案件50.クズ男争奪戦
5月5日21時56分、アダウチオニは遭難者の一人ロックをヒトリバコに閉じ込め、人質にした。
リベルバーの分身に側頭部を撃たれたリチャウターは、血を流しながらもカネリファイヤと黒皇に介抱され、なんとか立ち上がった。
「弾は取り除いたぞ」
「ボンゴラ立てるか!?」
「ちょっと、フラつくけど・・・ごめん、油断してた・・・」
「いや、俺も迂闊だった」
「クズ男を取り返すぞ!」
黒火手団がやり取りしている間、リベルバーがアダウチオニに近づいてきた。
「ヒトリバコとは気が利きますね、それは私が預かりますよ」
「あ?テメェが勝手に決めんじゃねえ」
「・・・箱の中の男は、私の親友の仇です」
「そうか、コイツらを叩き割ったらくれてやる」
「あなたの都合なんて知りませんよ」
「テメェのランクは、オレより下だろ?」
ロックをめぐって、二人の悪堕者の意見が対立し、険悪な雰囲気になっていた。
「なんかアイツら、ゲキアツ仲悪そうだぞ?」
「どうやら小谷ロックを今ここで始末するか、俺達に対する人質に利用するかで揉めているらしい」
「仲間割れしてるなら、助けるチャンスはある!」
黒火手団の3人はロックを救出すべく、アダウチオニに向かって一斉に走り出した。
「まとめて叩き割って―!?」
アダウチオニが黒火手団を迎え撃とうとするが、横からリベルバーが銃を構え、左手に持つヒトリバコを狙っていることに気づいた。
アダウチオニはヒトリバコを守るように背を向け、リベルバーの銃撃を防いだ。黒火手団を倒すための人質を、今ここで失うわけにはいかないからだ。
「テメェ!何のマネだ!?」
「あなたの都合なんて、知らないと言ったでしょう」
アダウチオニがリベルバーに気を取られた直後、カネリファイヤの渾身のボディブローを脇腹に受けてしまった。
「ぐぅっ!!」
「クズ男を返せ!!」
カネリファイヤもまた、日々の鍛錬で初めて相対した時より強くなり、パンチ力が増強していた。
アダウチオニはボディブローの衝撃でヒトリバコを手放してしまい、カネリファイヤはすぐさま拾おうとするが、リベルバーが再び狙いを定めた。
しかも今度は回転式拳銃のような分身2体を操り、3方向から同時に狙い撃とうとしたが、黒皇がリベルバーに奇襲をしかけ、リチャウターが『救手アーム』で両手を伸ばし分身の銃撃を防いだ。
「どうしてその男を守るの!?そいつは仲間とつるんで女の子を酒に酔わせて乱暴し、その様子を動画に撮って脅し、骨の髄まで食い尽くす最低のクズ野郎!!」
「プルナちゃんは捨てられたけど、今もその恐怖に苦しんでいるのよ!!」
復讐を何度も妨害されたリベルバーは、苛立ちが頂点に達し声を荒げて叫んだ。
「・・・そんな屑でも、救えばスコアになる」
「これ以上あなたに、罪を重ねさせるわけにはいかない!!」
「取ったぞー!」
カネリファイヤは、ヒトリバコを掴んだ右手を高らかに上げ、誇示するように叫んだ。
「カネリ!そこからすぐ離れるんだ!!」
カネリファイヤの背後で、アダウチオニが斧に力を込めながら、振り下ろす構えを取っていた。
「ヤベッ!」
『憤怒爆破ぁ!!!』
アダウチオニが斧を地面に振り落とした瞬間、直径約100mを巻き込む大爆発が発生し、黒火手団とリベルバーは吹き飛ばされてしまった。
同時にヒトリバコが霧の向こうへ飛ばされ、どこに落ちたかわからなくなった。
「取ったと思ったのに!」
「ボンゴラ、見つけられるか!?」
「だめだ、閉じ込められた人の気配は感じ取れない!」
一方ヒトリバコの内部は無重力空間になっており、閉じ込められたロックは宙に浮いたまま、外からこもって聞こえる音を恐れ、泣きべそをかいていた。
「グスッ、ヒック・・・早く助けてくれよぉ・・・!」
「テメェらを叩き割るのに、人質はいらねぇ!!」
ヒトリバコを見失ったアダウチオニは、やけになって黒火手団に襲いかかるが、カネリファイヤが迎え撃った。
「コイツはオレに任せて、クズ男を探せ!」
一方リベルバーは、分身2体にヒトリバコを探すよう指示を出していた。
「見つけたらすぐ蜂の巣に―」
その直後、黒皇が投げたクナイが分身2体に命中し、撃破されてしまった。
「ボンゴラ行け!」
「二人とも頼んだ!」
22時11分、カネリファイヤがアダウチオニを、黒皇がリベルバーを相手取っている間に、リチャウターはヒトリバコを探しに行った。
黒皇はリベルバーにクナイを投げつけるも、彼女の右腕の銃で全て撃ち落とされてしまった。
また『黒幻自在』を発動し、残像を伴う高速移動で距離を詰めようとするが、リベルバーは惑わされることなく正確に撃ってくるため、黒皇は攻めあぐめていた。
「さて、どうしたものか・・・」
「あんたの相手をしてるヒマはないのに!」
その時黒皇は何かに気づいて後ろを振り向き、直後に『錬黒術』を発動し黒い障壁を作った。
リベルバーは連続で発砲し障壁を蜂の巣にするが、黒皇は障壁を作り直し一歩も動かずにいた。
(?こいつ急に守りに入った、一体なんで・・・!)
リベルバーはその理由に気づき、黒皇の後方へと回り込んだ。
「チッ、読まれたか!」
「やっぱり!!」
霧がかかってよく見えないが、黒皇の背後に小さな影があった。彼はヒトリバコを見つけ、守るために防御に徹していたのだ。
「させるか!!」
黒皇は『黒呪毒』を浴びせ動きを封じようとするが、復讐に燃えるリベルバーは呪いをものともせず銃を構えた。
そしてバァンと発砲する音と共に、バラバラと破片が飛び散る音がした。
リベルバーの銃弾が、ロックを閉じ込めたヒトリバコを撃ち抜いたのだ。
「くっ!」
「やった・・・ついにやったよ、プルナちゃん・・・!」
ついに親友の仇を討ったリベルバーは、それを確認すべく砕けたヒトリバコにゆっくりと近づいた。
「・・・何っ!?」
だがそれはヒトリバコではなく、銃撃で一部が欠けた黒い立方体だった。
黒皇はリベルバーの隙を突くため、『錬黒術』でヒトリバコのダミーを作り、彼女を欺いたのだ。
「よくも騙し―!?」
リベルバーは気づくも既に遅く、先程浴びた『黒呪毒』の効果が現れ、身体の自由を失ってしまった。
一方黒皇は、黒いサーベルからドクロの形をしたオーラを漂わせ、必殺技の構えに入っていた。
『黒殺刑!!!』
22時25分、黒皇がリベルバーを斬り裂いた瞬間、彼女の身体にドクロのマークが浮かび上がると同時に爆発を起こし、ダリエに戻って崩れるように倒れた。
「プルナ・・・ちゃん・・・」
「復讐で曇った貴様の眼は、黒から程遠い」
To be next case




