案件38.開園!はっぴっぴランド
ゴールデンウィーク半ば頃、アゼルは黒火手団事務所の敷地内で、血黒の鎧から授かったサーベルの試し斬りを行っていた。
一般人と闇異を模した人形を不規則に並べ、闇異の人形だけをスパスパと斬り倒し、最後の一つを斬り倒したところでサーベルを鞘に収めた。
「・・・・・」
しかしアゼルの表情は重く、一般人の人形を見回すと深い切り傷がついていたり、身体の一部が切断されていた。
人形を全て片付け事務所の中へ戻ると、カネリとボンゴラがスマホで案件を探していた。
「おかえりアゼル、どうだった?」
「まだ掴めていない、切れ味が鋭すぎて余計なものを斬ってしまう。実戦で使用するには少々時間がかかる」
「黒騎剣・・・必ずものにしてみせる!」
「何だそりゃ?」
「血黒の鎧から授かったサーベルの名だ」
「黒き騎士の剣だから黒騎剣、黒なネーミングだろ?」
「お前ほんと、ブラックが好きだな!」
「まあいいんじゃない?」
「さて、今日はどの案件を受けるか」
「昨日も高速道路の多重事故の救助と、キャンプ場で闇異同士のケンカの仲裁、そして悪堕者の撃破と忙しかったね」
「今日もスコアをゲキアツ稼ぐぜ~って、新しい案件が出てきたぞ!」
案件を紹介するサイトに新たな案件がアップしたことを、アゼルとボンゴラも気づいた。
「はっぴっぴランドの、スタッフ募集?」
「中堅の異救者チーム、『はっぴサーカス』が運営する遊園地だ」
「はっぴサーカスは、主に恵まれない子どもたちを助けてるチームだね」
「予想以上の入客で人手が足りないみたい」
「なんか面白そうだな、これにしようぜ!」
「スコアも悪くないな」
翌日早朝、黒火手団ははっぴっぴランドに到着し、他の異救者と共に開園前のスピーチを受けていた。
「みんな来てくれてありがとうもろこし~、はっぴサーカスの代表滑塊ゴンスケだよ~」
ゴンスケははっぴを着た道化師の姿をした中年男性で、両手にとうもろこしを持っている。
「ボクたちはっぴサーカスのモットーは、世界中の子どもたちを笑顔にすること!」
「ここはっぴっぴランドはゴールデンウィークの期間中のみ運営し、恵まれない子どもたちはタダで遊び放題!保護者の同行もOKだよ」
「君たちははっぴっぴランドの1日限定スタッフとして、子どもたちを笑顔にしてほしい!」
「詳しいお仕事の内容はこの後説明するから、みんなよろしくねんねころり~」
ゴンスケはおやすみのポーズをとりながらスピーチを終え、異救者たちは説明を受けたあと開園の準備にとりかかった。
午前9時頃、はっぴっぴランド開園と同時に子どもたちが押し寄せてきた。みんなここで遊ぶことを、心から楽しみにしていたのだ。
そしてはっぴっぴランドのスタッフたちが、はっぴを着た道化師に扮し派手なパフォーマンスで子どもたちを迎えた。
「はっぴっぴランドへようこそ!」
「君たちに笑顔をお届け!」
「楽しい思い出をいっぱい作ろうね!」
「ジェットコースターに乗りたい子はいるかな~?案内するよ!」
「乗りたーい!!」
ピエロ姿のボンゴラの前に、大勢の子どもたちが集まった。
「あ、この人知ってる!黒火手団の・・・『ボンタロウ』だ!」
名前を間違われ、ボンゴラはズッコケてしまった。
「ボンタロウっていうんだ!」
「救手ハグネードやって!」
「いや、ボンゴラだから・・・」
「ギャハハハ!人気者だなボンタロウ!」
「よぉし!オレ様もゲキアツパワーを見せてやるぜぇ!!」
ゴリラの着ぐるみを着たカネリは、両腕に子どもをぶら下げながら走り回った。
「思い知ったか、この激熱カネリの力を!」
「え?激安カネリ?」
悪意のない子どもの一言が、カネリの怒りに触れた。
「だぁれぇがぁ、激安だーーー!!オレは激熱カネリだーーー!!!」
カネリは怒って暴れるも、子どもたちは大喜びだ。
「やれやれ、この程度で激昂するとは大人げない」
「さあ見るがいい!タネも仕掛けも無い黒なマジックを!」
マジシャンに扮したアゼルは、シルクハットから鳩を出す手品を披露したが、子どもたちにはあまりウケなかった。
「え~つまんな~い」
「異救者ならできて当たり前じゃん」
その言葉はアゼルの顔に、ピキッと小さな青筋を立てた。
「いいだろう、ならばより黒なマジックを見せてやる!」
アゼルは色とりどりのボールを一斉に投げ、ステッキを取り出し四方八方に振り回すと、ボールが空中で細切れになった。
「すごーい!」
「杖で斬っちゃった!」
子どもたちの驚く顔で、アゼルは得意気になっていた。
(非常時を除いて危険物が使えないため、事前にボールが細切れになるよう仕掛けを施したのだ!この程度に騙されるとは所詮―)
「あらかじめボールが切れるように、細工しただけじゃないの?」
アゼルのマジックは、一人の子どもに容易く見破られてしまった。
「ならば本気の!黒なマジックを見せてやる!!!」
子ども相手にムキになるアゼルとカネリを見て、ボンゴラは呆れ果てていた。
「二人とも程々にね・・・」
昼前頃、ボンゴラは他のスタッフと共に、ジェットコースターの順番を待つ子どもたちを誘導していた。
「あと3分で乗れるから、それまで待っていようね」
ボンゴラがふと辺りを見渡すと、園内はアトラクションを満喫する子どもたちで溢れていた。
(みんな楽しそうでよかった。でも世界には、恵まれない子どもたちがまだいっぱいいる)
(救世主になったら、この手で全ての人を救ってみせる!)
その時ボンゴラは、園内の隅で一人寂しそうに佇んでいる子どもを見つけた。10歳前後の男の子だ。
「すみません、あの子のところへ行ってきます」
他のスタッフの了解を得て、ボンゴラは寂しそうな子どもに話しかけた。
「ねえ、君はみんなと一緒に遊ばないの?きっと楽しいと思うよ」
「・・・いいよ、オレそんな資格ないから」
「資格?どういうこと?」
「あ!やっと見つけた!」
ボンゴラと子どもの前に、薄黄色の髪で顔の左半分が隠れている青年が現れた。どうやら彼の保護者のようだ。
「カガヤ君、心配したんだよ!」
「え、ダニュアルさん!?」
「ボンゴラ君じゃないか!」
ボンゴラの前に現れた謎の青年ダニュアル、二人は一体どういう関係なのか!?
そしてカガヤが抱える事情とは!?
To be next case




