表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/90

案件43.霧満山(きりみやま)の遭難者

 5月5日、ゴールデンウィークの終わりが近づいた頃、カネリはタンクトップとショートパンツを着用し、汗だくになりながら自室で筋トレに励んでいた。


 なんと100kgの重りを背負い、片腕で腕立て伏せをしていたのだ。

 さらに常人よりも体温が高いカネリの汗と放熱で、室内は蒸気に満ち30℃を超えていた。


「998・・・999・・・1000・・・っと!」


 腕立て千回を達成したカネリは起き上がり、水を求め自室から飛び出した。


 同じ頃アゼルは、キッチンでブラックコーヒーを嗜んでいた。


「やはりコーヒーは(ブラック)に限る、ミルクや砂糖などの異物は不要だ」


 その時、カネリが汗を撒き散らしながらキッチンに現れたため、アゼルはコーヒーを持ったまま慌てて離れた。


「プハー!筋トレした後の水は、ゲキアツウマいぜ!」


 カネリはそう言いながら、2リットル近くの水道水をガブ飲みした。


「汗だくの状態で彷徨(うろつ)くな!コーヒーが台無しになる!」


「そういやボンゴラ見てねえな」

「『救世会(きゅうせいかい)附属図書館』だ、さっさとシャワー浴びてこい!」


 


 救世会(きゅうせいかい)附属図書館とは、異救者(イレギュリスト)を管理・支援する救世会(きゅうせいかい)が管轄する図書館である。


 そこには過去の案件や闇異(ネガモーフ)関連の事件の記録が全て保管されている。


 ボンゴラは図書館に赴き、悪堕者(シニステッド)の復讐者浅刺(あさとげ)コズドを救う手がかりを探すべく、彼と深い関わりがある『先代聖女暗殺事件』の文献を読み漁っていた。


(ネットの情報よりも信頼できるけど、目新しい情報はないな・・・)


 4年前に起きた先代聖女暗殺事件では、マナキより一つ前の聖女『アイカ』が、白昼に護衛と民衆に囲まれた中で凶弾に倒れ、世間に衝撃を与えた。


 その直後に実行犯の一人で、コズドの父親でもある『浅刺(あさとげ)カズト』が逮捕されたが、留置所で自ら命を絶ち動機が明かされることはなかった。


 しかし民衆の怒りは収まらず、彼の身内を激しく迫害し死に追いやったことで、コズドは復讐者となり悪堕者(シニステッド)に身を投じ悪事に手を染めた。


 ボンゴラがこの事件について把握しているのは、ここまでである。


(あの事件は、アイカ様を護衛していた異救者(イレギュリスト)だけでなく、直接関わりのない人まで批判の的になったから、人々を刺激しないよう詳しい情報は伏せられたんだよな)


(それ以上のことを知るには、ランクを上げないとダメか・・・)


 そう思いながらボンゴラは、閲覧禁止区域の入口に目をやった。異救者(イレギュリスト)はランクが高いほど、機密情報に触れる機会が多くなるのだ。


 その時、ボンゴラのスマホのバイブレーションが鳴り内容を確認すると、アゼルからメッセージが送信されていた。


『緊急案件だ、近くのワープゾーンで待つ』




 ボンゴラはすぐ図書館を出て最寄りのワープゾーンへ向かうと、そこで荷物を持ったアゼルとカネリに合流した。


「アゼル!カネリ!」

「お前の分の荷物だ」


 荷物を受け取ったボンゴラは、中身を確認しながらアゼルの説明を聞いた。


「ツドウからの紹介で内容は、『霧満山(きりみやま)』の遭難者4名の救助だ」

霧満山(きりみやま)?」


「山頂からの景色が美しい(ブラック)な山だが、濃霧が発生しやすく遭難者が後を絶たない」

「それを防ぐための登山道があるのだが、今回の遭難者等は碌な知識と装備もない状態で登山したようだ」


「つまり、弁当と水筒を持たないで山に登ったのか!?」

「お前は遭難者と同レベルか!」

「カネリ、ピクニックじゃないから」


「山中にワープゾーンは?」

「ふもとだけだ、それ程広大な山ではないからな」


「こういう時に備えて、一般人も携帯ワープゾーンとか使えればなあ」

「理解できるが、悪用されるリスクが高いから制限されている」


「おれたち以外で救助に参加する人は?」

「一人だけだ、山岳救助のベテランらしい」


「たった一人?みんなで探した方がゲキアツ早いだろ!」

「今の時期は各地で遭難や事故が多発している、異救者(イレギュリスト)も救助隊も多忙だ」

「準備不足の遭難者は、早く助けないと手遅れになる。急ごう!」




 黒火手団(くろびてだん)の三人は、ワープゾーンを利用し霧満山(きりみやま)のふもとに到着した。山は白い霧に覆われ、全体像がはっきりしていない。


「ここが霧満山(きりみやま)・・・」

「ゲキアツ真っ白だ!」

「ふもとですら100m先が見えないな」


「さっき言ってた、山岳救助のベテランの人は?」

「現地で合流すると聞いているが・・・」

「お主たちかえ?あたしと一緒に山に登るのは」


 すると霧の中から、登山服を着た褐色肌の高齢女性が現れた。

 

「あたしは山ノ場(やまのば)グロンカ、山岳救助専門の異救者(イレギュリスト)じゃ」


「ヤマンバ?」

「カネリ失礼だよ!」

「今回救助を共にする黒火手団(くろびてだん)だ、宜しく頼む」


黒火手団(くろびてだん)・・・あ~、ナウでバッチグーな異救者(イレギュリスト)じゃったな!」


「ナウ?」

「バッチグー?」


 当の昔に廃れた単語を聞き、カネリとボンゴラは困惑した様子だ。


「めんごめんご!あたしは昔、キャッピキャピのギャルじゃったから、その時の口癖が抜けきれてないのじゃwww」


「はあ・・・」

「おいアゼル。このばあちゃん、ゲキアツ大丈夫か?」

「ツドウが、腕のいい助っ人だと評価していたがな」


「さあお主たち、シャカリキになって助けに行くぞ!」


 5月5日10時4分、黒火手団(くろびてだん)の三人とグロンカは、遭難者を救助すべく霧満山(きりみやま)への登山を開始した。


To be next case

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ