【第4話】 『特待生』
一方、野手組は…
「それでは、スイングスピードを測っていくぞ。」
こちらは、飛山監督が見るそうだ。
紅風高校グラウンドには、スイングスピードを測定する機械もあり、かなり設備が整っている。
紅風高校第二グラウンドにて、測っていく。
[ブンッ]
[ブンッ]
[ブンッ]
さすが強豪校。
全員が別格級のスイングをする。
私学四強。ここ最近では、愛知県から甲子園へと行く高校が限られてくるようになってきた。ただ、その中でも紅風高校は14年甲子園から遠ざかっているのだ。
『江栄高校』、『星華学園』、『希学館高校』、『紅風高校』の順番で強いと世間からは言われている状況。
そんな中で今年の紅風高校は豊作と言われている。
中でも一際目立っていたバッターが三人いた。
『大引 志樹』
県内のボーイズで中学時代は、ほとんど一回戦負けではあったが、中学通算23本のホームラン。左打ちから繰り出される打球は異次元の速さを誇る。
もちろん愛知県選抜に選ばれた逸材。
『鈴木 カイル 秀章』
ボーイズ全国大会準優勝の東京代表の『街田ボーイズ』の四番を務めていた男。東京の高校から何件も誘いが来たが、本人が県外志望ということもあり、紅風高校にやってきた超スーパールーキー。
中学通算20発のパワーはもちろん、足もとてつもなく速い。笹木からホームランも打っている。
『孫 正孝』
超有名な企業の社長を祖父に持つ超お金持ち。
野球の実力もかなり高く、中学時代に、愛知スラッガー四天王の内の一人でもある。
長打しかない男なので、三振もかなり多いが、当たった時の飛距離は日本一と言っても過言では無い。
この三人がしっかりスイングスピードTOP3で他の選手達を絶望へと叩き落とした。
こうして、色々あった新入生体力測定は終了した。
━━━━━━━━━━━━━━━スタッフ室では…
ここはスタッフが主に使っている部屋。
今スタッフは、飛山監督、一色部長、井戸田コーチ、安浦副部長の四人体制である。
春夏通算19回の甲子園出場を誇る紅風高校は、全国準優勝も一度経験している。地方大会優勝もかなり多かったので、その時の盾や旗などが沢山飾られている。
とは言っても、ここ最近は全く貰えていないのだが…。
実は一色部長が監督だった時代は甲子園には行けなかったそう。そこで立ち上がったのが、高校時代『星華学園』で五番センターで出場していた飛山僚介である。
沢山選手を取っていくスタイルがハマっていくのかが今、世間から注目されている。
「一色部長の方はどうでしたか?」
飛山監督がスタッフ室のソファーに座りながら一色部長に聞いた。
「いやー、今年は豊作ですね。
笹木は去年の夏から球速がすごく伸びていて、150km/hでましたよ。左の山森もかなり速くて綺麗なストレートでしたね。飛山監督は見る目がありますよ。」
一色部長は感心していた。
もちろん一色部長から長沼晴玖の名前が出てくることは無かった。
「長沼はどうでしたか?」
そんな時に飛山監督の口から晴玖の名前が出てきた。
よく考えればそりゃそうなのだ。
一応特待生だからである。
紅風高校は特待生は五人までしか取らない。
今年は『笹木 光太郎』、『長沼 晴玖』、『山森 斗真』、『孫 正孝』、『鈴木 カイル 秀章』の五人なのだ。
明らかに晴玖だけ浮いてることは気にしないで頂きたい。
「長沼は、一番球が遅かったですよ。
コントロールは悪くないんですけどね。変化球見てないからなんとも言えないんですけど。まあストレート見ただけだと厳しそうです。こんなことあなたに言うのもなんですけど、何故彼を特待生で取ったのですか?」
一色部長は厳しい。
笹木と山森の事を話してた時とは大きく顔を変えていた。
「去年の夏は本当は笹木がどうしても欲しくてずっと明香ボーイズを見てたんですよ。結果的に笹木も入ってくれたから良かったですけど、何回も見てる内に、二番手ピッチャーも将来性あっていいなと思ったんです。
線はまだまだ細いですけど投げっぷりがいいじゃないですか。」
「まあそれは確かにそうですね。
一番フォームは綺麗で、かっこよかったです。」
「笹木も入ることになってしまって、長沼には申し訳無いことしたなと思ってるんです。恐らく笹木から離れられると思ってウチを選んでくれたとも思うんで。」
「そんな背景があったんですね。」
「まあでも、球速が下がってるって事は冬のトレーニングもしてないってことにもなるんで、起用法はしっかり考えていきたいと思います。」
「そうしましょう。」




