案件35.呪物と闇の歴史
政村呪物館に巣食う特定危険呪物『血黒の鎧』を浄化するため、黒火手団は呪物館に来館した。
「ここが中世の間か!」
「違う、古代の間だ」
「中世の間へ行くには、ここが一番の近道なんだ」
三人が最初に訪れた展示エリア『古代の間』には、土偶や埴輪に似た不思議な像や、奇妙な形をした装飾品などが置かれていた。
黒皇とリチャウターは、展示された呪物を警戒しながらゆっくりと進んだ。
「なんだか鑑賞しに来たみたいだね」
「案件でなければ、ゆっくり出来たのだがな」
一方カネリファイヤは、もがき苦しんだ古代人を模した石膏像をまじまじと見つめていた。
「なんだか生きてるみてぇだなあ」
「それは『生贄の像』、神に献上する為人間を生きたまま石膏に閉じ込めた代物で、犠牲者の怨念が宿り道連れにする相手を探し求めているそうだ」
「ゲッ、マジかよ!」
「なんてひどいことを・・・」
「古代と現代では、価値観が黒に違う」
「千年以上前、科学も闇も知らぬ時代、人々は理解不能な存在を恐れ崇拝し迫害した」
黒皇はそう言いながら、古代人が描いた壁画に目をやった。
カネリファイヤとリチャウターもつられて壁画を見ると、そこには頭に翼を生やした人を崇める人々や、骸骨の顔を持つ怪物から逃げる人々が描かれていた。
「これって闇異か?」
「多分、そうみたいだね・・・」
その時リチャウターは、ふとある疑問が沸いた。
「・・・呪物も闇異も、いつからいたんだろう?」
「人類誕生と同時期だという説が有力だ。どちらも闇のエネルギーと人間が不可欠だからな」
「その力で、人助けした人もいたのかな?」
「いたようだが、お前のようなお人好しとは限らんぞ」
その時、カネリファイヤがうおおおおお!?と叫び声を上げ、黒皇とリチャウターが振り向くと、彼女の目の前で生贄の像が宙に浮いていた。
「憎い!私を生贄にした奴らが!」
「お前達も道連れにしてやる!!」
そう言って生贄の像が突進してきたが、カネリファイヤは強靭な肉体で押さえ込んだ。
「こんの・・・!」
「壊しちゃダメだ!救手ハグネードで―」
「お前も浄化技を闇雲に使うな!標的は血黒の鎧だぞ!」
「俺がやる!呪いには呪いで対抗だ!!」
そう言って黒皇は、黒呪毒を放ち生贄の像の動きを止めた。
しかし他の呪物も動き出し、黒火手団を取り囲んだ。
「敵が増えたぞ!」
「急いでここを出よう、中世の間へ行くんだ!」
三人は襲いかかる呪物たちを振り切り、『中世の間』にたどり着いた。
「・・・追ってこないね」
「テリトリーから出てまで、襲う意志は無いのだろう」
中世の間にはいかめしい武者鎧やギロチンに似た処刑道具が展示され、壁には怪しげな魔法陣が描かれており、呪物たちが動く様子は今のところなかった。
「・・・仕掛けてこねぇな」
「念の為、先手を打っておく」
そう言うと黒皇は、黒呪毒を呪物に浴びせ回った。
「アゼルこそ力を多用して大丈夫?」
「俺の義足には、闇異の力が備蓄してあるから問題無い」
アゼルこと黒皇の左側の義眼と義手義足には、人助けに役立つ様々な機能が搭載されているのだ。
「ボンゴラ、これ何だ?」
「パンフレットによると・・・『闇の契輪』と言って、闇異を思い通りに操る道具らしいよ」
ついでにリチャウターは、万一呪物が襲ってきても対抗できるよう、パンフレットの記載に目を通し始めた。
(闇異を操るだけでなく、撃退や封印するための呪物まで・・・)
(中世の時代500年近く前の人々は、闇異に対抗すべくあらゆる手を尽くしたんだな・・・)
(でも人に戻す方法はまだなく、救うことはできなかった・・・)
それを知ったリチャウターは、少し悲しく感じた。
「ここに血黒の鎧はいないようだ」
黒皇は鎧を展示する予定だった場所の前で佇んでいた。
「じゃどこにいんだ?」
「残りの近代の間と現代の間も探してみよう」
「入れ違う可能性があるから、こいつを仕掛けておく」
黒皇は、義手から小型カメラを取り出し天井に設置した。
「古代の間にもこれと同じ物を設置してある、俺の義眼を介していつでも確認可能だ」
「呪物にブッ壊されんじゃねえの?」
「ステルス機能を搭載しているから問題無い」
三人は中世の間を出て『近代の間』に足を踏み入れたが、そこでは戦闘態勢に入った呪物たちが待ち構えていた。
「・・・アゼル、おれも戦わせてもらうよ」
「救手パルマに留めておけ」
宙を舞う大小様々な銃火器がズドドドと一斉に発砲してきたが、黒皇とリチャウターはこれらをかわし、黒呪毒と救手パルマで呪物を無力化していった。
そんな中、二人の背後から戦車が現れ砲で狙いを定めた。
「あんな物まで!?」
「チッ!」
戦車から砲弾が放たれドーンと大爆発したが、カネリファイヤが防御の体勢で二人を庇った。
「ありがとう大丈夫!?」
「ゲキアツへっちゃら!」
黒皇は戦車が次の砲弾を放つ準備の隙に無力化し、黒火手団は近代の間の制圧も完了した。
「まさか戦車が襲ってくるなんて・・・」
「当時は世界大戦の真っ只中だからな」
「近代もとい100年以上前、資源や宗教など様々な目的で争いが黒に発展し、闇異の軍事利用が始まった」
「・・・・・」
「やがて人々は闇異の力を求め、地中から闇のエネルギーを採掘し世界中が闇で溢れた」
「そして大災害、大闇黒禍につながったんだね」
「あれで世界がゲキアツヤベーことになって、ルニディムがなんとかしたんだよな」
「流石のお前でもそれを知ってて安心したよ」
「バカにすんな!それぐらいは知ってらあ!」
「ここにも血黒の鎧がいないから、『現代の間』へ行こうか」
「その前に先遣隊を送ろう、力の浪費は黒ではないからな」
そう言うと黒皇は、義手を外し地面に置いた。
すると義手が指を使って歩き出し、現代の間へ入っていった。
「すげー、勝手に動いてる!」
「遠隔操作できるよう改良した、小型カメラを内蔵し左目で共有もできる」
「どう?いた?」
「ここもいない、古代の間と中世の間にもだ」
「じゃあどこにいんだよ!?」
「パンフレットに他の展示エリアの記載もないし・・・」
「・・・まさか、『特定危険呪物保管庫』か?」
To be next case




