案件30.裏切りの黒殺刑
4月28日11時34分、カネリファイヤとリチャウターは、路地裏で黒皇と再会した。
「・・・聖明機関の矛貫隊が、アゼルが悪堕者に寝返ったと疑ってるんだ」
「今までどこ行ってたんだ?一緒についてやるから、無実を証明しようぜ」
「その必要も無い」
「俺が悪堕者に寝返ったのは、黒な事実だからだ」
そう言って黒皇は、漆黒のサーベルを抜き二人に剣先を向けた。
「アゼル・・・!?」
「コイツはニセモノだ!アゼルが異救者をやめるもんか!!」
「ほう・・・」
サーベルの刀身からドクロを形をしたオーラが現れた次の瞬間、なんと黒皇は必殺技『黒殺刑』を発動し、サーベルでリチャウターの胸を貫いた。
「!!?」
「ボンゴラぁ!!」
「これで理解できただろう」
立ち振る舞いや言動、そして黒殺刑が使えることから、紛れもなく本物の黒皇だ。
彼がサーベルを引き抜き背を向けた直後、リチャウターは爆散してボンゴラに戻り膝から崩れ落ちるように倒れた。
「アゼル・・・どうして・・・!?」
「ボンゴラ、しっかりしろ!」
「テメェどういうつもりだ!?なんで悪堕者に!!」
「・・・俺は人助けに失望したのだ」
「何度救っても、愚かな人間共は努力せず異救者にすがりつくばかり」
「一方で些細なミスを猛批判し、救われたことへの感謝の意志すら無い」
「日頃からそう思い耐え忍んできたが、黒理家の案件を経てついに理解した」
「この世界に救いは無い、闇の赴くままに生きた方が黒だと確信したのだ」
「ふざけんな!救世主になる夢を諦めんのかよ!!?」
「忘れたよ、そんなもの」
ボンゴラを抱きかかえながら怒りをあらわにするカネリファイヤに対し、黒皇は冷淡な態度を崩さなかった。
「話は終わりだ、お前達も考えを改めるんだな」
そう言って黒皇は路地裏を走り去っていった。
「アゼルぅううう!!!」
「ま・・・待って・・・」
ボンゴラは意識が朦朧とする中、黒皇に向けて手を伸ばすが届くことはなかった―
「・・・ん、ここは?」
ボンゴラは目を覚まし、ゆっくり起き上がって周囲を見回すとそこは見知らぬ部屋だった。
「意識が戻ったか」
ボンゴラの前に、褐色肌で痩せ型の中年男性が現れた。白衣の下に聖明機関の制服を着ている。
「あなたは・・・聖明機関の方ですか?」
「ああ、俺ぁ医城ズイナン。矛貫隊の医療隊員だ」
「じゃあここは矛貫隊の・・・」
「医務室だ、身体の傷はほぼ治ってるし闇異の力も戻ってるはずだ」
闇異に目覚めた人間は、自然治癒力が早まることが多い。人によっては、腕を複雑骨折しても3日で完治するらしい。
「ありがとうございます。おれ、どれくらい寝てましたか?」
「半日以上っておい―」
ボンゴラはアゼルが心配で仕方なく、ベッドから飛び起き身体がちゃんと動くことを確認するとすぐ医務室を出た。
「・・・若いもんは元気だねぇ」
しかし数秒後、ボンゴラは申し訳なさそうな顔で医務室に戻ってきた。
「すみません、執務室はどこでしたっけ?」
「はいよ」
29日2時12分、ボンゴラはズイナンに案内され矛貫隊の執務室に戻り、カネリと再会した。
「ボンゴラ!もう大丈夫なのか!?」
「うん、心配かけてごめん。アゼルは?」
「ホコヌキ隊が悪堕者のアジト見つけて、そこにいるらしいんだ!」
「殴り込む準備してるから、一緒に行こうぜ!」
「わかった。矛貫隊の皆さん、よろしくお願いします!」
「構わないが、俺の指示に従ってもらうぞ」
隊長オスタの発言に対し、リンドーが疑問を投げかけた。
「隊長、あの二人を作戦に加えてよろしいのですか?実力はありますが」
「ああいう連中は断っても勝手に行く、だったら管理下に置いたほうが良い」
「それに敵のアジトに突入する以上、戦力は多いに越したことはない」
「ルールに則り、利用できるものは何でも使う。それだけだ」
「隊長はそこまで考えてたのですね、わかりました!」
「カネリ、アゼルが裏切ったのはきっと理由があるはずだ、もう一度会って確かめよう!」
「ケッ、よくそんなことが言えるなあ」
その時、目つきが悪く両目に泣きぼくろがある隊員が、カネリとボンゴラに近づいてきた。
「お前は・・・ネジマキパック!」
「捻生バークだ半焼け女!」
「黒理家は、仲間を平気で裏切るクソ野郎の集まりだぜ?確かめてもムダだろ」
「おっと悪い、その落ちこぼれのテメェは違うみてぇだな」
「何だと!?」
バークの見下すような発言にカネリは激昂し、ボンゴラは毅然とした態度で反論した。
「アゼルとは訓練生の時から今日まで、人助けを競い合った好敵手であり苦楽を共にした仲間です。勝手に決めつけないでください」
「テメェらがそう思ってるだけなんじゃねえの?」
ボンゴラとバークが睨み合う中、二人の女性隊員が割って入ってきた。
「そうだよバーくん、何も知らないのに決めつけはよくないよ!」
「それに黒理家は一流のスパイ、裏切ったふりをして情報を集めている可能性だってあるわ」
「ぐっ、キリンヤ先輩にフロン副隊長まで・・・!」
「ごめんね、キリンヤの後輩がひどいこと言っちゃって。あの子とってもひねくれた新人なの」
「どーりで悪そうなツラしてると思ったぜ」
「バーくんもちゃんと謝って!」
「わ・・・悪かったな・・・」
バークはキリンヤに言われ、渋々と頭を下げた。
野走キリンヤは金色の短髪で褐色の肌をもち、明るい雰囲気でカネリと同様恵体のよい女性隊員だ。
「私がさっき言ったのはあくまで可能性だから、真実を知るまで気を抜かないようにね」
「はい、ありがとうございます」
矛貫隊の女性副隊長である雪伏フロンは、長い銀髪でクールな印象を醸し出している。
さらにそこへ、長身で黒い肌の男性隊員が涙を流しながら現れた。
「ボンゴラぐんっ!ガネリぢゃんっ!裏切られても仲間を信じ想う気持ちに、自分末甲トゥエバはモーレツにカンゲキしてるッス!!アゼルぐんと仲直りできるといいッスね!!」
「あ、ありがとうございます・・・」
「ホコヌキ隊は変なヤツばっかりだな!」
どの口が言うのかはさて置き、ついに黒火手団と矛貫隊の準備が整った。
「よし、悪堕者のアジトに突入するぞ!」
「「「了解!!!」」」
「ゲキアツに待ってろよアゼル!」
「おれたちは信じている・・・!」
ついに始まるアジト攻略作戦、果たしてアゼルの真意や如何に!?
To be next case




