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秦の誓い  作者: rona
序章 戦国時代の幕開け
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晉陽の攻防戦

 一方で、趙襄子ちょうじょうし藍台らんだいの宴に出席していませんでした。


 その趙襄子のもとにも智襄子から使者がやってきました。


さい皋狼こうろうの土地を趙襄子様からいただきたい」


 智襄子からの使者は口上を述べました。


 蔡についてはりんの間違いではないかといわれていますが、ともかく、ちょうの領地をいただきたい、そういう使者がやってきたわけです


 しかし藍台の宴に出席していなかった趙襄子は、その求めを断りました。


 段規だんき任章じんしょうの予想は的中しました。智襄子は激怒しました。


 智襄子は、ちょう氏一族の領地に兵を差し向けました。かん氏、氏も援軍を出しました。


 趙襄子はどこを拠点とし、智氏、韓氏、魏氏などの軍を迎え撃とうか迷いました。


「敵が攻めてくる。どこへ行けばいいだろう」


 あるものが言いました。


長子ちょうしがよろしゅうございます。何よりもまずここから近こうございます。それに城壁が素晴らしい、分厚くて隙間がございません」


 趙襄子は考え込んでいるようでした。そして趙襄子は長子を選びませんでした。


「城壁が分厚い、ということは、それだけ住民を酷使してそれを作ったということだ。隙間ないまでに城壁を整えたならば、長い労役に疲れて倒れたり、死に至ったものもおろう、うらみが満ちておるはずだ」


 そこで別のものが言いました。


邯鄲かんたんはいかがでございましょう。倉庫は満ち満ちており、兵糧が足りております」


 邯鄲とはのちに戦国七国のちょうの首都ともなったことのある大きな都市でした。


 しかし趙襄子は首を縦に振りませんでした。


「民の血と、汗と、あぶらを搾り取って兵糧としたのだろう。また苛酷な取り立てに、貧しい民が死んだことがあるだろう。どうして私のために最後まで戦ってくれるだろうか」


 そして趙襄子は言いました。


「晉陽には尹鐸いんたくがいる。彼は趙氏の名臣で、晉陽に善政を敷いていた。そして父上も『いざというときは、晉陽を遠いと思うな』とおっしゃっていた。私は晉陽へいこう」


 そして晉陽の城は趙襄子を迎えることになったのです。


 晉陽は守りを固め、趙襄子を迎え入れました。


 智襄子と魏桓子、韓康子の三氏の軍は取り決めを交わし、堤を作って晉水しんすいの水を晉陽に流し込むようにしました。水は城壁の最上限まで六尺(三版)を残すだけとなり、家々も水没して生活に支障が出るようになってきました。


 晉陽の命運もあとわずかばかりに見えましたが、城攻めは時間を費やし、城の士気は盛んでした。


 智襄子は、魏桓子と韓康子を、ある日物見に誘いました。


  三人は馬車(戦車)に乗りました。魏桓子が御者ぎょしゃになり、智襄子が一番上位に載って韓康子は陪乗ばいじょう(護衛)の位置につきました。


 智襄子が二人に答えました。


「そうですなぁ、私はそう、今になって初めて、水が人と国とを亡ぼすことができることを知りましたよ」


 魏桓子は密かにひじで韓康子をつつきましたが、韓康子は魏桓子の足を踏んで、発言も、身動きすることも許しませんでした。


「魏桓子の拠点・安邑あんゆう汾水ふんすいで水没させることができますし、韓康子の拠点・平陽へいよう絳水こうすいで亡ぼすことができます」


 そんなことを言うことがどれだけ危険かということを、知っていたからです。


 絺疵ちしというものがおりました。絺疵が智襄子に言いました。


「韓と魏は謀反を考えられているのではないでしょうか」


「どうしてそのようなことがわかるのだ」


「人の心情というものは微妙なものでございますから。


 韓と魏の兵を従えて趙を今攻めております。もし趙が滅びたら次はどこかと申しますと、必ず韓と魏に難が及ぶのではないか、そう人は考えるものでございます。


 今、趙に勝とうと盟約を結び、その土地を三人で山分けすることになっております。莫大な利益が転がり込んでくるはずでございます。城はあと六尺の水をそそげば落ちるような状況であり、趙氏では戦うために必要な馬でさえ食料にせざるを得ないとのうわさが聞こえ、晉陽の陥落は時間の問題、風前の灯火ともしびのようでございます。


 そうであるのにお二方にうれしそうな様子はなく、かえって憂いの色が伺えます。これは気持ちが揺らいで、謀反を考えておられるのではございませんでしょうか」


 絺疵は真心を込めて智襄子に語りました。


 しかし智襄子は納得がいきませんでした。智襄子は二人に絺疵の話をしました。


 もちろん、二人は否定しました。


「これはあの嘘つきめが趙氏のために話したのでございます、あなた様を疑わせて趙氏を攻める手を緩めよう、そう図ったのでございます。


 そんなことあるわけがございません。われわれ二人がどうして趙氏の土地を分ける利益に預からないで、なすべきではない危険な謀反を図りましょうや」


 智襄子は納得し、二人は各々の陣地に帰りました。


 絺疵が青い顔をして帰ってきたのはそのあとです。


「どうしてお二人に、先ほどのお話をなさったのですか」


 今度は智襄子が驚く番でした。まだ何も話していないのに。


「お二方が帰られるのにお会いいたしました。まるで私を見るのに流行病はやりやまいを見るように憎んでございますようでした」


 人々は間もなく、絺疵がせいの国への使者に派遣されたことを聞きました。本人の意思でした。智氏の命運を見限り、これから起こることを避けるために斉へと旅立ったのでした。


 そして絺疵は難をさけ、智氏は迎えるべき時を迎えたのです。

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