案件49.思わぬ助っ人
話は遡りロックとダリエが下山を開始した頃、異救者たちの前に怪しい雰囲気のデアンがやって来た。
「デアンさん?」
「まさかテメェがスパイか!?」
カネリは戦闘態勢に入るが、アゼルは彼女の肩を掴み制止させた。
「待て、こいつは悪堕者ではない」
「ついに草丘ダリエが動いたんだな、坂登デアンいや・・・」
「成須磨ムックス」
するとデアンは、眼鏡を外し変装マスクを剥がして正体を現した。
「聖明機関矛貫隊の、ムックスさん!?」
「お主たちの親友か?」
「わからん!」
「そんなバナナ!」
カネリのボケに対し、グロンカは『そんな馬鹿な』という意味であろうツッコミを返した。
聖明機関とは、凶悪な闇異や悪質な異救者を取り締まる、異救者のエリートである。
デアン改めムックスは、その中で名高い矛貫隊の諜報員で、アゼルが悪堕者に寝返ったふりをして潜入した頃に知り合った。
「どうしてあなたがデアンさんに?」
「事情はアゼルさんが知ってます。他の遭難者とグロンカさんはボクに任せて、ロックさんとダリエさんを追ってください」
「小谷ロックの衣服に発信機を仕込んでおいた、通信妨害されていても5km以内なら追跡可能だ。30秒以内に準備しろ」
5月5日20時33分、黒火手団の3人は闇異に変異し、先程までビバークしていた洞穴を出発した。
「お主たち、気をつけるのじゃぞ」
「グロンカさん、行ってきます」
アゼルこと黒皇は、左義眼で発信機の位置を特定できるため、暗い霧の中でも迷わず進むことができた。
「アゼル、ムックスさんはどうしてデアンさんに変装していたの?」
「まず坂登デアンは登山の3日前、草丘ダリエが悪堕者と内通していることを偶然知り、聖明機関に通報した」
「その頃聖明機関は、悪堕者が各地域で暗躍する目的を調査し、成須磨ムックスは坂登デアンに扮し奴等の動向を探っていた」
「今頃本物の坂登デアンは、自宅待機中だ」
「じゃあこの山に、ホコヌキ隊の連中が!?」
「ああ、通信妨害等を対策した上で、作戦を決行しているはずだ」
「いつムックスさんの変装に気づいたの?」
「この山で初めて会った時からだ」
「草丘ダリエに勘付かれないよう、密かに情報を共有した」
「万一勘付いたら、復讐を強行すべく何をしでかすかわからないからな」
「他の遭難者に危害が及ぶ可能性がある、だからお前達にも口外せず泳がせた」
「水くせぇぞ!オレ達がゲキアツ信用できねえのか!?」
「お前は黒に隠し事が下手だから、秘密にせざるを得なかったのだ!」
「しょうがないよカネリ。それとダリエさんは、どうして悪堕者に手を貸したの?」
「その説明は、こいつ等を片付けてからだ」
黒火手団が何かに気づき立ち止まると、十数人の悪堕者が待ち構えていた―
回想は終わり、5月5日21時40分、黒火手団は悪堕者たちの妨害を突破してロックを救出し、ダリエことリベルバーと対峙していた。
「ダリエさん、あなたの事情は知っています。この後ロックさんの悪事は暴かれ、厳しい罰が与えられます。もう十分でしょう」
「十分?部外者が知ったような口を利かないで下さいよ・・・!」
リベルバーは静かに怒りを燃やしながら、右腕の銃をロックに向けた。
「その人を返して下さい、異救者と言えど容赦しませんよ」
「それ以上ヤるっつーなら、オレたちが相手になってやるぜ?」
「だったら、オレも相手になってやるよ」
霧の中から、強敵コズドことアダウチオニが大きな斧を担いで姿を現した。
「コズド・・・!」
「派手な音がする方へ行ってよかったぜ、今度こそ恨みを込めて叩き割ってやる!」
「だがその前に、エサがいるな」
アダウチオニはヒトリバコを取り出し蓋を開けると、ロックがヒトリバコに吸い込まれそうになったため、リチャウターは彼を抱き抱えたまま背を向け飛ばされまいとした。
「このヤロウ!!」
カネリファイヤがアダウチオニに殴りかかろうとする中、リベルバーがリチャウターを狙い連続で発砲したため、黒皇が素早い剣技で銃弾を全て撃ち落とした。
「ボンゴラ!俺達が足止めする間に、ヒトリバコから離れろ!!」
「わかった!」
次の瞬間、リチャウターは側頭部に銃弾を受けてしまい、そのショックでロックを手放してしまった。
「しまった・・・!」
「うわあああぁぁぁ・・・!!」
リチャウターは意識が朦朧としながらも、ロックに手を伸ばすが間に合わず、アダウチオニが持つヒトリバコに吸い込まれてしまった。
「馬鹿な!?撃ち漏らしは無かったはずだ!!」
黒皇は辺りを見回すと、霧の中に小さな影が2つあることに気づいた。その正体は、宙に浮く回転式拳銃だ。
「チッ!奴の分身か!」
リベルバーは回転式拳銃のような分身を操り、リチャウターに奇襲を仕掛けたのだ。
アダウチオニはカネリファイヤを蹴り飛ばした後、ロックが入ったヒトリバコの蓋を閉じた。
「コイツがいる限り、テメェらは逃げられねえよなあ?」
To be next case




