案件32.かつて天才だった男
4月29日2時50分、矛貫隊の密偵ムックスは変装して悪堕者のアジトに潜入したが、サエラやアゼルに包囲されてしまった。
(この状況、どう切り抜ける!?)
「ようやく本性を現したな―」
「黒理アゼル」
(えっ!?)
ムックスは内心驚いた、悪堕者たちに正体を見破られたのは、自分ではなくアゼルだったからだ。
「くっ!」
(そうか!黒理アゼルは―)
焦りの表情を見せるアゼルに対し、ムックスは彼の本当の目的を理解した。
4日前、アゼルはカネリとボンゴラと別れた後黒理家に戻り、身内たちと再会した。
「アゼル、カネリにスコアで随分差をつけられたようだな。これではどちらがより黒な落ちこぼれか、わからなくなってきたぞ」
「黙れ」
「静かにしろ、当主の前だぞ」
アゼルと彼の親族たちの前に、冷徹な目をした中年の女性が現れた。
彼女の名は黒理ゼルネカ、黒理家の現当主である。
「ご無沙汰しております、ゼルネカ当主」
そう言ってアゼルは、彼女の前で片膝をついた。
「アゼル、お前は悪堕者に寝返ったと思わせ潜入し、奴らの内情を調べるのだ」
「イエス黒」
「そして忘れるな、失態を犯し力を失ったお前を追放しないのは、まだ利用価値があるからだ」
「お前はカネリとは違う、余計な感情を抱かず黒に決めるのだ」
「・・・必ず、成し遂げてみせます」
(俺が救世主となり理想の世界を築くには、黒理家当主の特権が必要だ)
(黒に返り咲き、当主の座を我がものにしてみせる!!)
そうして野望実現のために覚悟を決めたアゼルは、悪堕者に身を投じたのであった―
時は現在に戻り、アゼルは抵抗するも敵わず悪堕者の異能によって動きを封じられてしまった。
「・・・俺がスパイだといつから気づいていた?」
「最初からさ、黒理家がどういう連中か、よ~く知ってるからな」
「ならば何故受け入れた?」
「お前に偽の情報を掴ませ、異救者たちを撹乱するためさ」
「だがその計画は変更だ、お前をここで始末する」
「黒理家は目的のためなら手段を選ばず、汚いことも平然とやってのける」
「目の前の人々を見殺すことすら何とも思わない」
「だがお前は命令に背き人助けして、スパイだとバレてしまった」
サエラはアゼルから手下げバッグを奪い、中から数個のヒトリバコを取り出した。
(黒理アゼルは閉じ込められた人々を抱えて逃げる途中で、ボクを敵だと思い攻撃したのか・・・)
「あの時も非情になりきれず人助けしてしまったから、身体の半分近くを失い黒理家の信頼を失ったんだろ?」
「お前もカネリと同じ落ちこぼれだよ、そして死ぬんだ」
「よぉしお前ら、なるべく痛めつけてから殺れ」
動けなくなったアゼルの前に悪堕者たちが集まり、その中には相部屋でアゼルに返り討ちにされた者もいた。
「さっきの借りを返してやるよ!」
「左だけじゃなく、右の目と手足を潰してやろうぜ!」
ムックスはいつの間にかいなくなっていた、助けられないと確信しその場を去ってしまったようだ。
(フッ、ここまでか・・・)
窮地に陥り死を覚悟したアゼルは、過去の記憶を思い馳せていた―
(俺は黒理家稀代の天才であり、救世主になることを約束された男)
(8歳の頃に黒理家に伝わる秘術の数々をマスターし、10歳で異救者として世界中を飛び回り、数々の困難な案件を達成した)
(この俺に不可能など存在しない、他の連中には救えなかった人間も俺なら黒に救えるのだ!)
(―その傲りの結果がこれだ)
アゼルは悪堕者に痛めつけられながら、自分の左義手を見つめた。
(奴の言う通り俺はあの時から何も変わらない、カネリと同じ落ちこぼれだったのだ)
(だが認めたくなかった、自分は天才なのだと)
(唯一の心残りは、あいつらに救世主の座を譲ってしまうこと―)
その時、突然近くの壁が破壊されカネリファイヤとリチャウターが飛び出してきた。
「アゼルゥ!!!」
「この手で、救ってみせる!!」
「「「なにィ!!?」」」
思わぬ乱入者に、アゼルだけでなく悪堕者達も大きく驚いた。
To be next case




