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秦の誓い  作者: rona
第1章 孝公の時代
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商鞅の変法(改革・富国強兵策)

「ふーん、それじゃ、俺でもこのまま戦で軍功を立てればえらいさんになれるのか?」


 聞いていた男の目は輝きました。


「そうかもしれないが、そんな単純なものじゃない」


「この爵制は身分制なんだ。また軍制でもあり、様々な条件が付いている


 什伍じゅうご制といって、民五人を、伍・二つをじゅうという組織としてまとめ、共同生活の単位として連座させるとのことさ」


「連座?」


 男が聞きました。


「うむ、監視しあって、悪いことをしているものを発見したら報告する。報告された人間を含む九つの家は処罰され、場合によっては皆殺しにされる場合もあるらしい」


「おっかねぇ」


「西北の秦はまだおくれている。改革するための、思い切った法だ。


 密告をしたものは戦で敵の首級一つを上げたことと同じになり、爵を一つ上げてもらえるらしい。


 一方で密告をあえてしなかったものは敵に降伏したのと同じになり、処刑される。家産は没収されるらしい。またその什伍内でもめ事を起こした人間は刑罰を加えられるらしい」


「法でがんじがらめか」


「そうだ、そのとおりだ、『法』というもので民を縛ろうと、衛鞅えいおうという人は考えているのさ。


 今回の改革はそれだけじゃない、他にも法で縛ることがあるらしい」


「まだあるのかい」


「農業に力をつくし、暇なときは織物を織り、穀物や織物を多く生産する者は租税を減免する。一方で商業などで荒稼ぎを狙い、利益のみを追い求める者、怠けて貧しい者は、収容して働かせるようにしてしまうらしい」


「なんでそんなことをするんだい?」


「まず、国家の体制を整え、軍事を強くするための策なんだろう。富国強兵策だ」


「富国強兵?」


「ああ、爵制や、什伍制、法などで国内の制度を整理し、軍功でそれらの制度の中で出世できるようにする。


 衛鞅様は進言されたらしい。ここにその要旨がある」


「どれだい、読んでみてくれ」


 男がのぞき込んで、読み始めた。



『昔、いんしゅうが人を登用する制度は国の学校や地方の学校(ようじょという)一つを入り口に登用が行われていました。優れた学業を収めたものでなければ登用はなされなかったのです。しかし、今は庠・序のほかに、様々な方法で昇進するものがいます。


 登用や昇進の方法が一つではなく複数あり、基準が明確でないために、政治もばらばらになるのです。だから爵制により国の昇進の方法を一つに統一し、戦や農業によるのでなければ爵位を得ることはできないようにすれば、民は惑うことなく、豊かに生き、勇敢に闘うのです』


(『通典つてん』巻一七、選挙五、雑議論(中)により創作)



「富国強兵策か」


「確かに内政の農業(什伍制・連座制など)、軍制の爵制を整えることで、民は励み、国は富んで兵は強くなるだろう。衛鞅様は、評価は分かれるだろうが、優れた改革者として名を留めるだろう。秦は強くなる。しかし・・・」


「これは、俺たちを法で縛り付けて、国家のためにこき使おうという改革じゃねぇか」


「そうだ、そのとおりだよ、この法を決める会議は相当もめたらしい」


 男は自分も参加したその会議を思い出していました。

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