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秦の誓い  作者: rona
第2章 恵文王の時代
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蘇秦の登場

 初め(かつて)、ということはこれ以前にさかのぼる、ということです。


 洛陽の人、蘇秦そしん秦王しんおうに天下を兼併けんぺい(併呑する)する術を説きましたが、秦王はその言葉を用いませんでした。


 蘇秦は秦で用いられず、そこで秦を去りました。


 蘇秦は燕に行きました。


 そしてえん文公ぶんこうに説いて申しました。


「燕のおかされない、あだされない、甲兵(武装した兵士)をこうむらない理由は、ちょうがあるからです。趙がその南をふさいでいるのです。


 また秦が燕を攻めると、千里の遠くに戦うことになります。一方で趙が燕を攻めると、二つの国は百里の近くに戦うことになります。」


 燕は南を趙と国境を密に接している国です。


 一方で、秦と燕の通路の側には趙があり、必ず趙の領土である上郡じょうぐんの西の狭い通路となる地帯(草原地帯?)を通過し、そこを通って雲中うんちゅう九原きゅうげんという地域に出て、燕に至ることができます。


 趙の支配地域の側を通ってから秦は燕へ到達します。


 燕は近くの趙を恐れないで、遠くの秦を恐れている、蘇秦はそう主張したわけです。


「それ百里の近くのわざわいを憂えないで、千里の遠くの対応を重んじる。計略としてこれよりあやまてる計略はないでしょう。


 どうか大王よ、趙と縦親しょうしんし、天下を一つにしましょう。そうすれば燕国は必ず患いがないでしょう。」


「縦親」というのは「連縦策」のことです。秦以外の国々が中原を南北に縦に親しみ同盟する策を連縦策と呼びます。


 燕の文公はこの言葉に従いました。蘇秦に車馬しゃばもとでとをあたえたのです。


 蘇秦は趙へ行きました。そして趙の肅侯しゅくこうに説いて申しました。


「今の時に当たり、山東(函谷関以東)で国を建てたもので趙より強いものはありません。だから秦のそこなおうとするところもまた趙に勝るものはないのです。


 そうではあるものの秦があえて兵をげて趙を伐たないのは、かんがその背後をはかるのをおそれるからです。


 秦が韓、魏を攻めようとすると、大きな山や大きな川の制限が有ることがありません。そのため徐々に韓・魏は蠶食さんしょくされて、それぞれ国都につきあたって止まったのです。このままですと韓、魏は秦を支えることができず,必ず臣として秦に入朝するでしょう。


 秦の背後を、韓、魏が牽制することが無くなればわざわいは趙にたります。


 臣が天下の地の地理を図り案じますに、諸侯の地(を全て合算すれば)は秦に五倍しており、諸侯の兵卒を料度はかれば秦に十倍しております。


 六国を一つにし、力を併せて西にかって秦を攻めれば、秦は必ず破れるでしょう。


 それであるのに、考えますに、衡人こうじんはみな諸侯の地をいてそして秦に与えようとしています。」


 衡人とは連衡策を説くものです。「連衡」は「連横」、「衡」とは「よこ」のことだと考えられます。


 つまり地理的に南北に縦に同盟を結ぶ「連縦」に対抗して、東西に秦と各個で同盟を結ぶ考え方です。


「連衡を説くものは秦が成長すればその身は富み栄え、国は秦の患いを受けてもそのうれいにあずかりません。このために衡人は日夜をわかたず秦の権力で諸侯を恐喝きょうかつすることに努め、そして諸侯の地を秦に割くことを求めるのです。


 ですから願わくば大王が連衡策ではなく連縦策を熟計じゅくけいされることを!


 ひそかに大王のために計りますに、韓、魏、齊、、燕、趙を一つにして縦に縦親策をとり、そして秦にそむくにまさるものはありません。


 天下の将やしょう洹水えんすいほとりに会合させ、人質を互いに融通してちかいを結び、誓約していいましょう。


『秦が一国を攻めれば、五国はそれぞれの精鋭軍を出し、あるものは秦を弱めるのにあたり、あるものはその攻められた国を救うにあたる。盟約のようでない国があれば、残る五国は共にその国を伐とう!』と。


 諸侯が縦親してそして秦をしりぞければ、秦の甲兵(武装した兵士)は必ずあえて函谷関かんこくより出でて山東(函谷関以東)を害することはないでしょう。」


 肅侯は大いによろこび、厚く蘇秦を待遇しました。そして蘇秦を尊び、寵愛し、賜賚しらい(褒美を与える)して、そしてその策に従って諸侯と約することにしたのです。


 ここに燕にはじまって、趙を巻き込んだ、「從(縦)親」という蘇秦の策謀が動き出すことになります。


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