案件51.カネリファイヤVSアダウチオニ
黒皇がリベルバーに攻めあぐねていた頃、カネリファイヤはアダウチオニ相手に苦戦を強いられていた。
『バーニングストレート!!』
カネリファイヤの灼熱の右ストレートが、アダウチオニのボディにヒットするが、怯むどころかボディブローをやり返されてしまい、10数m後方へ吹き飛ばされてしまった。
「クソぉ・・・!」
『怨衣』という技でオーラを纏ったアダウチオニは、パワーとスピードに加え異能に対する抵抗力が強まり、カネリファイヤの必殺技が通じないのだ。
「もう終わりか?激熱女」
「カネリだ!激熱モードになればテメェなんか・・・!」
確かにカネリファイヤが『激熱モード』を使えれば、アダウチオニに勝てるかもしれない。
だがその強過ぎる力は制御がきかないため、一度でも使えばアダウチオニだけでなく、仲間や遭難者たちを巻き込み、この山一帯を焦土にしかねない。
何よりまだカネリ自身の判断で、力を解き放つことができないのだ。
「オラぁあああ!!」
カネリファイヤが真っ向から殴りかかるも、アダウチオニの左手で受け止められたまま身体を引っ張られ、右手に持った斧の重い一撃を食らってしまった。
「あぐぅ!!!」
傷はかなり深く、カネリファイヤのボディから大量の血が噴き出した。しかしアダウチオニは手を緩めず、再び斧を構えた。
『チャンプファイヤー!!!』
カネリファイヤは傷口を押さえ、口から火炎を放ちながら後退したが、憎しみのオーラを纏ったアダウチオニは炎を浴びながらも追ってきた。
「このヤロウぉおおおおお!!!」
カネリファイヤはさらに炎の勢いを強め、アダウチオニを近づけまいとした。
するとアダウチオニのオーラが次第にかき消え、アダウチオニは炎の熱さに耐えられず足を止めた。
「チッ、もう切れたか・・・」
カネリファイヤも炎の吐き過ぎで息が上がり、お互い一時休戦となった。
「ハアハア・・・よし、血が止まってきた!アイツのオーラも消えたし、反撃のチャンス―」
『怨衣!』
アダウチオニが再びオーラを纏ったことで、カネリファイヤの目論見は一瞬で打ち砕かれてしまった。
「テメェ!それゲキアツずりぃぞ!反則だ反則!!」
「戦いに反則もクソもあるか!」
アダウチオニはカネリファイヤの言いがかりを気にせず、素早く接近し斧を振り回すが、ジャンプで避けられてしまった。
「この前と同じように、恨みを込めて叩き割ってやる」
「恨み・・・!」
その言葉を聞いたカネリファイヤは、アダウチオニことコズドが復讐者であることを思い出した。
「コズド!復讐しても、テメェの大切なもんは戻って来ねえぞ!」
「次は説得か?異救者はどいつもこいつも、似たようなセリフを吐きやがる・・・!」
「大切なものは戻って来ない?だから何だ!?この恨みを抱えたまま、泣き寝入りしろと言いてぇのか!?」
「傷つけられ失った恨みを知らねえテメェらが、わかったような口をほざくんじゃねえ!!」
アダウチオニは斧にパワーを込めながら高く振り上げ、辺り一面を吹き飛ばす『憤怒爆破』の構えに入った。
「テメェこそ・・・傷つけられ失ったのが、自分だけだと思うなぁ!!」
カネリファイヤもまたバズレイダの戦いで傷つき、大切な恩師と仲間たちを失った辛い過去がある。
彼女にとって、アダウチオニが抱える怒りと悲しみは決して他人事ではなく、復讐のために悪事を働く彼を放ってはおけないのだ。
カネリファイヤは『憤怒爆破』を放つ前に生じる隙を狙い、アダウチオニに接近した。
『バーニングストレート!!』
激しく燃える右拳がアダウチオニのボディにめり込むも、『怨衣』に守られたアダウチオニにはビクともしなかった。
「何度やっても同じ―」
しかしアダウチオニは目を見開いた、なんとカネリファイヤの左拳も燃え上がり、今に殴りかかろうとしていたのだ。
「一発がダメなら、もう一発ブチ込んでやるぜ!!」
『ダブルバーニングストレートォ!!!』
灼熱の左ストレートがヒットした瞬間、『怨衣』がパワーに耐え切れず消し飛ぶと同時に、アダウチオニの身体が激しく炎上した。
「あづぅ!!!」
アダウチオニは全身を覆う炎を振り払おうと、激しく身体を動かした。
「どうだ!テメェはとっ捕まえて、根性をゲキアツ叩き直してやる!!」
「お前にしては中々黒だな」
22時26分、カネリファイヤの背後から、リベルバーを仕留めたばかりの黒皇がやって来た。
「ダリエは?」
「彼女は寝かしつけてやった、次はアダウチオニ貴様の番だ」
「上等だ・・・やれるもんならやってみやがれ・・・!」
ようやく火を消し止めたアダウチオニだが、体中が黒く焦げ相当のダメージを負った様子だ。
だがその時、3人の前に傷だらけのリチャウターが、ズザザっと投げ出された。
「ボンゴラ!?」
「ヒトリバコはどうした!?」
「ごめん・・・二人とも・・・あいつらに・・・!」
リチャウターが投げ出された方向から、数十人の悪堕者が姿を現した。
「ハコの中の人質はオレたちがいただいた!」
「コイツの命が惜しければ、一歩足りとも動くなよ黒火手団!」
「待て!コイツらはオレの獲物だ!手を出すな!!」
形勢が一気に逆転したアダウチオニだが、彼は自身の手で黒火手団への雪辱を晴らしたいようだ。
「堅いこと言うなアダウチオニ」
「せっかく遭難者をエサにして、異救者をおびき寄せる作戦に参加したんだ。ぼくたちにも手柄をよこせよ」
「やはり狙いは俺達だったか・・・!」
「このクソヤロウども!!」
(ロックさんを取り返すには・・・)
「死ねえ黒火手団!!!」
悪堕者の軍団が一斉に襲いかかってきた。黒火手団、絶体絶命のピンチ!!!
『サドンシールド!!』
と思いきや、黒火手団の前に無数の盾が突如現れ、悪堕者の攻撃を全て防いだ。
「ナニィ!?」
「盾!?」
「まさか・・・!」
「そう!そのまさかさ!」
そして上空から、盾を構え空色の鎧を纏った闇異が現れた。
「異救者きっての盾男、エスクディアンの登場だ!」
「ツドウさん!!」
「特級異救者の、エスクディアンだと!?」
エスクディアンこと盾守ツドウは、最高位の異救者の一人であり、黒火手団の頼れる上司でもあるのだ。
「連絡が遅いから心配で来たんだ、よく頑張ったね!」
「うろたえるな!特級と言えどこっちには人質が―」
悪堕者の一人が、ヒトリバコを握り潰す素振りを見せたその時、
「『ルール』、人質への攻撃を一切禁じる」
「!?」
それを聞いた悪堕者たちの動きが一瞬止まり、新手の闇異にヒトリバコを奪われてしまった。
「人質、確保しました!」
「聖明師!?ということは・・・!」
黒皇の予想は的中した。ムックスの上司矛貫オスタが率いる、聖明機関矛貫隊の一同が現れたのだ。
「全隊員、攻撃開始!!」
統率された精鋭たちの連携攻撃の前に、烏合の衆である悪堕者たちは為す術もなく制圧されてしまった。
そして5月5日22時57分、霧満山での戦いは終了した。
To be next case




