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3/3

 涼は、申し訳なさそうな顔をしつつ、俺の顔を見つめてくる。


「…………私にも、恥という概念はある。私自身がとんでもなく、駄目な女ってのも分かってる。だけど、あえて言わせてもらうよ。昔は本当に悪い事をした。……私達、やり直せ」


「栄く〜ん! お待たせ〜!」


 涼の言葉に被って、俺を呼ぶ声が聞こえた。そちらを見たせいで、彼女の最後の方の言葉は聞こえなかった。


 手を振りながらこちらに、一人の女性が歩いてくる。


「おう、千代、戻ったか。どうだ、腹の具合は?」


「正露◯飲んだから、少しはマシになったかな」


「久々の帰郷だからって、食べ過ぎなんだよ」


「だって、おばさんもおじさんも大歓迎してくれたし、それに応えなきゃ失礼じゃん」


 彼女と俺は、そんな風に談笑した。


 驚いた様な顔をしている涼に気付いたのか、彼女は訝しげな顔をする。


「……栄君、この人は? 浮気?」


「……昔の友達だ。幼馴染の三条河原涼。千代を待ってる間、さっき、ばったり会ったんだよ。それで、ちょっと人生相談をな」


 彼女は、俺からそう聞くと、納得した様に幾度か頷いた。


「栄君のお友達でしたか。私は、鈴ヶ森千代(すずがもり ちよ)。栄君のはとこで、今は彼の恋人やってます! よろしく!」


 元気良く挨拶する千代。黒髪をボブカットにした、活発そうな印象の女性である。涼は少し、気まずそうにしていた。


 そう、彼女こそ、俺が待っていた連れである。彼女が花を摘みに行っている間、俺はホームのベンチでのんびりしていたというわけだ。


 千代は一応、俺達と同い年だが、学校は違っていたから涼と面識は無いはずだ。


 婆様同士が姉妹という、はとこの関係。タ◯ちゃんと、い◯らちゃんの関係といえば分かりやすいか。


「…………栄、恋人出来たのね」


「ああ」


「子供の頃から、よく遊んでくれたおかげで、栄君の事は好きだったんです。学校が違ったせいで、中々会えなくて……。そうする間に栄君に彼女が出来たって聞いて、私から早く告白すれば良かった、って後悔してたんですけど、去年の今くらいかな? 栄君が彼女さんに振られたって愚痴ってきて、こりゃ好機だ! って私から告白したんです! そしたら、オッケーを出してくれて。大学は一緒の所だったから、今は東京で一緒にアパートを借りて同棲してて……」


 その振られた元彼女の前で、そうとは知らずに惚気始める千代。ヤバい、気まずいなんてもんじゃない。


 涼を見ると、やはり気まずいのか、あるいは、わずかに残った俺への未練を断ち切る為か、ゆっくりと首を横に振っていた。


「……千代、流石に幼馴染の前で惚気られるのは恥ずかしいよ」


「あっ! ごめん。空気読めてなかったね」


「元気そうな彼女さんね……。栄は明るい子が好きだから、お似合いかもね」


 涼は、精一杯の笑顔を作っている。彼女も当然、思う所はあるだろうに……。本当に根は真面目なんだよなぁ。


「じゃあ、おじゃま虫の私は退散しますか。……ありがとうね。話、聞いてくれて」


「ああ」


「じゃあね。……もう、滅多に会うことも無いでしょうけど」


 そう言うと、涼は俺達に背を向けた。


「最後に。月並みな言い方にはなるが、一時の感情で失敗したり、やらかしたりなんて誰でもあるからな? 後は、反省して軌道修正出来るかだと思うぜ。俺が見るに、お前はまだ、十分に再起出来ると思うぞ」


「嬉しい事言ってくれるじゃない」


 俺の言葉を聞いた涼は、振り返ると、千代の方を見た。


「千代ちゃん……だったかしら? こう見えて、栄は結構良い男よ。…………栄の前の彼女、中々酷い女でね。……彼、結構傷ついてると思うから、沢山、愛情を注いであげてね?」


「はい!」


「良い返事だ。よろしい! 幼馴染として、彼を任せたわよ!」


 涼は、そう言うと今度こそ俺達に背を向けて、改札に向けて歩いて行った。出口の方面的に、実家に向かうつもりかもしれない。


「元気そうな方だったね」 


「ん、まぁ、そうだな……駄目な所も多いが、根は善人だ。上手く軌道修正してくれると良いが」


「何、随分気にしてるじゃん? もしかして、本当に浮気~?」


「まさか! 捨てられる経験をするのは、俺だけで十分だ。千代には、そんな屈辱、味わわせない」


「ふふ。信用してるよ?」


 そんな事を言い合っていると、ホームに電車が滑り込んで来た。今度は、線路へ飛び込む者は無い。


「帰ろうか。久しぶりの故郷、良かったね~」


「……ああ」


 涼が心配ではないと言えば嘘になるが、今、彼女と俺は恋人ではなく、ただの幼馴染同士。今後の人生がどうなるかは、全て彼女次第である。


 俺は後ろを振り返らずに、千代と共に電車に乗り込んだ。


読了、お疲れさまでした。これにて、本作は完結です。


よろしければ、ページ下から評価していただけると嬉しいです。作者が喜びます。


追記:2024年2月18日、現代恋愛ジャンル日間ランキング1位獲得!ありがとうございます! 

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― 新着の感想 ―
[一言] あっあっあっ 男の視点だとこの話だけだと幼馴染の元の性格が良さそうでとことん悪し様に思えず救われて欲しいと思うけど、最後にトドメを指したのが自身な気がしてめっちゃ罪悪感感じる そして幼馴染…
[一言] AIイラストに関しては門外漢なのでなんともいえないです ただ、作中のイラストははにかんでる様にしか見えず、とても泣き顔とは思えなかったので、それが限界なのかは判りませんがまだまだなのかな?と…
[一言] AIは(現時点では) こういうのがいいんだよ〜もう少しこのへんなんとかならなかったのか〜3人と言ってるだろなんで5人いるんだよゴレンジャーかよ まで揺れ幅が激しいからなあ。 実際のところ彼女…
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