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少女の脅しと入隊試験

「で、ナンパしてきたと?」


 王の勅令が下った旨を報告するため、俺はパーティ―メンバーを自宅へ招き入れた。

 無論、フィリも一緒だ。

 はっきり言って、どこの馬の骨とも知れん女を迎え入れるのは気が進まなかった。

 下手をすりゃスパイの可能性もある。

 だが、この女は言いやがった。


『パーティーに加えてくれないのなら、勇者に襲われたと大声で叫ぶ』と。


 あまりにも古典的で雑な脅しを受け、反応に困っているところフィリは更に畳みかけてきた。


『誇り高い英雄の子孫が強姦未遂だなんて、御国のお袋さんが聞いたらなんて思うかな』と、渋い声で。


 ただでさえ、普段から憐みの視線で押しつぶされそうなところ、これほどの面倒ごとを持って来られては精神的に持ちそうにない。

 というより、もうそうなったら普通に国外追放だろう。

 だから、俺は彼女の要求を受け入れるしかなかった。

 果たして、この急展開に二人は納得してくれるだろうか。

 案の定、ルイスは冷え切った視線で俺を見つめ、尋問してくる。


「前回は後衛が手薄だったからな。結果的に回復が遅れたり、魔力切れになったりする場面も多かった。今回はその反省の意味も込めてだ」

「で、可愛い可愛い年下の魔導士をナンパしてきたと?」


 ダメだ。この子は少し感情的になっている。話が通じん。

 必死にフィリを迎え入れる理由をひねり出したが、一向に納得してくれる気配がない。


「えっと……、フィリちゃんは魔導士になってどれくらいなのかな?」


 クルーグが場を取り持つのようにフィリに問いかける。


「半年くらいですね!」

「なっ! アンタ舐めてんの!? コッチはこーーーんなちっちゃい頃から役割決めて、チームワークづくりしてんのっ!! たかだか魔導士歴半年のヤツが昨日今日入って上手くやれるほど甘くないのっ!! 分かる!?」


 ルイスの言い分は最もだ。

 この二人とは幼馴染ではあるが、その関係には邪神を倒すためという大前提がある。

 というのも、俺が始祖の英雄と同等の力を保持していると発覚した瞬間から、パーティーメンバーの選出が始まったが、何も俺の独断で決まったわけではない。

 王宮の諮問機関が総出で俺の能力・人格を分析した上で、国や地域を越えて候補となる人材を収集し、何度も実戦テストを行い、最も相乗効果の高い組み合わせとして選出されたのがこの二人、というわけだ。

 俺たち3人は幼少の頃から、実戦的な戦闘訓練を通してチームワークを育んできた。

 だから本来であれば、俺の一存でコイツをパーティーに加えるのは理にかなっていない。

 だが、先ほどもルイスに主張した通り、パーティーの補助要員が心許ないのも事実ではある。

 それにだ……、こっちはつまらん仕事を押し付けられたんだ。

 腹いせと言えば言葉は悪いが、これくらいは自由裁量の範疇でやらせてもらう。

 第一、チームワークに関わらず、1年半前のようなイレギュラーは起こる時には起こる。


「じゃあ実力を証明できれば、納得していただけますか?」

「……だって、アンタまだ魔導士歴半年なんでしょ?」

「キャリアなんて指標の一つに過ぎません。それともマルク様のパーティーは未だに()()()()を採用されているんですか?」

「なっ!? だからそういう問題じゃないって言ってるでしょ! 第一、アンタと一つしか変わらないっつーの!」

「じゃあせめて私の魔力量だけでも見ていただけませんか? さっきマルク様も言ってましたけど、補助要員が手薄なんですよね?」


 〝年功序列〟という売り言葉に引っ掛かりルイスはすかさず反論するが、フィリのあまりにも毅然とした物言いにルイスはたじろいだ様子を見せた。


 これは、アレか?

 実はこの女、実はやり手って流れか?


「……そこまで言うなら、試してやろうじゃない! 言っとくけど、足引っ張るようなレベルだったら即刻不採用だからねっ!」

「ありがとうございます! では早速森へ行きましょう!」



◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   



「これは……」


 フィリの魔力を目の当たりにし、俺たちは言葉を失った。

 何だ? この狙ったような及第点は。

 最悪、この辺りの森が焼け野原になることも覚悟したが。

 フィリが放った爆炎によって、丸焦げになった成木を見てしみじみと思う。

 確かにこのレベルなら中級モンスター、例えばオークくらいなら彼女一人で消し炭に出来るだろう。

 その他にも、補助魔法も得意のようでバフ要員としても活躍してくれそうだ。

 魔導士歴半年でこれだけの魔力量を養えるのは、逸材であることに間違いはない。

 が、積極的に採用したいかと聞かれれば、非常に反応に困るレベルだ。

 ルイスが言ったように、万が一彼女との連携が噛み合わず、1年半前のようなトラブルに見舞われた場合、王や大臣からの折檻は免れない。

 とは言え、戦力としては申し分なく、断ったら断ったで何だか後々後悔しそうだが。

 俺たち3人は互いに目配せし、誰かが第一声を発するのを待った。


「……まぁ中々やるじゃない」


 ルイスの言葉には何の含みもない。

 100%事実だけを述べた等身大の言葉だ。


「いかがでしょう? 私をパーティーに加えてもらえますか?」

「マルク……。アンタのパーティーなんだから、アンタが決めなさいよ。初めに断っておくけど、これで王に怒られてもアタシは責任とらないから」

「僕もマルク君に任せる、かな……」


 自分で蒔いた種とは言え、この流れの中で判断を一任されるのはやはり少し堪える。

 これがチームリーダーとしての宿命か。


「まぁアレだな……。さっきも言ったが、俺たちの課題は後衛だ。俺とクルーグが攻撃に回ると、必然的に補助に専念できるのはルイスしかいない。その点については王も憂慮していたが、下手にメンバーを追加すれば、パーティーの士気が乱れる可能性もある。王もそれを懸念していた。だが、そこに目を背けた結果、一年半前の失態に繋がったのは事実だ」

「……で、結局どうすんのよ?」


 俺の遠回しな言い方がお気に召さないのか、ルイスが不服そうに応える。


「とりあえず、仮入隊ってことでどうだ? 今回の死霊退治で結果を出せば、正式にパーティーに加えるよう王に推薦してやる。幸い、今回の勅令は暫定勇者どもの取りこぼしの回収だ。難易度としては高くないはずだ」

「あっそ……、じゃあフィリ? だっけ? ようこそ、我が勇者パーティーへ」

「ルイスさんには欠片も歓迎されてないことが分かりましたが、宜しくお願いします!」


 淡々と言い放つルイスに対して、フィリも負けじと煽り返す。


「えっと……、フィリちゃんよろしくね」

「はい! クルーグさん! あの……、何だか勇者様が二人いるみたいです!」


 おいっ! それは落ちぶれた俺への当てつけか。

 確かにクルーグは優男風のイケメンで、見た目勇者っぽいが。

 お前、俺のファンじゃなかったのか!?

 来世まで手洗わないって言ったよな!?


「ハハッ……、勇者はマルク君だけだよ」

「冗談ですよ、冗談! さ、正式に決まったところで、どうです? 私の歓迎パーティーでも」

「自分で企画すんのかよ……」

「……つーかさ、そもそもアンタは何でパーティーに加わりたいの!?」

「へ? 言ったじゃないですか? 勇者様の大ファンだって。それにマルク様も補助が手薄と言ってましたし。そうですよね、マルク様」

「えっ……、あっ、まぁそうだな」


 半分脅されたようなもんだが。


「嘘ね。ちょっと前までは結構いたのよ、アンタみたいにパーティーに入りたいって奴。でもある時からパッタリ来なくなった」


 そうだ。ルイスの言う通り、1年半まではそういう輩が腐るほどいた。


「そいつらの目的なんて知れてるのよ。口では、『世界の平和を守りたい』だの『閃耀の勇者のお手伝いをしたい』なんてご立派なこと言っておいて、ほとんどはその先にある金とか名声とかが目的なのよっ! その証拠に今のマルクを見なさいっ! 暫定勇者パーティー(笑)に出し抜かれてから、コイツの周りには誰一人寄り付かなくなったわ!」

「うるせぇ、ほっとけ!」

「だから、お願い。パーティーには迎える。でも、答えて。あなたは何が目的なの? さっきも言ったけど、アタシたちはチームワークが命。パーティーの中で何か少しでも突っかかりができるだけで命取りなの。それは分かって」


 それは俺が身を持って体験していることだ。

 クルーグやルイスに対しても、多大な迷惑をかけたことは自覚している。

 だから俺はルイスの忠告を否定することなどできない。

 ルイスの真剣な物言いにフィリも折れたようで、フゥと溜息を交えつつ応じる。


「申し訳ありません。今は答えられません。ですが、これだけは信じて下さい。その時が来たら、必ずお話しします」


 これがフィリなりの真摯な応えなのだろう。

 ルイスはしばらく値踏みするようにフィリを見つめる。

 だが、何かを諦めるように深い嘆息をついた。


「……分かった。一応は納得する。でも、お願いだから勝手なことだけはしないで」

「えぇ。もちろん」


 思えば、ルイスがこうして折れるのも珍しい。

 いつも俺には一方的な物言いで突っかかってくるというのに。

 だから余程ルイスなりに感ずるところがあったのだろう。


「……じゃあ、フィリ。改めてこれからよろしく」

「はい! マルク様!」

「あー、その()ってやめてくれないか。一応、ここからは仲間になるわけだから、対等な関係だ」

「えっと……、そうですか。では、なんとお呼びすれば良いでしょう?」

「知らん」

「そうですねぇ……、では、マルちゃんなんてどうでしょう?」

「やめろっ!」

「ぷっ、いいんじゃない? 今のアンタにお似合いよ。正直〝閃耀の勇者〟なんて今は荷が重いでしょ?」

「ぐっ。確かに……」


 ルイスの言う通りだ。

 ハードルを下げると思えば、フィリの提案も悪くないのかもしれない。


「じゃあマルちゃん、で決まりですね! 改めてよろしくお願いします!」

「そうね。これからもよろしく、マルちゃん!」


 ケラケラと笑いながら、ルイスはフィリに便乗する。

 そう言えば、コイツがこんな楽しそうな表情を見せるのは久しぶりだ。


「うるせぇ! 世界中でお前にだけは言われたくねぇ」

「まぁまぁ。じゃあせっかくだしフィリちゃんの歓迎パーティーでもしようか」

「ですね! そうと決まれば、買い出しに行きますよ!」

「お前が一番張り切ってんじゃねぇよ……」

「ちょっ!? 正式加入は死霊退治が終わってからって言ったでしょ!?」


 斯くして、このしみったれたパーティーに騒がしい新人が追加されたわけだが。

 今後を思うと一抹の不安を感じざるを得ない。

 ただ、まぁ……。

 フィリの加入が良いか悪いかは置いておいて、今日に関しては久しぶりにパーティーにギスギスした空気がなかった。

 そこはフィリに感謝だな。

 ルイスは知らんが、近頃クルーグは明らかに俺に気を遣っている。

 今日をきっかけに良い方向に転じれば、などと呑気に構えながら市場へ向かうクルーグたちの後を追った。

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