案件17.バズレイダの英雄
『チャンプファイヤー!!』
総勢1万以上の闇異軍団に対し、カネリファイヤは大規模な火炎放射で迎え撃った。
100人近くの闇異が焼き尽くされ次々と爆発したが、人ではなく小さな人形に戻っていった。
「コイツら、人じゃねえのか!?」
闇異に変異するのは人だけではない。人の想いが宿った物や人の想いが集まりやすい場所に、闇のエネルギーが引き寄せられ闇異が生まれるのだ。
その時カネリファイヤの側に、救世会の使いルニエルが現れた。
「聖女様のご命令により、あなたをサポートします。人由来の闇異に、矢印のマークをつけました」
「つまり矢印がないヤツは、遠慮なく焼いていいんだな!」
カネリファイヤが辺りを見回すと、周りに矢印がついた闇異はいなかった。
それを確信したカネリファイヤは、チャンプファイヤーで辺り一面を火の海に変えた。
「アチィ!」
「おい止まるな!」
闇異の軍勢が激しい炎で阻まれる中、カネリファイヤは炎の中を駆け抜け敵を片っ端から殴り倒し、蹴り飛ばしていった。
カネリファイヤのボディは高熱に強く、1500℃の炎すら暖かく感じるほどだ。
だが炎の中で自由に動けるのは、カネリファイヤだけではなかった。
「この程度の炎など、オレには効かん!」
炎に強くガタイのいい闇異が襲いかかるが、カネリファイヤは左腕で攻撃を防いだ。
「ほーん、ならコレはどうだ!」
カネリファイヤの右拳が激しく燃え上がり、そのままボディーブローを決めた。
『バーニングストレート!!』
次の瞬間、ガタイのいい闇異は火だるまとなり、グオオオアアアアアと断末魔を上げながら爆発した。
バーニングストレートは、殴った相手の内側も焼き尽くす必殺技。
ガタイのいい闇異は外からの炎には強いが、体内を焼かれる攻撃には耐えられなかった。
「強い・・・!」
「まさか本当に、一人でやる気か!?」
「いやお前ら見てないで手伝え!」
結界の中で戦いを見守っていた異救者たちは、驚きを隠せなかった。
ちょうど11時、カネリファイヤが撃破した闇異の数は、既に千を超えていたからだ。
それでも彼女の顔に、疲れた様子は全く見られない。
「残り、8931です」
「ちょうど身体が温まったところだ!」
その時、カネリファイヤが鎖や首輪、粘着液などで動きを封じられた。
闇異たちは各々の異能を駆使し、カネリファイヤを完全に拘束したのだ。
「手こずらせやがって・・・」
「仲間の敵を取ってやる!」
流石もカネリファイヤでも多勢には無勢、絶体絶命のピンチと思われたが―
「・・・おいルニエル、【闇異鍵】は持ってきてんのか?そいつをよこせ」
「聖女様からお預かりしています。ただし、制限時間は5分です」
「十分だ!」
闇異たちがルニエルを狙い攻撃するが、彼の身体はあらゆる攻撃を通り抜け全くの無傷だ。
「コイツ実体がないのか!?」
ルニエルが鍵のようなものを取り出し、カネリファイヤの胸に差し込んだ次の瞬間、ガチャという音と共にカネリファイヤの身体がゴオオと激しい炎に包まれた。
「なっ何だ!?」
炎がかき消え、右半身の痣から激しい炎を放つカネリファイヤが現れた。
先程闇異たちが仕掛けた拘束は、全て炎で焼き払われた。
11時3分、闇異の力を制御するアイテム【闇異鍵】の効果で、カネリファイヤの真の力が解き放たれた。
「カネリファイヤ、激熱モード」
「覚悟しろよテメェら、もっともっとゲキアツにしてやるぜえ!!!」
「怯むなあ!パワーが上がった位で、この数に勝てるはずがない!!」
9千人近くの闇異が迫る中、カネリファイヤの背中の炎が勢いを増し、口元が発光し始めた。
『最大火力・・・チャンプファイヤー!!!』
放たれたのは炎ではなく、オレンジ色に輝く熱線だった。
熱線は直撃またはすれ違った百近くの闇異を蒸発させ、地面に接触した瞬間激しい光と爆発、そしてキノコ雲を生みドーーーンという音を伴う衝撃波で、さらに数千の闇異が吹き飛んだ。
同じ頃、聖地が激しく揺れ避難所の人々は不安と恐怖に怯えた。
「キャアアア!!」
「爆発!?地震!?」
最大火力チャンプファイヤーの余波が、結界の中にまで及んだのだ。幸い怪我人は一人もいなかった。
「一体何が起きてるんだ!?」
「炎を操る異救者がたった一人で、1万近い数の敵と戦ってるらしい!」
「そんな馬鹿な!」
「いや、そんな馬鹿なことが出来る異救者は・・・」
「カネリに間違いない・・・!」
結界の外では、最大火力チャンプファイヤーの威力を目の当たりにし、闇異たちは呆然としていた。
二千近くいた仲間が一瞬で消し飛び、およそ百平方kmが焼け野原になったからだ。
「・・・は?」
「何だよ・・・これ・・・」
「残り、6302です」
「あと半分より多い感じか!」
「も、もう一度だ!もう一度ヤツの動きを止めろぉおおお!!!」
闇異たちはあらゆる異能を駆使し、先程を上回る勢いでカネリファイヤを封じ込めた。
『超粘着弾!』
『金縛り光線!』
『バインドチェーン!』
『重力10倍!』
『結界封じ!』
「どうだ!これでもう動くことはほぼ不可能・・・」
その時、カネリファイヤの身体が発光し始めた。
『ゲキアツ・・・フラーーーッシュ!!!』
カネリファイヤの全身から激しい光が放たれ、光を浴びた闇異たちが一斉に火だるまとなり、もがき苦しんだ末に動かなくなった。
「ギャアアアアア!!」
「熱・・・い・・・」
カネリファイヤを拘束していた異能も光で焼き尽くされ、再び自由を取り戻した。
一方結界の中で、激熱モードのカネリファイヤの戦いを目撃した異救者たちは、開いた口が塞がらなかった。
「す・・・すごすぎる・・・」
「そういえば、聞いたことがある・・・」
「バズレイダが侵攻された時、国内の異救者たちが抵抗したんだが、セイブレスの闇異10万人近くに敵わず敗北した」
「その時、数万の闇異を撃破し生き残った奴がいたんだ」
「そいつは右半身が燃えていて、『バズレイダの英雄』と呼ばれていた・・・」
「それって、あの子のことか!?」
「もう、アイツ一人でいいんじゃないか?」
「お前らもボサっとするな手伝え!」
「残り、3755です」
「もう一息だな!」
11時6分、1万近い敵の軍団は既に3分の1近くまで減っていたが、激熱モードのタイミリミットも残り少なくなってきた。
To be next case




