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秦の誓い  作者: rona
第1章 孝公の時代
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龐涓は孫臏を知っていた

 文侯、武侯の時代を通じて、魏は優れた文化を蓄積していました


 その魏において龐涓ほうけんは兵法を学び、めきめきと頭角を現していきました。呉起ごき呉子ごし)についてだいぶ前に触れましたが、当時の魏は兵法についても先進国でした。そして龐涓が共に学び、ライバルとしていたのが孫臏そんひんだったのです。


 孫臏はもともとはけんという街の間に生まれたとされています。伝説的な戦術家であった斉の人物、孫武そんぶの子孫だったともいわれます。はじめ、龐涓の同門の普通の人物として、ここに現れてきます。


 龐涓は徐々に出世し、孫臏に先んじて魏の将軍となりました。孫臏がどのような役職についていたかは描かれていませんが、龐涓は孫臏を恐れます。本能的か何らかの経験かで、その能力を知っていたのでしょう。


 龐涓は孫臏を甘い言葉でおびき寄せます。


「出世の糸口を見つけてやろう」


 そのようなことを言ったのでしょうか?ついに自らのもとに孫臏をおびき寄せます。そして罠にはめて、肉刑にくけいと呼ばれる刑のうちの一つ、足切りの刑につかせてしまいます。両足を切り落としてしまったのです。


 司馬遷しばせん宮刑きゅうけい(陰部を切り落とす刑)に処されたのも有名ですが、孫臏がげつ、もしくはひんと呼ばれる刑、足切りの刑に処された上に、げい、つまり罪人の入れ墨を入れられたことも有名かもしれません。知っているかたも必ずおられると思います。


 中国の思想では、『孝』、親を想う徳は非常に重視されます。親から授かった五体を死ぬまで守り通すことは徳とされ、孔子の弟子の曽参そうしん?などは、『論語』において、死の直前に自分が五体満足で死んでいくことを高らかに天に感謝しています。


 その意味で、親から授かった足を切り落とされるということは、親に孝行することを絶たれることであり、罪人と呼ばれることであり、身体的不自由をこうむるという、二重、三重の苦痛を、孫臏に与えたことになります。


 通常、肉刑に処されるほどの罪に問われる場合は、かなり慎重な審査が行われることが通例となっており、『礼記らいき月令げつれいなどにもその趣旨が書かれているようにも思いましたが、記憶が定かではありません。


 ともかく、龐涓の差し金で孫臏は足を切り落とされてしまいます。


 龐涓を残酷だということは確かに簡単でしょう。そうです、彼は残酷でした。孫臏を痛めつけるのに躊躇しなかった。徹底的に叩き潰したのです。何故か?


 彼に、才能があったからです。そしてそれは、明らかに証明されます。それをこれから語っていきたいと思います。


 ともかく、龐涓が非凡であったのは、孫臏の才能を誰もまだ気づかないうちに気づき、魏の恵王が衛鞅にとったような生ぬるい態度は示さず、危険の芽をはっきりと予知し、事前に摘み取ってしまおうとした、そのことでもわかると思います。


 しかし、甘かったのです。


 同門の情けからか、孫臏を龐涓は殺せなかったのです。彼は残酷に見えて、孫臏を殺せなかったのです。足切りの刑にした後、自分の手元に置いて飼い殺しにします。


 そのことが、いずれ甘かったとわかることになります。


 龐涓は終身、孫臏を閉じ込めて、廃人としようとしました。


 しかし彼を見つける人物があったのです。


 どのような人物だったのか、どのようにして彼を見出したのかはわかりません。歴史には、時に無名の、しかし決定的な仕事をする人物がいるものです。


 ある時、魏の国を訪れた斉の国の使者が孫臏と会見します。


 どのような手段を使って孫臏が使者と遭いまみえたのかは先に述べたように記録に残っていませんが、のちの孫臏の活躍からすれば、彼が何らかの策略を用いて龐涓をあざむき、出し抜き、使者と密会したことは想像できます。


 孫臏は大国・斉の使者によって救出され、魏の国から斉の国へと脱出することに成功します。


 そして斉の国の大臣であった田忌でんきがその才能を見抜いて重用したことから、活躍が始まります。そして田忌は主君であった斉の威王にも彼を使うことを勧めたのです。

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