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秦の誓い  作者: rona
第1章 孝公の時代
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中原の雄・魏の国

 さて商鞅しょうおう衛鞅えいおう)の変法によって強くなりつつあった秦の、中原への進出の道に立ちはだかる国がありました。


 それは、魏の国です。


 秦の東に位置し、当時、黄河の屈曲以西、函谷関以西に土地を領有していた国が魏の国でした


 魏の国はかつてのしんの国から分かれ、三晉(趙、魏、韓)と呼ばれ中原で優れた文化を誇りました。


 晉の国が三つの国に分かれたのち、魏が一時期、中原の主導権を取ったように、『通鑑』は描いています。


 魏の繁栄の時代を最初に迎えたのは文侯です。


魏の文侯は卜子夏ぼくしか(『論語』に出てくる子夏しかです)や田子方でんしほうなどの人物を師とし、段干木だんかんぼくという隠者を尊びました。人に礼を尽くしたのです。多くの賢者が集り、国は栄えました。


 いくつかのエピソードを紹介します。


 ある時、文侯は群臣と宴を張って音楽を楽しんでいました。突然、雨が降ってきました。その時、文侯は慌てて馬車を命じて、街の外の森へと行こうとしたのです。


「いったいいかがされたのですか、酒を飲んで楽しんでいらっしゃいますし、天も雨を降らそうとしていらっしゃいます。なぜ文侯様はおくつろぎになられないのですか」


 群臣たちが口々に止めました。


「私は虞人ぐじん(狩りの役人)と猟を約束している。楽(音楽・宴)を行っているとしても、今、虞人に申して、皆を集める約束を取りやめにしなければならない」


 文侯はこうおっしゃって、宴会の行われている場から郊外の森、狩場まで行って、虞人に伝え、狩りをやめさせました。


 付け加えますと、当時の狩りは勢子が獲物を追い立てて、三方(四方ではなく、一つの方角は獲物が逃げられるよう開けておく)から獲物を集めて狩るような大規模なものでした。準備などにも時間がかかり、それをおもんばかった文侯が、準備を急いで中止させたのです。民のことを考えたのでしょう。


 またこんなこともありました。


 韓の使者がやってきました。趙を伐ちたい、だから兵(軍隊)を貸してほしいそう使者は語りました。


「私は趙と兄弟となる約束を結んでおります、だから兵を貸すことはできません」


 文侯はそう断りました。


 今度は趙の使者がやってきました。内容は同じです。兵を借りて韓を打ちたい、そういうのです。


 文侯はまた、兄弟の国だから、そう断りました。


 はじめはどちらの国も魏を恨みました。しかしあとで対応が一貫され、嘘をつかない文侯の姿勢を知ることになりました。「ああ、魏は我々より文化が優れている」ここから韓と趙とは、争いを仕掛けてこなくなりました。これにより、魏は豊かになったのです。


 文侯は、二枚舌を使わず、率直でした。このような挿話も残っています。


 文侯は樂羊がくよう(有名な楽毅がくきの祖先)というものを将軍とし、中山国を伐ちました。勝利を収めたあと、自分の子をその土地の支配者として任命しました。


 勝利の祝宴でのことです。お酒が入り、文侯も口が大きくなっていたのでしょう、


「私はどのような君主だ」


 そう群臣に問いました。


 臣下も、お祝いの場です。


「仁君であられ、民のことをよく考えられる君でございます」


 ほとんどがそう答えました。


 その中で、任座じんざというものが申しました。


「文侯様は中山国を攻め取られ、その領土は弟様にではなく、ご子息にお与えになられました。どうして仁君であり、民のことを考えておられると申し上げられましょう」


 文侯の顔色が変わりました。周りの者も、居心地が悪くなり、それを察した任座はその場を小走りに退出しました。


 文侯は不機嫌そうにお酒を飲んでいます。


 次は翟璜てきこうという人の番でした。翟璜は申しあげました。


「文侯様は仁君で有らせられます」


「ほう」


 文侯は翟璜の顔を見つめました。


「どうしてそのようなことがわかる」


 先ほど任座が思い切ったことを申した後です、皆が心配しました。


 翟璜は答えました。


「私は『君が仁であれば、臣ははっきりとものをいうである』、そう聞いております。先ほど任座が直言を行うのをお聞きしました。このため、私は文侯様が仁君であると知ったのでございます」


 これを聞いた文侯は任座を呼び戻し、親しく出迎えて、二人を丁寧にもてなしたといいます。


 このように、魏の文侯は人から信用される人でした。そしてそのために魏は重んぜられるようになりました。


 この文侯を継いだのが武侯でした。

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