【第7話】 『遅刻』
━━紅風高校専用バス車内
『おはようございます!!!』
「はい、おはよう。」
雲ひとつない晴天の中、一色部長はバスへ乗り込み、部員へ挨拶をした。
「今日は、市村工科高校さんとの試合になります。1年生はバスの移動も試合も初めてだと思うが、くれぐれもバスでは静かにするように。おい村田、もう全員揃ったかな?」
Bチーム主将である3年生の村田翔也に一色部長は声をかけた。
「そ、それが先程点呼を取ったのですが、まだ1人来てなくて…。」
村田は、被っていた帽子を素早く右手にとり、少し焦った表情で一色部長にそう言った。
「何?まだ来てないのか。集合時間は過ぎているはずだぞ。誰だまだ来てないのは。」
一色部長は、眉間にシワを寄せながらしかめっ面でそう呟いた。
「1年生の長沼というやつです。」
「はあ。おい、同部屋のやつは誰だ。」
紅風高校硬式野球部は、全寮制の方式を取っており、基本各学年1人ずつの3人部屋である。
「そ、それがアイツ寄りによって先輩の2人がAチームのメンバーでして…。」
村田は、申し訳なさそうに答えた。
「チッ。まったく。まあいい遅刻するようなやつに試合に出る資格などない。運転手さん。出発の準備をお願いします。」
一色部長は、さらに眉間にシワを寄せ、運転手にそう言った。
◇◇◇
時は遡り、15分前……
「しち、7時半ーーー!?」
晴玖は、寮の二段ベッドの上の段で充電ケーブルの刺さったスマホを見ながらそう叫んだ。
「出発時間は7時45分…。でも確か30分前集合という暗黙のルールがあったような……。ヤバい、ヤバすぎる、、、今着替えて出てもここから高校まで走って10分はかかるぞ。マズイ、マズすぎる!!!!」
そう言って晴玖は、急いで部屋着からユニフォームへと着替え道具の入ったリュックサックを背負い、部屋を後にした。
「今ならまだ出発時間に間に合うはずだ。」
走りながら晴玖はそう呟き、スマホを見た。
時刻は7時34分だった。
「ヤバい鍵を閉め忘れた!!!」
晴玖は走り出して2分ほど経った頃部屋の鍵を閉め忘れたことに気づき、すぐ切りかえした。
ガチャ
「急げえええ!」
晴玖は今までにないほどのスピードでバスが駐車している高校の正門の方まで向かった。
◇◇◇
時は戻り、紅風高校硬式野球部専用バス車内……
「わ、わかりました。では、出発致します。」
運転手は少し不安な顔をしてそう言った。
『お願いしま……』
「す、すみませえええん!!!!!!!」
バスにいる全員で運転手に挨拶しようとしたその時、晴玖はものすごい汗の量とものすごい声量でバスの入り口から入ってきた。
「ハァハァ、本当に申し訳ございませんでした!!」
晴玖は、一色部長と部員全員に向けて深々と頭を下げそう叫んだ。
「遅い、遅すぎる!何があったんだ。」
一色部長は晴玖にそう叱った。
「寝坊です!」
「だったらグループLINEに連絡をしんかい!」
「す、すみませんでした!!」
色々ありすぎた試合前の出来事であった。
晴玖は果たして試合に出して貰えるのか…?