案件41.救ける理由
子どもたちを人質に取られ、救手ハグネードに耐えたジュウメンを前に、黒火手団は為す術を失った。
「どうした!もう打つ手なしか!?」
「・・・・・!」
ジュウメンは無数の触手を激しく振り回し、三人は猛攻に耐えていた。
「あのヤロウ・・・子どもたちを助けられれば・・・!」
「聖女の力を借りるべきだ、結界を維持しつつ奴の浄化は可能だろ!」
「そしたらマナキちゃんに大きな負担がかかる、この後も人助けの予定がいっぱいあるんだ!」
「そんな悠長なことを言ってる場合か!」
「オイ、アイツ見てみろ!」
カネリファイヤが指差すと、ジュウメンのボディから子どもたちの身体の一部が出たり引っ込んだりしていた。
「どうなってるの!?」
「・・・俺の推測だが、救手ハグネードの影響で奴と子どもたちとの同化が弱まったのではないか?」
「つまり、助けられるゲキアツチャンスか!?」
「今なら子どもたちを引っ張り出せるかも!?」
「試す価値は黒にある!」
「くそっ!さっさと倒してやる!!」
自身の身体の異変に気づいたジュウメンが再び触手攻撃を仕掛けたが、三人はバラバラになって避けた。
『救手アーム!!』
リチャウターは腕を長く伸ばし、ジュウメンのボディから突き出た子どもの腕を掴みゆっくりと引っ張ると、子どもの身体が少しずつ現れた。
「よし、いけそうだ!」
「させるか!!」
ジュウメンが無数の触手を伸ばすが、妨害を察知したリチャウターが子どもの腕を掴んだまま『救手パルマ』を発動した。
リチャウターの手から浄化エネルギーが放たれ、子どもの身体を通り抜けジュウメンにダメージを与えた。
「うぅ、力が・・・!」
ジュウメンが怯んだ隙に再び子どもを引っ張り、ついに完全に引き剥がした。
「よっしゃあ!!」
「俺達もやるぞ!」
リチャウターが子どもをマナキに託す間、黒皇とカネリファイヤもジュウメンのボディから子どもたちを引っ張り出した。
「カネリ、勢いをつけ過ぎて脱臼させるなよ」
「それくらいの加減はできらぁ!」
ジュウメンが二人を振り払おうとするが、リチャウターの救手パルマで再び阻止された。
「今の内に子どもたちを助けるんだ!」
黒火手団は子どもたちを次々と助け出し、残り一人となった。
「あとはカガヤくんだけだ!」
「まだだ!まだウチには、コイツらから奪った闇があるんだよぉ!!!」
リチャウターは迫り来る触手をかわしながら、救手アームで腕を長く伸ばしカガヤの腕を掴み取ったが、他の子どもたちと違い引っ張ってもビクともしなかった。
「なんで・・・!?」
「いいよ・・・オレ・・・助けてもらう資格なんてない」
「コイツごと、オレを倒してくれ・・・!!」
ジュウメンがさらに激しい攻撃を仕掛けたため、リチャウターはやむなくカガヤを掴んだ手を放した。
「どうしたボンゴラ!?」
「カガヤくんを引っ張り出せない、助けられることを拒絶してるみたいだ!」
「カガヤ心配すんな!オレたちが助けてやるから、信じて待ってろ!!」
「いらないよ!オレのせいで母ちゃんが逮捕されて、父ちゃんが大ケガしたんだ!!」
「オレはいたらいけないんだよ!!!」
カガヤの心の闇の影響か、ジュウメンの勢いが強まり始めた。
「どうする異救者!それでもウチを攻撃するのか!?」
再び窮地に陥った黒火手団に対し、ステージの外で応援している子どもたちは心配そうな顔をしており、ダニュアルやゴンスケも不安を拭えなかった。
「ボンゴラ君・・・」
「クソッ!あと少しってとこで!」
「一か八か黒殺刑で―」
「おれがカガヤくんを説得する、二人は援護してほしい」
黒皇は錬黒術を発動し、黒く大きな盾を6枚作り出し、三人はそれぞれ2枚の盾を持ち防御の構えに入った。
「限界まで待ってやる、黒に決めろ」
「ありがとうアゼル!」
「ゲキアツに持ちこたえてやるぜ!!」
黒皇とカネリファイヤは、盾を用いてジュウメンの攻撃を徹底的に阻止し、その間にリチャウターはカガヤの説得を開始した。
「カガヤくん!ご両親に起きたこと、どうして自分のせいだと思うの!?詳しく教えてくれないかな!?」
「・・・オレは勉強苦手だから、母ちゃんいつも悩んでたんだ」
「でも知らなかったんだ、勉強できなくても何とかなると思ってたから・・・」
「一ヶ月前、父ちゃんと母ちゃんがケンカした時、父ちゃんが言ったんだ」
「オレが勉強できないのは、お前の教育が悪いからだって」
「そしたら母ちゃんが、闇異になって父ちゃんを・・・」
「そして母ちゃんに、お前さえいなければこんなことにならなかったんだって、言われたんだ」
「オレのせいで、父ちゃんと母ちゃんが・・・!!」
カガヤは涙を流しながら事情を打ち明け、リチャウターは黙って耳を傾けた。
「・・・辛かったんだね、教えてくれてありがとう」
「でも尚更、君を見捨てるなんてことはできない!」
「なんでだよ・・・!なんでアンタたちはボロボロになってまで、オレを助けようとするんだよ・・・!?」
「君にも、救いがあってほしいんだ」
リチャウターは、盾でジュウメンの攻撃をガードしながら答えた。
「だからなんで・・・」
「おれは物心つく前から孤児院にいて、実の親はいないけど、そんなことが気にならないくらい幸せに暮らしてたんだ。みんなそうだと思ってた」
「でも孤児院を襲った闇異に言われたんだ、オレを差し置いて救われているお前らが許せないって」
「恐怖よりも、その悲痛な言葉が衝撃だった。それから知ったんだ、世界には傷つき苦しんでる人がいっぱいいることに」
「おれはそれが許せないから、救世主になって全ての人を救うと誓ったんだ!!」
「ナニ言ってんのコイツ・・・イカレてんの・・・!?」
リチャウターことボンゴラが人助けする理由を聞き、ジュウメンは困惑した様子だった。
「君の問題はすぐ解決できないかもしれない、でも今ここで救いを求めれば、やり直すチャンスはある!」
「カガヤくんには、救われる資格があるんだよ!!」
「・・・・・!」
(・・・オレは、いる資格とか救われる資格があるかわからない・・・)
(それでも・・・父ちゃんと母ちゃんと、また一緒に暮らしたい・・・!)
「お、お願いだ・・・オレを、助けてくれ・・!!」
「必ず救ってみせる!!」
リチャウターが救手アームを発動し腕を長く伸ばすが、途中で勢いを失ってしまった。
技の発動に必要な力を、使い果たしてしまったのだ。
To be next case




