒3人と、手柄を上げ勝ち誇った様子のアゼルとカネリがいた。
しかしボンゴラは、自分の手を見つめ悲しげな表情をしていた。
To be next case




