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秦の誓い  作者: rona
第1章 孝公の時代
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木を徙す(下)

 再び、読者は、秦の櫟陽れきようの都(咸陽かんようへはまだ遷都していない)の南門の横に三丈(7m程度)の木が立てかけてあるのを見るはずです。


「ふーん、そうか、そのような会議があったんですかい」


「ああ、私は改革に反対だったのだがな」


「そりゃそうでしょ、これだけ民を圧迫する改革ならば、止めさせるべきです」


「いや、そうとも限らないのだよ。この法は秦の国を強くすることを考えている。そしてきっと秦の国は強くなるだろう」


「はい?」


「問題は、民にかかる負担が大きいことだ。勤勉な秦の民はこの負担に耐え、勇敢に戦うだろう、だからこそ私はこの法を通すに忍びなかったのだ。この法を使えば、秦は大きく勢力を伸長するだろう。しかしひとたび暗愚な君主が立てば、この法を悪い方に使い、民を苦しめないとも限らないのだ」


「使いようしだい、ということですか」


すももや梅の木は、その実を多く結べば結ぶほど、次の年、不作になる。物事には限度というものがあるのだよ。多くの力を使った後は、力を癒さなければならない。このことを知らぬ君主が現れた時、困難は現れるだろう、だからこそ、心しなければならない」


 聞いていた男は考え込み、話している男の話の内容を反芻している様子でした。「力には限度がある」「力を癒す」という話は、様々なことを考えさせたようでした。


「では、この木をうつしたら、十金を与えるというのはどういうことなのですかい」


 話を聞いていた男は、ふと思い出して聞きました。なぜ木をうつすだけで金がもらえるのでしょう?


「これは布石だ。法はまだ広まっていないし、衛鞅という人を皆が知らない。今は皆、なぜこのような、木をうつせば金がもらえる、なんてことをするのだろう、そう考えている。だれもがまだ怪しんでいて、それを信じて、実行に移したものはいない。お上では、これからどんどん与える金の量を増やすことを考えているらしい」


「十金では足りないというのですか」


「そうだ、民が信じるまで、この金の額を上げるつもりをしているらしい。そうすればいつか、この『木をうつす』というお上の話を、実行に移してみるものが現れるだろう。そうすれば、きっと衛鞅はその額を支払うはずだ」


褒美ほうびですか」


「金で信用を買うのだよ。皆が利益につられ、実行をしよう、そういう気になるように、こういう布石を衛鞅という人は打ったのだ。あの人は、強い意志を持っている。冷たいと感じられる部分もあるが、その法を現実に変えていく力は賞賛に値するだろう。その歴史上の評価は、どうなるか知らないがな」


「これから、この国はどうなるんでしょう?」


「秦の国は強くなるよ。きっとどんどん強くなっていく、しかし私には、心を備えることも必要だと思うのだが……」


 櫟陽れきようの都の南門の前に、二人の男がたたずんでいました。夕日がその影を長くする頃、話していた二人は、名残惜しそうに別れました。


 話していた方の男の言っていた通り、のち、五十金の懸賞目当てに、木をうつすものが現れました。そして、衛鞅はその金を支払いました。まだまだ異論は噴出しているものの、この衛鞅の振る舞いは、徐々に商鞅(衛鞅)の変法が広まっていくきっかけになりました。


 そして、確かに秦は富み、兵(軍隊)は強くなっていったのです。


 その強くなっていく秦を、私たちはこれから目にすることでしょう。

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