案件55.3人の落ちこぼれ
これは、黒火手団が結成される前の話―
去年の夏頃、全国の異救者養成学校は慌ただしくなっていた。卒業を控えた3年生たちが、志望する異救者のチームに入るべく就活に精を出していたからだ。
当時学生だったアゼル、カネリ、ボンゴラも例外ではなく、それぞれ違う学校で就活に励んでいたが、進捗はひどく難航していた―
「俺が不採用になった理由は何だ!黒に説明しろ!!」
都心部に構える第7養成学校に在籍するアゼルは、校内でスマホの通話先を激しく問い詰めていた。
『何度もお伝えした通り、我々ジャッキー疾風隊は、不採用理由を応募者に伝える義務はございません!いい加減にしないと、あなたが通う学校に報告しますよ!』
そのまま通話をブツッと切られたアゼルは、就活が思うようにいかず苛立ちを募らせ、左義手を震わせながら拳を作った。
(これで8回目・・・何故採用されない!?身体の半分近くを失ったとは言え、黒理家の天才黒理アゼルだぞ!!)
そんなアゼルの様子を遠くから見ていた3人の学生が、ヒソヒソと小声で会話を始めた。
「黒理アゼルだ、また不採用みたいだな」
「でも何で不採用なんだ?成績トップだし、あの有名な黒理家だぜ?」
「あの黒い噂で有名な黒理家だからだよ、アイツだってどんなスキャンダル抱えるかわからねぇ。まともなチームならそんな奴、門前払いするのは当たり前だ」
「でも何で学校通ってんだ?もう異救者なのに」
黒理家で生まれ育ったアゼルは、特例により10歳で異救者となり、裏社会に関わる数々の高難度案件を達成し、身内から大きな期待を寄せていた。
しかしある案件で大きな失態を犯し、左側の眼と手足だけでなく黒理家からの信頼を失い、追放一歩手前まで転落してしまった。
(本家からの信頼を失ったことで、それまで築き上げた異救者としての地位や権限は剥奪された。汚名を挽回するには、有力なチームに属し黒な結果を出すしかない!!)
そう思いながらアゼルは、悔しさで歯を食いしばり、左義手で左義眼を覆った。
「・・・・・ダメだぁあああ!!勉強ゲキアツわかんねぇえええ!!!」
滅亡したバズレイダ国から遠くない第43養成学校の寮内で、カネリが大声でぼやきながら教科書を壁に投げつけた。
「ナニが留年だクソがぁ!オレ様はゲキアツ強いんだぞ!模擬戦では無敵なんだぞ!」
「なのになんで、異救者になれねぇんだあああああ!!!」
アゼルの双子の妹である激熱カネリは、黒理家の方針に合わず8歳の頃に追放され、激熱レッカが率いるチーム激熱家に引き取られた。
カネリは激熱家の人たちに温かく受け入れられ、心身ともに健やかに成長したが、セイブレスの侵略で戦争に巻き込まれてしまう。
カネリも戦いに参戦するが、激戦の末に恩師も仲間も失い自身は右半身に大きな火傷を負ってしまった。そして戦いで急激に強まった闇異の力は、安全のため全力を出せないよう封じられた。
叫び疲れたカネリは、ドサッと倒れるようにベッドの上で仰向けになった。
「これじゃあ救世主になれねぇし、黒理家を見返せねぇ」
「レッカさん、オレどうすりゃいいんだ・・・」
シュバシコウという孤児院に近い、第99養成学校に通う手差ボンゴラは、教師と個人面談を行っていた。
「残念だけどボンゴラ君、君は異救者には向いていない」
「そ、そんな・・・!」
「君の人助けに関する成績は優秀だが、3年生にもなって闇異に変異できないのは致命的だ」
「闇異の力で人助けしてこそ、異救者なんだ」
「それに人助けがしたいなら、異救者に拘る必要はない。消防士や看護師など道は色々ある」
「異救者じゃないとだめなんです!救世主になって、全ての人を救うために・・・!」
ボンゴラは聖女マナキからもらったマフラーを、強く握り締めながら言った。
シュバシコウで生まれ育ったボンゴラは、世界には救いがない人が大勢いることを知り、マナキとの出会いを通じて、救世主になる意志を固めた。
入学後は人命救助に必要な知識や技術を磨き上げたが、何故か闇異に変異できず留年の危機に陥っていた。
そんなボンゴラの身の程を弁えない夢を聞いた教師は、呆れながら彼に書類を渡した。
「そこまで言うなら、これに参加してみるといい」
「これは・・・!」
それは特級異救者ツドウが率いるチーム、ノゾミモチが主催するインターンシップの案内だった。
まだ内定が決まってない学生を対象とし、半年以上の職場体験を通して丁寧に指導してくれる上、インターン中に課題を全てクリアすれば、ノゾミモチ傘下のチームの内定を得ることができる。
参加費は無料かつ経歴は問わないと記載され、最後のページの右下には「みんなもおれと一緒に、盾活しようぜ!」という手書きのメッセージが記されていた。
この案内書は全国の養成学校に配布され、アゼルとカネリも知り目を輝かせた。
(このチャンス、黒に逃す手はない!)
「なんかわかんねぇけど、これに出れば異救者になれるんだな!」
当然ボンゴラも、迷いなく参加することを教師に伝えた。
「先生ありがとうございます。おれ、このインターンに出ます!」
そしてインターンシップの初日、全国から千人近くの学生が会場に集まっていた。
To be next case




