案件47.疑惑のビバーク
5月5日19時頃、霧満山は夜霧に覆われ視界がさらに悪くなっていた。
悪堕者たちはそんな状況にも関わらず、異救者と遭難者の捜索を続けていた。
「くそぉ、どこに隠れたんだ!?」
「この近くにいるはずだ!」
一方コズドは自力で土砂から脱出し、山奥にあるアジトで休息を取っていた。
アジトのバーベキュー場で、4、5人分の野菜や肉をガンガン焼いて食べ尽くし、最後に2リットル近い水を豪快に飲んでいると、サエラがやって来た。
「お前も探しに行かないのか?」
「もう少ししたらだ」
「オレの手柄次第で、家族の仇の情報を教える約束、忘れんなよ」
「心配するな、ちゃんと守ってやるよ」
コズドは水を飲み干し、空になったコップをテーブルに乱暴に置いた後、愛用の斧を手にアジトから出て行った。
同じ頃、異救者4名と遭難者5名は、山中の洞穴で身を潜めていた。
中は意外と広く、幅は最大3m、奥行きは20m近くある。
「今夜はここで、ビバークするしかないのう。ビバ!ビバーク!なんちゃってwww」
ビバークとは、登山や探検などでテントなどを使わず野宿することであり、ビバはかつて万歳や嬉しいなどの意味合いで使われていた。
「んなこと言ってる場合かよ!こんなところに隠れて、見つかったりしないだろうな!?」
遭難者のリーダー格であるロックは、グロンカの冗談に付き合う余裕もなく、落ち着かない様子だ。
「無問題じゃ。あたしの御札で、そう簡単には見つからん」
「万一発見されても、俺達が守ってやるから安心しろ」
洞穴の入口には、キラキラした飾りが散りばめられた御札が貼ってあり、これが結界を形成し悪堕者たちの目を欺いているのだ。
「グロンカさん、腰の方は大丈夫ですか?」
ボンゴラは重傷の遭難者ホイトの手当をしながら、彼女を気にかけた。
「鎮痛の御札を貼ったから歩けるが、戦うのは厳しいのう。あたしは色んな御札を作る能力がある代わりに、傷の治りが遅いのじゃ」
「すみません、あの時コズドの攻撃を避けていれば・・・」
「ドンマイドンマイ、それより腹ごしらえじゃ」
「お前らぁ!メシができたぞぉ!!」
カネリは闇異に変異し、手から高熱を発することで非常食を温め、ほかほかのカレーライスとコーンスープを用意した。
「いや~、我ながらゲキアツ美味いぜ!」
「お前は加熱しただけだろ」
「身も心も温まるのう」
「レトルトカレーかよ・・・」
「もっとマシなものはなかったの?」
「オレのメシが食えねえのか!?」
「食事出来るだけでも、救いがあると思え」
「食べないとは言ってないけど!」
遭難者たちが食事に文句を言う一方、ボンゴラはホイトのところへカレーとスープを持ってきた。
「ありがとう、両手は動くから一人で食べられるよ」
「何かあったら、いつでも呼んで下さい」
20時3分、食事を終えた遭難者たちが寝静まった頃、異救者たちは少し離れた場所で今後の作戦会議を始めた。
「まずは状況を整理するぞ」
「俺達4人は遭難者4名を発見したが、悪堕者の妨害によりワープが使用出来ず、外部との連絡も絶たれてしまった」
「更に新たな遭難者で重傷のミスター・ホイトと、アダウチオニの出現、ミズ・グロンカの負傷というアクシデントが重なり、下山出来ず黒な状況だ」
「遭難者を抱えて、山から出られねえかな?」
カネリは自分が両手で遭難者2人を俵担ぎし、残り3人をアゼル、ボンゴラ、グロンカが一人ずつ抱え、全力疾走で下山する様子を想像しながら言った。
「あたしは腰を痛めたから、人を抱えて降りるのはキツいのう・・・」
「ホイトさんが右足を骨折しているから、走りながら運ぶと傷が悪化するかも」
「悪堕者に遭遇するリスクも考慮してから発言しろ」
カネリの案は色々と無理があるため、却下されてしまった。
「となると、他の異救者の救助を待った方がいいかな?」
「敵が探し回ってる中で、信号弾を使うのは危険じゃ」
「全員分の食料はおよそ3日分、それまでに気づく者がいるかだな」
「一人一食でたったこれだけ!?ゲキアツ足りねえぞ!!」
「不満なら近辺の雑草等でも食ってろ」
非常食は一食につき、一人前カレーとごはん180g、コーンスープ200mlと同程度のカロリーである。この量で大食らいのカネリのお腹は満たせない。
「あ~あ、こんな時にヒッコシバコがあればなあ」
「『ヒトリバコ』のこと?」
ヒトリバコとは、悪堕者が一般人を捕獲するための道具である。手のひらに収まる程度の大きさでも、十人以上の人を吸い込み収納できる。
「確かにそれがあれば、遭難者を運ぶのがチョー楽じゃな」
「だが今回連中は、ヒトリバコを使用していない。チャンスは幾らでもあったのに何故だ?」
「人々に恐怖と苦痛を与え、変異を促すためにさらってるって聞いたけど、今回はちがうのかな?」
「恐怖と苦痛は既に与えているから、必要が無いとも考えられるが・・・」
「あたしたちが『ねらい』だとも、考えられるのう」
「オレたちがネライ?」
「遭難者を餌にして、異救者を誘い一網打尽にする作戦か。黒に有り得るな」
「この遭難が、悪堕者の罠だってこと?」
「じゃあ遭難したヤツの中に、スパイがいるってのか!?」
「それは断定出来ない。闇異の力など、罠を張る手段は腐る程ある」
「カネリ、そういうことを大っぴらに言うのはよくないよ。遭難者たちが不安になる」
「ワリィ、ゲキアツ気をつける・・・」
だが異救者たちに気づかれず、彼らの会話を聞いてしまった人物がいた。遭難者のリーダー格、ロックである。
「オレたちの中に・・・悪堕者のスパイが・・・!?」
ロックは岩陰に隠れながら、カネリの憶測を真に受け激しく動揺していた。
(怪しいのはアイツだ!雨峠ホイト!)
(アイツを助けたからババアが腰をヤッて、こんなところに隠れるハメになったんだ!)
(大体、こんな霧深い山に一人で登るとかおかしいだろ!ぜってぇクロだ!!)
その時ロックの前に、女性遭難者のダリエが現れた。
「ロック先輩、大事なお話があります」
「なんだよダリエ、今それどころじゃ―」
「デアンは、悪堕者のスパイなんです」
To be next case




