案件57.波乱の初日
インターン初日で朝と昼の間頃、アゼル、カネリ、ボンゴラを含む30人の学生は、ワープゾーンを利用しヌクラマ国に到着した。
学生たちが外に出ると、インターン先のチームであるハトノスの異救者たちが迎えに来てくれた。
「ヌクラマ国へようこそ!私はハトノスの代表、竹谷ヨブローだ」
ヨブローはやや細身で顎髭を少し生やし、肩まで伸びた髪を後ろでまとめた中年男性だ。また、竹の模様が描かれたエプロンを着用している。
「ハトノスへ行く前に、みんなの名前を確認―」
「テメェもっかい言ってみろ!!」
ヨブローの言葉はカネリの怒号で遮られた、どうやらまたアゼルと揉めているようだ。
「このオレが、救世主になれないだとぉ!?」
「落ちこぼれのお前が、まだそんな幻想を抱いていたとはな」
「今度こそ救世主に相応しいのは、俺であることを教えてやる!」
「やってみろオラァ!!」
「やめてよ二人とも!インターンの人の前だよ!」
ボンゴラはツドウからもらった盾を構えながら、アゼルとカネリを止めに入った。
「貴様は引っ込んでろ!」
「何で盾持ってんだよ!」
「こういう時に備えてもらったんだ!」
3人が口論している様子を見ていたヨブローは、呆れて深いため息をついた。
「ツドウ君め・・・威勢のいい子たちを寄越してくれたな・・・」
アゼルとカネリの小競り合いが収まったところで、学生たちはハトノスが用意したバスに乗り彼らの事務所へ向かった。
しかし二人の仲が改善することはなく、お互い最後列の両端に座り、不機嫌な顔で外の風景を眺めていた。
その間に座っているボンゴラは、またケンカするんじゃないかと心配しながら様子を窺っていた。
(まさかアゼルくんとカネリさんも、救世主を目指しているなんて・・・)
一方でカネリの関心は、アゼルから窓の向こうの風景に移っていた。彼女の眼前には工場らしき建造物が立ち並び、たくさんの煙突から煙が出ていた。
「煙突がいっぱいあるぞ!何だアレ!?」
「製錬所だよ、鉱石から金属を取り出す場所さ」
バスに同乗していたヨブローは、学生たちに向けてヌクラマ国の実情を説明し出した。
「ここヌクラマ国はレアメタルなど地下資源が豊富でね、救世会加盟国のトップ5に入るほどの資源大国なんだ」
「採掘作業は落盤事故などの危険が伴うから、我々を含め国内の異救者が護衛を任されることが多いんだよ」
「なるほどな~」
「そういう人助けもあるんですね」
「君たちにこの国のことを知ってもらいたいから、バスでの移動を決めたんだ」
ヨブローの話を聞いたカネリとボンゴラが感心していると、アゼルが口を挟んできた。
「一方でこの国の地下は闇のエネルギーが充満し、闇異が発生しやすい国トップ5にも入っている」
「さらに豊富な地下資源を狙う闇異の犯罪者も多く、危険と隣り合わせな黒な国でもある。そうでしょう?Mrヨブロー」
アゼルの発言で多くの学生が息を呑み、ヨブローは痛いところを突かれ苦笑いした。
「アゼル君、よく知ってるね・・・」
「インターン先の国内事情も、把握するのは当然ですよ」
「激熱な馬鹿とは違ってね」
「何だとこのヤロウ!!」
「二人ともバスの中でけんかは―」
ボンゴラがアゼルとカネリを仲裁しようとしたその時、バスの運転手が何かに気づいて急ブレーキをかけた。
「どうしたんだ!?」
「代表!あれ・・・」
ヨブローがフロントガラスの向こうを見ると、街中で複数人の闇異が暴れ、一般市民が逃げ惑っていた。
「闇異!?」
「みんなは私たちが戻るまで待っているんだ!」
ヨブローは学生たちと仲間3人をバスに残し、他の仲間を連れてバスから飛び出して行った。
「ギャハハハハハ!この国の地下資源はオレたちのものだ!」
「逆らう奴はハンバーグにしてやるぜえ!!」
闇異たちは人々を襲い建物を壊し、宝石店から貴金属を奪うなど悪事の限りを尽くしていた。
現場に到着したヨブローたちは、惨状を目の当たりにし歯を食いしばった。
「聖女様が1週間前、この国を浄化して下さったばかりなのに・・・!」
「闇異は私が押さえる、みんなは救助を頼む!」
ヨブローは仲間たちに指示した後、身体が闇のエネルギーで覆い尽くされ、竹で出来た冠を被り門松のような姿をした闇異に変異した。
「行け竹分身!街で暴れる闇異たちを止めるんだ!!」
変異したヨブローの足から地下茎が伸びて地面を張り巡ると、そこからタケノコが発生して瞬く間に成長し、竹のように細長い胴体と竹の葉のような手足をもつ竹分身が十数体現れた。
「うわっ竹が歩いてるぞ!」
「こいつらが出てきたということは・・・」
「竹冠異救者、バンブーオーだ!!」
ヨブローことバンブーオーは、地元ではそこそこ有名な異救者で、彼の登場により闇異たちは身構え、一般市民たちは声援を上げた。
「大人しく変異を解き投降しろ!」
「くっ・・・!」
だがその時、バンブーオーは背後から凶弾で撃たれ脇腹に穴が開いてしまった。
(もう一人いたのか!)
「このマヌケめ!分身諸共バラバラにしてやるぜ―」
その直後、バンブーオーに銃を向けた闇異の胴体が斜めに切断され、上半身が滑り落ちるように地面に落下した。
彼の背後にいた漆黒の闇異が、黒いサーベルで斬り裂いたのだ。
「こっコイツいつの間に!!」
胴体を切断された闇異は、地面に横たわりながらも黒い闇異に銃を向けるが、謎の黒い液体を浴びせられ動けなくなった。
「君は一体・・・?」
「黒皇こと黒理アゼルです。Mrヨブロー、俺の黒な実力をお見せしましょう」
黒皇はバンブーオーに自分の実力をアピールするため、勝手に戦いに参加したのだ。
「来い、三下共。引き立て役として使ってやる」
「生意気なヤツめ!ギタギタにしてやるぞ!!」
闇異たちが黒皇に攻撃しようとしたその時、『チャンプファイヤー!!』という叫び声と共に横から激しい炎が放たれ、悪堕者たちは進路を遮られた。
「アツッ!」
「今度はだれだ!」
放たれた炎の先にいたのは、体中から炎を放ち右半身にアザがある闇異だ。
「オレ様の名は激熱カネリであり、カネリファイヤだ!」
「覚悟しろ悪党ども!ゲキアツに燃やしてやるぜ!!」
そう言うとカネリファイヤは、闇異たちに勢いよく走って近づき、迎撃をものともしない圧倒的なパワーで殴り飛ばし、蹴り倒した。
黒皇とバンブーオーは、カネリファイヤが闇異たちを蹂躙する様子を見て立ち尽くしていた。
「カネリくんまで・・・」
(あれがカネリが変異した姿・・・黒の欠片もないな)
「よぉしトドメの、チャンプファ―」
カネリファイヤが再び火炎放射を放とうとしたその時、盾を構えたボンゴラが立ち塞がった。
「カネリさんダメだ!今ここで炎を出してはいけない!!」
To be next case




