案件60.スパルタ秘書ハズミ
インターン二日目の朝、ハトノス事務所の前で演習を控えた学生たちが集まり、その中には第48班の姿もあった。
そして学生たちは、異救者の指示でA、B、Cの3グループに分けられ、それぞれの演習場所へ移動を開始した。
「おれたち3人別々のグループだね」
「短時間でもお前の顔を見なくて清々するよ」
「そらこっちのセリフだバーカ!」
ボンゴラをはじめAグループの学生たちは、ツドウの秘書を務めるハズミの案内で、事務所に隣接する竹でできた体育館に訪れた。
「貴方達Aグループの共通課題は、闇異の力を実用可能なレベルまで磨き上げることです。ちなみに体育館の使用料は、異救者が指導する演習に限り無料となります」
「まずは全員一斉に変異して下さい」
「「「変異!!!」」」
ハズミの指示で10人以上の学生が変異を試みるが、姿が変わらなかったり、変異できても数十秒で戻ってしまった。ボンゴラも何度も変異と叫ぶが、やはり変化は見られなかった。
(おれ以外にも、変異できない人はいるんだ・・・)
「もういいです、大体把握しました」
「変異してると疲れるんだよな~」
「5秒が限界だよ・・・」
学生たちが変異を解き休んでる中、一人だけ様子がおかしい闇異がいた。
「す、すみません・・・オレ・・・抑え切れなィイイイイイ!!!」
なんと変異した学生の一人が理性を失い、ハズミに襲いかかってきた。
「暴走したぞ!」
「ハズミさん危ない!」
ボンゴラがハズミを助けようと駆け寄るが、彼女は上着から素早く拳銃を取り出し、闇異の頭部をパァンと吹き飛ばした。
余りに突然の出来事でボンゴラをはじめ一同は唖然としたが、撃たれた闇異は学生の姿に戻り頭部も元通りになった。
「・・・既に講義で習ったと思いますが、闇異は死ぬと元の姿に戻り復活します。元の姿が無事である限り、闇異の力が少しずつ回復し、再び変異できるようになります」
ハズミが淡々と説明している時、彼女を襲った学生は苦悶の表情で頭を抱え横たわっていた。
「うぅ・・・頭が痛い・・・!」
「ただし変異した時に負ったダメージは、元の姿にもある程度反映されます。体調不良時に変異して大きなダメージを受けると、元の姿に深刻な影響を与える可能性があります」
「これから皆さんは、闇異の力を使いこなすため、何度も死ぬような目に遭わせます。くれぐれも体調管理を徹底し、無理なら早めに報告して下さい」
ハズミは眼鏡を押さえながら冷徹な言葉を発すると、学生の大半が顔を青ざめ引きつった表情をしていた。一方ボンゴラは冷や汗をかきながらも、真剣な表情で彼女を見つめた。
「ハズミさんおっかねぇ・・・!」
「バカ!んなこと言ったら、眉間ブチ抜かれるぞ!」
(異救者になれるなら、どんなに厳しい指導も受けてみせる!)
ハズミが倒れた学生を介抱した後、上着からリモコンを取り出しボタンを押した。すると体育館の空調から、薄暗い水面に浮かぶ油のような虹色のエネルギーが放出された。
「今からこの体育館を闇のエネルギーで満たします、濃度は学校の規定の3倍です。変異できない学生も、この環境下なら成功率が上がるでしょう」
「その分暴走のリスクも増大しますが、私が撃って止めるので心配は要りません。より長く理性を維持できるよう、全力を尽くして下さい」
「いやいや!心配しかないよ!」
「体力不足で闇異の姿を維持できない学生は、基礎体力向上の訓練を行います。まずは体育館の外に出て腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10kmを『1時間以内』にやって下さい」
「いやいやいや!そんなの無理に―」
その瞬間ハズミが放った銃弾が、文句を言った学生の頬を掠めた。
「口を動かすより、身体を動かして下さい」
「すっ、すみませんでしたーーー!!!」
こうしてハズミの厳しい訓練が始まり、ボンゴラは闇が充満する体育館の中で坐禅を組んだ。
(例え変異できても、自我を失っては意味がない。精神を集中だ!)
ボンゴラが集中力を高めるため目を閉じると、周りの学生たちが次々と変異して暴れ回る音と、その度にハズミが発砲する音が聞こえてきた。
(周りに気を取られるな!集中!集ちゅうをする―)
「・・・あれ?」
ボンゴラが目を開けると、そこは体育館ではない別の場所だった。
「やあボンゴラ、気分はどうだい?」
「ツドウさん・・・?ここどこですか?おれは体育館にいたはずなのに・・・」
「君は体育館で倒れて医務室に運ばれたんだよ、原因は強い闇のエネルギーによる拒絶反応だ」
「・・・拒絶反応?」
「稀にいるんだ、身体が闇を受け付けなくて変異できない人が。学校は心因性だと思ってたけど、規定を上回る闇のエネルギーにさらされたことで、原因が明らかになったね」
「じゃあおれは、異救者になれないのですか・・・?」
異救者になるための必須条件の一つは、闇異の力を使いこなすことである。変異できない本当の原因を知ったボンゴラは、深く落ち込んだ。
「諦めるのはまだ早いよ、努力次第で体質を変えられるし、何かがきっかけで覚醒する可能性もゼロじゃない。そのためのインターンなんだ」
ツドウはそう言いながらボンゴラに手を差し伸べ、ボンゴラはゆっくりとツドウの手を掴んだ。
「・・・ツドウさん、ありがとうございます。おれ、この手で掴み取ってみせます!」
「その意気だ!ところで話変わるけど、おれがあげた盾どう?使い心地はいいかい!?」
「え?意外と軽くて、使いやすいって感じですかね」
「だろぉ!取り回しの良さを考えて、軽くて丈夫な素材を選んだんだ!」
その時、ハズミが医務室にやって来て二人の会話を中断した。
「ツドウさん、盾活は後にして下さい」
「ハズミ!Aグループの演習は!?」
「今は12時3分、既に終了し学生たちは解散しました」
「もうそんな時間か!ボンゴラ、先に食堂でご飯食べてきなよ。次は外で実習だよ!」
「あっはい!」
ボンゴラが急いで医務室を出ると、ハズミがツドウに話しかけてきた。
「ツドウさん、お聞かせ願えますか?黒理アゼル、激熱カネリ、手差ボンゴラを同じ班にして、貴方が直々に指導する理由を」
「・・・追放寸前とは言え黒理家の天才アゼルと、レッカさんの忘れ形見でありバズレイダの英雄カネリ、そんな二人の引率はおれにしか務まらないだろ?」
「そんな二人と、手差ボンゴラを同じ班にした理由は?彼は二人とは違い、特に秀でた経歴も能力もありません」
「だけどボンゴラは、人助けへの熱意は誰にも負けてない。そこが欠けているアゼルとカネリの、良い刺激になると思ってね」
「それに救世主を目指す者同士、切磋琢磨し合ういいチームになるよ」
「それだけですか?」
「ダメかなあ?」
「・・・いえ、答えて頂き有難うございます」
「じゃ、おれもご飯食べに行くか!」
「最後に一つだけ、女子学生への盾活は控えて下さい。誤解を招き炎上する可能性があります」
「え~世知辛いなあ!」
To be next case




