案件58.竹とオリエンテーション
ヌクラマ国で暴れる闇異たちに、カネリファイヤがとどめを刺そうとするが、無謀にも生身のボンゴラが盾を構え、彼女の前に立ちはだかった。
「テメェなんのマネだ!そこをどけ!!」
「どかない!だってその先には―」
しかし会話の途中でボンゴラは、背後にいる闇異の触手に捕まってしまった。
「このガキの命が惜しければ、抵抗するんじゃねえぞ!」
「あのバカ・・・!」
「・・・お前たちの思い通りにはさせない!変異!!」
ボンゴラは変異と叫ぶが、彼の身に一切の変化は見られなかった。
「変異!変異!!こんな時でも、変異できないのか!?」
『竹籠牢!!』
ボンゴラが自身の無力さを悔やんでいたその時、バンブーオーは地面から竹で出来た籠が作り出し、闇異たちはあっという間に閉じ込められた。
さらにバンブーオーは竹槍を取り出し、竹籠牢からはみ出た触手を貫いてボンゴラを助け出した。
「ヨブローさん・・・」
「・・・第48班、君たちはあとで指導室に来なさい」
こうして街で暴れた闇異たちは逮捕され、ヨブローは後始末を仲間たちに任せて、学生たちをハトノスの事務所まで送った。
一方アゼル、カネリ、ボンゴラこと第48班は、ヨブローに事務所内の指導室へ連れて行かれた。
申し訳無さそうな表情のボンゴラに対し、アゼルとカネリの顔からは反省の色が一切見えなかった。
「全く・・・初日からやってくれたね、3人とも」
「勝手な行動をとって、すみません・・・」
「ホントだよ!何であの時オレのジャマをしたんだ!」
「それはこちらの台詞だ、俺一人で十分だったんだぞ」
「君たちは学生だから、勝手に人助けしてはいけないし、私たちで十分だったんだ!」
ヨブローはそう言いながら、アゼルとカネリの頬を力強くつねった。
「イダイイダイ!」
「ごごは黒事務所か!?」
「まずカネリ君、あの時ボンゴラ君が妨害したのは、闇異の後ろにいた負傷者を守るためなんだよ」
「!?」
「私たち異救者の役割は、人を守り救うこと。それを忘れ戦うことに夢中になってるようでは、街で暴れてる闇異と何も変わらない」
「・・・・・!」
ヨブローの指摘を受け、自身の不甲斐なさを悔やむカネリを見て、アゼルはほくそ笑んでいた。
「無様だなカネリ、やはりお前は落ちこぼれだ」
「アゼル君も過去の実績がどうあれ、今は学生の身分であることを忘れないように」
「・・・善処する」
3人はヨブローとの反省会を終え指導室から出ると、カネリがボンゴラに話しかけてきた。
「おい鼻デカ!名前はなんだ?」
「・・・手差ボンゴラ」
「ボンゴラか!さっきはちと、ゲキアツになりすぎただけだ!わかったか!」
「え?うん・・・」
(戦うことしか能が無い落ちこぼれと、変異出来ない落ちこぼれか・・・。黒な足手纏いだな)
「遅くなったけど、インターンのオリエンテーションを始めるよ」
ヨブローは、第48班にインターンの大まかな流れを説明しながら、事務所の中を案内した。
事務所の周りは青々とした竹林が生い茂り、1階の窓から見える庭園には鹿威しが設置され、竹筒が水の重みで動き石を叩く音が響き渡った。
「自慢じゃないけど我々ハトノスは、国内最大規模のチームであり50人ほどの異救者が在籍しているんだ」
「事務所の中には食堂やサウナがあって、隣には訓練用の体育館がある。料金を払えば学生でも利用できるよ」
「駆け出しだった頃のツドウ君も、ウチで人助けしてたんだ」
「それから数年後に独立して、ノゾミモチを結成したんですよね」
「そう、彼も来た初日に無茶をして、指導室へ連れて行ったんだ」
「そんなことがあったんですか!?」
ボンゴラはツドウの意外な過去を知り、驚きの表情を見せていた。
「しかしMrヨブロー、実力差はあれど、よく後輩の傘下に入ろうと決断できましたね」
「・・・形式上は傘下だが、ツドウ君とは『助け合って人助けする』という理念に共感した仲間同士だ」
「もちろん反対して、出て行った人もいたけどね・・・」
「ヨブローさん・・・」
ヨブローの寂しそうな表情を見て、ボンゴラは心配そうに声をかけた。
「でもツドウ君のおかげで、より多くの人が救えてみんな助かっているんだ。君たちも仲間同士で助け合いながら、人助けするんだよ」
「はい!」
「「・・・・・」」
ボンゴラは素直に返事したが、アゼルとカネリは無言のままお互いを睨み合っていた。
「ここが君たちが泊まる場所だ」
日が沈み始めた頃、ヨブローは学生たちが寝泊まりするための居住区へ案内した。そこには竹で造られた仮設住宅が立ち並び、入口の前に立てられた看板には各班の番号が記されていた。
「これ全部ヨブローさんが作ったんですか!?」
「竹分身や仲間たちにも手伝ってもらったよ」
アゼルは第48班が泊まる仮設住宅を見て、あることに気づいた。
「ちょっと待て、半年間3人で共同生活しないといけないのか!?」
「ツドウ君の意向でね、同じ屋根の下で暮らし、親睦を深めるのが狙いらしいよ」
「え~!コイツと一緒に住むのゲキアツヤダ!」
「プライバシーを黒に考慮しろ!」
「台所やトイレ、風呂場は共用だけど、個室は3人分用意し、最低限の生活用品もあるよ」
「それでも不満なら、ハズミ君に相談しようかな?」
「「ぐっ・・・!」」
ツドウの右腕であるハズミの、『従えないなら辞退しても構わない』という言葉を思い出し、アゼルとカネリは黙り込んだ。
「次はインターンの1日の流れを説明するよ。基本は朝8時から事務所で演習、12時から1時間休憩、13時から17時まで班に分かれて外で実習、そして翌日の朝8時まで自由時間だ」
「演習は同じ課題を持つ学生同士で行ったり、課題が違う学生との合同演習もある」
「実習は各班を引率する異救者の指示に従い、実際に人助けをしてもらう。またその報酬として【仮スコア】を獲得し、事務所のロビーにある受付で換金できるよ」
「仮スコアか・・・」
「かなり本格的なインターンですね」
「あくまで基本的な流れだから、スケジュールの変更があることを覚えていてほしい。また土日と祝日はほぼ一日自由時間だけど、変更があれば振替休日を取得できる」
「またこのインターンは、異救者としての生計の立て方を学ぶ訓練も兼ねていて、仮設住宅の家賃は無料だけど、水道代や光熱費、食費等は君たちが支払うんだ」
「ロビーで学生用の案件を募集してるから、自由時間中に仮スコアを稼ぐこともできるよ」
「つまり鍛えながら稼げばいいのか!」
「自己管理出来ない女が、簡単に言ってくれる」
「ここまでで何か気になることはあるかい?」
するとアゼル、カネリ、ボンゴラの3人が一斉に手を上げた。
「まずはボンゴラ君からだ」
「仮スコアは異救者になった時、『本物のスコア』として反映されますか?」
「残念ながらスコアを得られるのは、プロの異救者だけだ」
「でも仮スコアと交換したお金は、君たち一人ひとりのものだ。プロになった時の活動資金として貯蓄してもいいよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「アゼル君の質問は?」
「スケジュールの変更があると言っていたが、採掘事故や闇異出現などのアクシデントが発生した際、その人助けに参加する可能性はありますか?」
「そうだね、有事の際は学生の手を借りることもある。もちろん無茶はさせないし、仮スコアを取得できる上、実績として就活に役立つはずだ」
「他はあるかな?」
「十分です」
「カネリ君が聞きたいことは?」
「ゲキアツ腹減った!昼メシ食ってねえモン!!」
カネリのトンチンカンな発言を受けて、他3人はズッコケてしまった。
「この脳筋雌ゴリラめ・・・!」
「そう言えば色々あって、食べてなかったね」
「ちょうど学生たちの歓迎会が始まるから、君たちも行こうか」
To be next case




