案件44.深い霧の中へ
5月5日10時半頃、異救者たちは遭難者を救助すべく、霧満山の登山道を駆け抜けていた。
黒火手団の三人は既に変異しているが、山岳救助専門の異救者グロンカは、生身の状態で軽々と山を登り三人を先導した。
「ほれほれお主たち、置いてってしまうぞ」
「生身で高齢なのに、あんなに動けるなんて・・・!」
「元気なばあちゃんだな、ゲキアツ見直したぜ!」
「それよりこの山、変異しても50m先が見えないぞ」
霧満山の山中は濃霧に覆われ、常人の目では10m先が見えない程だ。
「ガングロばあちゃんに負けないぜ!」
そう言ってカネリファイヤは、グロンカを追い越した。
「元気印なコじゃのう、でもその先は危ないぞ」
「ゲゲッ!」
なんとカネリファイヤの目の前に突然崖が現れ、急停止したが間に合わなかった。
『救手アーム!!』
リチャウターが腕を長く伸ばしたため、カネリファイヤは転落を免れた。
「カネリ大丈夫!?」
「悪ぃボンゴラ、助かった」
「素人が先走るな」
「でもガングロばあちゃんは、何でわかったんだ?」
「あたしゃ50年以上、色んな山に登って人助けしてるんじゃ、このくらい余裕のよっちゃんじゃよwww!」
10時53分、異救者たちは山奥でスマホを確認したり、近辺を調べていた。
「遭難信号が出たのはこの近くじゃ」
「登山道から外れた複数人の足跡があるぞ、まだ新しい」
「遭難者たちは、ここで道を間違えたのかな?」
「そういや、どんなヤツらが遭難したんだ?」
リチャウターは、遭難地点を目指しながらカネリファイヤに説明を始めた。
「鳥天堂大学のテニスサークルに所属する、20歳前後の大学生だよ」
「4人は親睦を深めるため、今回の登山を企画したみたい」
「まずは小谷ロック、3年男子。今回の登山を企画した遭難者たちのリーダー。体格に恵まれ運動神経抜群、顔もいいから女子にモテてるんだって」
「尾根見マヤ、1年女子。読者モデルで男子に人気らしい」
「草丘ダリエ、1年女子。高校2年からテニスをやってたそうだよ」
「最後は坂登デアン、1年男子。大人しそうな感じの人だね」
「もう少し時間があれば、俺が詳しく調べたのだがな」
「なるほど、若気の至りってヤツか!」
「カネリ、年下のおれたちが言うのはどうかと思うよ?」
実はアゼル、カネリ、ボンゴラの三人は、現在16歳である。
「ちなみにあたしは71歳、まだまだナウなヤングには負けんのじゃ!」
「誰に対して言っているのだ」
11時19分、異救者たちは遭難信号の発信地点に辿り着いた。
霧が深くて全貌は掴めないが、草木が少なく岩肌が剥き出しの切り立った地形のようだ。
「遭難者等はこの辺りにいるはずだ」
「ここらは足場が不安定じゃ、お主たちも気をつけるのじゃぞ」
「おーい!助けに来たぞー!!」
「返事をしてくださーい!!」
大声を出しながら遭難者を探す中、霧の向こうから人の声がした。
「おーい!ここだー!」
「助けてー!」
「あっちからだ!」
足元に注意しながら声がした方へ進んでいくと、ついに遭難者4名を発見した。
「11時36分、遭難者発見」
「助けに来たぜ!」
遭難者たちはいずれも疲れた様子で目立った傷はなく、異救者たちの介抱を受けて安堵の表情をみせた。
「ありがとう!もうダメかと思ったよ・・・」
「ロック先輩!何が『遭難したら俺が守ってあげるよ』ですか!異救者が来なかったら死んでたかもしれないんですよ!!」
金髪で容姿端麗な女性遭難者マヤが、遭難者のリーダーであるロックに食ってかかった。
「そう怒るなよ、助かったんだから・・・」
「すみません、どういうことですか?」
「この人、私たちにイイところを見せようとして、わざと登山道から外れたんです」
「ダリエ!余計なこと言うなよ!」
リチャウターの質問に対し、短髪でそばかすがある女性遭難者のダリエが説明した。
「ハ?ふざけんじゃねえぞテメェ・・・!」
「異救者を舐めているのか?」
ロックの身勝手な理由を知り、黒皇とカネリファイヤが詰め寄った。
「まあまあお主たち、まずは人助けじゃ」
「・・・・・」
黒髪で眼鏡をかけた男性遭難者のデアンは、他の遭難者と異救者たちのやり取りを黙って見つめていた。
「さて、ワープゾーンを準備するかのう」
グロンカはリュックから、携帯ワープゾーンの装置を取り出しスイッチを入れたが、何の反応もない。
「ん?」
「故障ですか?」
グロンカは何度もスイッチを押したが、やはり反応がない。
「ちょっとどうなってるの!?」
「おかしいのう、出発する前に動作確認はしたのじゃが・・・」
「それだけではない、さっきまで繋がってたスマホが圏外になってるぞ!」
「あ、本当だ!」
「俺のもだ!」
「さっき遭難信号出せたのに!」
外部と連絡が取れなくなり一同が動揺する中、グロンカは霧の中で何かに気づいた。
「みんな伏せるんじゃ!!」
次の瞬間、霧の向こうから弾丸や光線が放たれ、一同近くの地面に当たり爆発を起こした。
「キャアアア!!」
「敵襲か!?」
『救手アーム!!』
リチャウターの両手が大きくなって遭難者たちに覆いかぶさり、敵の飛び道具を防いだ。
「つっ!!」
「ボンゴラ大丈夫か!?」
「この程度の攻撃なら・・・」
今度は霧の中から闇異が現れ、リチャウターに襲いかかるが、黒皇が阻止した。
両者の刀剣が鍔迫り合いする中、黒皇は敵が首に下げている物を見てあることに気づいた。
「そのタグ・・・貴様悪堕者か!!」
To be next case




