【第6話】 『3年間』
「えー、春大の抽選結果が出たので共有しようと思う。」
飛山監督が3塁ベンチ前に選手を集めそう言った。
そう言った途端、選手達は緊張した顔で少しざわつき始めた。
「俺たちは、予選の結果からシードでの出場で、2回戦からとなるが、その相手は恐らくもう決まっているだろう。2回戦は、、『中林大春日山高校』だ。」
そう飛山監督が言うと、選手達は騒がしくなった。
「春日山かよ、、」
「これはなんとも言えんな。」
それもそのはずだ。
愛知県は全国屈指の激戦区と呼ばれており、私学四強と呼ばれている高校はもちろん、セカンド私学、サード私学、強豪公立と大まかに分かれている。
そして、中林大春日山は、セカンド私学に分類され、セカンド私学の中でも、今一番勢いのある高校として県内で非常に恐れられている高校である。
また、紅風高校は、私学四強でありながら、今一番甲子園から遠ざかっている現状があり、春日山の勢いに飲まれるのではないかと心配されているのだ。
「もちろん、やばいとなる気持ちも分かるが、俺は非常にワクワクしている。ここに勝たないとシードは貰えない。試合は来週末になるが、そこまで勝てる練習を行え。いいか。」
『はい!!!』
この時、長沼は無表情で飛山監督の話を聞いていた。
内心、早くメンバーに入りたいという気持ちが強かった。だが、その大会の前である今週末にBチームの練習が組み込まれている。長沼は、そこのメンバーに入ることを願うことしか出来なかった。
「では、今から一色部長に今週末のBチームの試合である、市村工科高校に出向くメンバーを発表してもらいます。」
飛山監督がそう言うと、一色部長はメンバーが書かれたホワイトボードを右手に、座っている選手の前に立った。
「えー、まずはピッチャーから。山森。」
「はい!」
「松本。」
「はい!」
「児島。」
「はい!」
「中村。」
「はい!」
「長沼。」
「は、はい!」
「ピッチャーは以上だ。続いて野手の方を…。」
長沼は、野手のメンバーが聞けなくなるほどBチームのメンバーに選ばれた喜んだ。だが、それと同時に同じピッチャーである選手からは、「なんで長沼やねん」と言われてしまっていた。
それもそうだろう。球速測定では、最下位であったし、特待生だということもまだ誰にも知られていないのだ。
━━監督室にて
「今週末のBチームの試合は、このメンバーで行こうと思います。」
そう言って一色部長は、ソファーに座っている飛山監督にホワイトボードを見せた。
「おー、悪くないですね。」
そう言った飛山監督だったが、実はこの時のホワイトボードに長沼の名前はなかった。
「では、これで行こうと思います。」
「あ、あー、ちょっと待ってください。」
「どうかしましたか?」
必死で飛山監督は止めに入った。
「長沼を入れてください。」
「な、長沼ですか?」
飛山監督はかなり真剣な表情でそう言うと、一色部長は戸惑いながら飛山監督に聞いた。
「はい。やっぱりアイツの事がどうしても気になっていまして。」
「まあ入れときますか。これで無理だったらもう諦めましょう。」
実はこのようなやりとりが行われていた。
長沼の3年間がかかった試合になるが果たして…!




