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案件39.ボンゴラとカガヤ

 恵まれない子どもたちのための遊園地、はっぴっぴランドのスタッフとして人助けしていたボンゴラは、曇った表情の少年カガヤとその保護者であるダニュアルと出会った。


「この子は晴山(はれやま)カガヤ、僕たちが面倒を見てるんだ」

「おれは手差(てざし)ボンゴラ、よろしくねカガヤくん」

「・・・どうも」


 カガヤはボンゴラに目を背けながら返事をした。


「それにしても大きくなったねボンゴラ君、見違えたよ」

「おれもダニュアルさんに会えて嬉しいです、5、6年ぶりですよね」


「あなたも異救者(イレギュリスト)になったと聞きました」

「ああ、難民だった僕を引き取り育ててくれた、『シュバシコウ』のようにね」


 シュバシコウとは、ボンゴラの故郷である孤児院の名前である。二人は血の繋がりはないが、同郷で育った兄弟なのだ。


「君の活躍は耳にしているよ、かなり頑張ってるようだね」

「まだまだですよ」


「それよりカガヤくんに、何があったんですか?」

「・・・一ヶ月前、彼のお母さんが闇異(ネガモーフ)に変異してしまったんだ」


「原因は彼の成績不振と家事疲れによるストレス、父親との口論が引き金になって変異し重傷を負わせた」


「偶然近くを通りかかった異救者(イレギュリスト)が、異変に気づいたおかげで被害が拡大せずに済んだけど、父親は入院し母親は逮捕されたから、僕たちが預かることになったんだ」


「家族全員が離れ離れになってしまったんですね・・・」

「オレのせいなんだ、オレが悪いんだ・・・」


「そんなことはないよ、君は悪くない!」

(カガヤくんは両親のことで、自分を責めているんだ・・・)


「・・・トイレ行ってくる」


 そう言ってカガヤは、近くの公衆トイレに入っていった。


「カガヤ君・・・」

「あの子は以前の君に似てるから、放っとけないんだ」


「え?」

「ほら、シュバシコウが闇異(ネガモーフ)に襲われた後、世界中に救いを求める人がいるのに、自分だけが救われていいのかって悩んでたじゃないか」


「あ・・・」


 ボンゴラはその時のことを思い出していた。目の前に現れた闇異(ネガモーフ)が、『オレを差し置いて救われているお前らが許せない』と叫びながら暴れている姿が、強烈に記憶に残っていたのだ。


「それから救世主になる決心が固まったようだけど、僕は心配だったな」

「あの頃の君は思い詰めた顔で、無茶な人助けをしていたから」


「でもあの屋敷へ肝試しに行ってから、表情が少し明るくなったよね。改めて聞くけど何があったの?」


「それは・・・すみません・・・」

「わかった、聞かないよ」


 ボンゴラはたとえ同郷の兄弟でも、マナキと出会い関係を築いたことを明かすわけにはいかなかった。


「とにかく今も元気そうでよかった、カガヤ君もそうなればいいな」

「そうですね・・・」




 カガヤは洋式トイレに座ったまま、母親が変異した時を思い出していた。


 目の前で父親を襲い、『お前さえいなければこんなことにならなかったんだ』と言いながら、自分を手にかけようとした母親の姿がフラッシュバックしているのだ。


「全部オレが・・・悪いんだ・・・!」

「ラッキー~、こんなところで闇深いコ見~っけ」


 なんとトイレの排水溝から、触手が現れウネウネと動いていた。次の瞬間、触手は大口を開けカガヤを丸呑みにしてしまった。


「!!」

「助けは呼ばせないよ、せっかくここまで闇深いコを集めたんだから」


 触手がカガヤを吸収すると、排水溝から本体と思われる闇異(ネガモーフ)が現れた。

 ボディはスライムのような茶色の不定形で、体中に人の顔が浮かび上がっている。


「この子融闇異(こどけネガモーフ)ジュウメンが、闇の赴くままに遊園地をグチャグチャにしてやる」


 カガヤを取り込んだ闇異(ネガモーフ)は、悪堕者(シニステッド)の一員だったのだ。




「子どもたちが行方不明!?」


 トイレに行ったカガヤを待っているボンゴラとダニュアルは、アゼルとカネリから事件を聞かされていた。


「この地域で8人失踪している、いずれも一人になった時を狙われたようだ」

悪堕者(シニステッド)の仕業にちがいねえ!」


「となると園内も危ないんじゃ・・・」

「カガヤくん!!」


 ボンゴラとダニュアルはトイレへ急ぐと、カガヤが何事もなかった様子でトイレから出てきた。


「あれ、二人ともどうしたの?」

「カガヤ君大丈夫!?何もなかった!?」


「心配しすぎだよ、オレは大丈夫さ!」

「それよりオバケ屋敷行こうよ!」


 さっきと打って変わって元気になったカガヤに、ボンゴラとダニュアルは違和感を感じていた。


「ボンゴラ君・・・」

「ダニュアルさんは、カガヤ君から目を離さないで下さい」


 ボンゴラはカガヤから距離を置き、アゼルとカネリに相談した。


(ブラック)に怪しいな、例の失踪事件に関与しているかもしれん」

「カガヤに直接聞いてみるか?」


「いや、カガヤくんが闇異(ネガモーフ)に操られていたら、下手なことはできない」

「実態を明らかにしないと、対策のしようがないな」


「・・・ゴンスケさんにも相談してみよう」

「『あの女』にも声をかけておけ、お前の頼みなら喜んで協力するだろう」


「あの女?」

「カネリ、開園前の説明を聞いてなかったのか?」




 正午を過ぎた頃、はっぴっぴランドの主催者ゴンスケがスピーチを始めた。


『さあここで、本日のサプライズイベントが始まるよ~!』

『聖女マナキとの握手会ダックスフンドーーー!!!』


 ゴンスケがダックスフンドのバルーンアートをいっぱい飛ばすと同時に、遊園地中央のステージからマイクを持ったマナキが現れた。


『あなたに救いがありますように、聖女マナキです』


 マナキの登場を知った子どもたちが、一斉にステージに集まってきた。


「聖女様だ!」

「本物なの!?」

「やったーーー!!!」


『今日ははっぴっぴランドのサプライズゲストとして、やって来ました~!』

『わたしと握手したいのはだれかな~?手を上げてね~!』


「「「はーーーい!!!」」」


 マナキの人気は凄まじく、千人近い子どもたちが一斉に手を上げた。その中にはカガヤの姿もあった。


「オレも聖女様と握手したい!」


『じゃあまずはね~・・・そこのあなたから!』


 マナキが指名したのは、なんとカガヤだった。一番に握手できると知ったカガヤは、大いに喜んだ。


「いやったーーー!!!」

「よかったねカガヤ君」


 カガヤはダニュアルに見送られながらステージへ走って行ったが、その途中で邪悪な笑みを浮かべた。


(今日のウチはとことんラッキ~!聖女を吸収するチャンスなんだから!)


 ボンゴラたちが懸念した通り、カガヤを吸収した悪堕者(シニステッド)ジュウメンが彼に擬態していたのだ。


 そうとも知らないマナキは、このままジュウメンに取り込まれてしまうのだろうか!?


To be next case

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